最強の攻撃の跡
「っ──!! 崩壊せよ《大地破壊》」
エリュの叫び声が森に反響した途端、大地に七メートル大の穴ができあがる。
そこに向かって飛び込んだエリュは、がむしゃらに穴の上部に風のバリアを取りつけた。
直後──穴の近くから頭が割れるような轟音と大爆発。それに加えて凄まじい衝撃がエリュを襲う。そのあまりにもの衝撃にエリュは一瞬、自分の立ち位置を見失う。
次の瞬間、一段と強い衝撃に煽られてエリュはバランスを崩して倒れ込んだ。その際、壁面に埋まっていた石に頭部を打ち付けてしまう。
「いったぁい」
チカチカと明滅する星を払うように、エリュは体を起こした。
「頭打った……」
エリュは打ち付けた部分を抑えるように、手を当てる。その瞬間、頭部に焼け付くような痛みが駆け抜けた。
反射的に手を見てみると、手のひらは鮮やかな赤に染まっていた。
「……うわ。血が──」
一瞬息を飲むが、すぐにエリュは小さく呟く。
「でも、助かった~」
死神の鎌が首筋をかすめ、ギリギリで命を拾った安堵で、体中から緊張感が湯気のように抜けていく。
エリュは息を深く吐き出すと、そのまま壁に背中を預けた。そして、視線をゆっくりと空へ向ける。
つい先程まで晴れ間だった空が、いつの間にか土砂降りの大雨に変わっていた。
先ほどのリヴァイアサンの一撃で、着弾した水弾が吹きあがったのだろう。そして吹きあがった水が雨として降っているのだ。
それほどの攻撃が放たれたということは、周辺の地形は大きく変わっているだろう。
一方で、穴の中の被害は軽微だ。穴に飛び込む直前に万が一で張った風のバリアが雨や流れ込む水を弾き、穴の中への水の侵食は一切ない。
だがたったの一撃で、天気すら変えてしまうその力は、エリュを恐怖させ小さく体を震わせた。
「やばすぎるって……」
呟いた直後、視界の外で何かが動いた。
「誰っ!」
素早く動きのあった方に顔を向ける。そして、ほっと溜息を吐いた。
「なんだ。レーンか」
「驚かせたならごめん。でも──エリュはすごいね。あの一瞬で地面に穴を掘ろうなんて、私なら考えなかった」
「そんなことない。レーンだって思いついた。魔法さえ使えたなら同じことをしていたよ。っていうかさ、いつこの穴に飛び込んだの? 俺が穴を作ったのって本当にギリギリのタイミングだったと思うけど」
「エリュが穴に飛び込んだすぐあとだよ。私も近くを走っていたから」
記憶にある限り、レーンはエリュの近くにいなかったような気がする。少なくとも声は遠くから聞こえていたはずだ。
「う~ん。そう……かな? まぁ、レーンがここにいるってことは、そういうことなんだろうね。頭が痛くてあんまり考えられないや」
エリュは首を小さく横に振ると、壁に手をついて立ち上がった。
「一旦出ようか」
エリュは魔法で土の階段を作り、ゆっくりと穴の外に顔を出した。
「……なんだ、これ」
さきほどまで、この辺りは綺麗な湖畔と森があったはずだ。
しかし、今視界に広がるのは、かなりの広範囲まで広がった沼地だった。さらにエリュの掘った穴から数十メートル先には、巨大なクレーターができており、そこに濁った湖の水が流れ込んでいる。
「たった一撃で……」
そう呟いた直後、エリュははっと息を飲んだ。
「セレスは⁉」
沼地となった周囲を見渡すが、セレスの姿は見えない。セレスを隠した木陰の辺りも泥沼と化しあとには何も無い。
「……嘘、だろ」
距離が離れていたとはいえ、こんな爆発に巻き込まれて生きているとは思えない。
エリュが掘った穴には風のバリアがあったため、雨や水は弾けていた。だが、水弾の着弾直後は、強烈な津波が周囲を飲み込んだはずだ。
逃げる時、極力セレスから離れはしたが、周囲の木々のように彼女は波に飲まれただろう。
「くそ……あの時、無理にでも引っ張ればよかった」
エリュは震える手を握りしめ、地面に拳をぶつけた。泥が跳ねて顔に掛かる。それでも構わずもう一度拳を地面に叩きつけた。
「エリュ。大丈夫だよ」
レーンの気を遣うような声がエリュのすぐ隣から聞こえた。普段ならうれしくなる彼女の声もこの瞬間だけは、エリュの怒りに触れた。
「何が大丈夫なんだ! 俺の判断ミスで人が死んだんだぞ!」
と、叫びながらレーンを睨むと、彼女が崖側を指さしているのが見えた。その指先の差す場所には、底なしの断層のそそり立つ壁の近くに座礁したセレスの姿。
「っ! い、生きてる?」
「うん。少なくとも呼吸はしてる」
それを聞いてエリュはほっと安堵の息を吐いた。だが、それはわずか一瞬で、すぐに顔を上げたエリュは真剣な顔でレーンを見た。
「なら、早く助けないと。あの化け物をどうにかできればいいんだけど……」
「待って?」
非難がましいレーンの声が耳に届く。
レーンの方を見れば、聞こえてきた声色と同じようにエリュを非難するような視線をレーンは向けていた。
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