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災厄の化身:リヴァイアサン

「な、なんだ……あれ」

 湖の中央から、直径二十メートルほどもある巨大な魚影が現れた。魚影は真っすぐ岸側、セレスの方へと迫っている。そして、セレスは逃げることもできずにその場で腰を抜かしていた。あの様子では、逃げ切るのは難しいだろう。


 一方、エリュも同様に動けなかった。まるで足が沼に嵌まったかのように、立ち尽くしている。

 その間にも、魚影はセレスの方へじわじわと近づいていく。もう数秒もしないうちに、魚影はセレスのもとにたどり着いてしまう。


 と、その時──

「エリュっ行って!」

 隣にいたレーンが力強く叫んだ。


 その声に弾かれたように、エリュは駆け出した。しかし、先程までの躊躇が、魚影に距離のアドバンテージを与えてしまった。

「くそっ。間に合わない」


 どう足搔いても間に合わないと悟ったエリュは足を地面に突き立て、ピタリと立ち止まる。だが、その瞳からは光は失われていない。

 エリュは強い意志を込めて魚影を睨みつけると、片足を高く上げ、地面を力強く踏みしめた。


「吹きあがれ《天昇アスケンスス》」

 その叫びが、荒立つ湖畔に響き渡ると同時に、湖面が大きくざわめき始めた。わずか一秒足らずの間に、湖面は大きな波となり、渦を巻きながら水上へとせり上がっていく。


 まるで竜巻が発生したかのような光景だ。そして、渦は徐々に巨大化していき、轟音をかき鳴らした。あっという間に渦は数十メートルの巨大な嵐へと変貌する。

 巨大な魚影も水流の流れに巻き込まれ、竜巻に引き寄せられていく。

 しばらくの間抵抗している様子だったが、数秒もしない内に魚影も竜巻に巻き込まれ、空へと昇っていった。


「…………」

 あまりにもの光景にあんぐりと口を開けてエリュは固まる。発現した魔法は、エリュの想定よりも五倍以上大きかった。


「なに……これ」

 呆然とするエリュは、魚影が巻き上がる光景をぼーっと見ていたが、すぐにそれどころではないと思い出した。

「いまのうちにセレスを助けないと!」


 エリュはセレスの元へと駆け寄る。そして、全裸でしゃがみ込んで震えるセレスに自分のジャケットを着せ、彼女の手を引いた。

「行こう! ここから離れるんだ」


 しかし、セレスは恐怖のせいか、びえびえと泣きながら立ち上がらない。仕方がないので、無理やり引っ張り起して、手を引き、近くの木陰に向かって駆けた。

 木陰にたどり着くと飛び込むように身を潜め、竜巻の方を見る。


「……なんだ、あの化け物」

 魚影は地上に出てきたことで、姿がはっきりと認識できた。

 蛇のような長大な体。全身を覆う鱗は打たれた鉄のように光沢し、巨大な顎は村の家を一軒丸呑みにできるほど大きい。尾は発達しており、水面に叩きつけるだけで巨大な津波を引き起こせそうな大きさをしている。


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 リヴァイアサン

 総合戦闘ランク:A

 力:B432 耐久:B282 器用:A412 敏捷:B309 魔力:A380

 特徴:深水の深い水中に生息している水の王。ドラゴンの一種とされ、巨大な波や猛烈な水流を操る能力を持っている。水中で戦闘を行う場合は、総合戦闘ランクはS以上必要。

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「やばいやばいっ」

 エリュは座り込んで、木の幹に体を擦り付けるようにして身を隠す。

 大骨人ジャイアント・スケルトンとの戦闘では、隙と弱点をついて勝利を収められた。だが、こちらのリヴァイアサンに関してはまるで勝てる気がしない。


 そもそも、Aランクの魔物を討伐するには、中級魔法の使用できる兵士が数百人は必要だ。

 つまり、Aランクのモンスターとの戦闘は『戦闘』ではなく、『戦争』といった言葉が適切になってくる。


 目の前にいる化け物は『戦争』が独り歩きしているような怪物なのだ。

 魔力値がEに片足突っ込んだ程度のエリュでは、どんなに逆立ちしても勝てるわけがない。


「逃げないとっ」

 エリュは逃げようと立ち上がり、水上の竜巻の上で鎮座するリヴァイアサンの様子を確認した。


 その時──エリュとリヴァイアサンの視線が交錯した。

「やばっ……」

 心臓が爆発したと錯覚するほど、強く鼓動した。同時に思考が加速する。


「セレス! どこかへ逃げて! 俺ができるだけ引き離す!」

 それだけ叫ぶと、プルプルと震えるだけのセレスから一心不乱に駆けて離れた。次の瞬間、空を舞っているリヴァイアサンは顎を大きく広げる。


 大きく開いた顎には、巨大な水球が溜まっていく。そこに溜まっていく巨大な水球は、エリュを絶望的な気持ちにさせた。 なぜなら、エリュの総魔力を遥かに上回る魔力がそこに込められていたのが分かってしまったからだ。

 直撃しなくても爆風だけで体がバラバラになる。それを想像するのは難しくなかった。


「エリュっ! 森の中にっ!」

 レーンの鬼気迫った声が遠くから聞こえてくる。


 それを聞いたエリュは、迷わず木々の中へ飛び込んだ。そして、リヴァイアサンの視線を切ろうと木々に身を隠す。

 だが、リヴァイアサンはエリュの魔力を補足しているようで、視線がエリュから離れない。そして、満を持してリヴァイアサンから水球が放たれた。


 背後からとてつもない速度で何かが迫っているのを感じる。

「っ──!! 崩壊せよ《大地破壊フォッサ・テルリス》」


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