死闘の末
数秒後──
「来るっ」
硬い声色でエリュが言った瞬間、自身と見紛うような地響きが響いた。あまりにもの揺れの大きさにエリュとセレスはバランスを崩す。
そして、二人は盛大に尻もちをついた。
同時に、穴の底から光の柱が立ち上がった。それを見てエリュは小さくガッツポーズをする。
「よしっ! 罠にかかった!」
エリュは立ち上がって急いで穴に駆け寄る。そして、恐る恐る穴の中を覗いた。
「ん? なんか小さくなってるな」
穴の底にいた大骨人は地上を歩いていた時より、明らかに小さくなっていた。
よく見れば、大骨人の足は砕けている。どうやら聖力によって浄化され、脚部は砕けてしまったようだ。
「本当に聖力に弱いんだな……こんなにあっさりと決まるなんて」
エリュは関心混じりに呟いた。その瞬間、声に反応した大骨人はエリュの姿を捕らえたようで、骨だけの手を伸ばしてきた。
しかし、骨の手は穴の壁面に触れた途端、ボロボロと崩れていく。
「壁にも聖力が含まれたのか……」
「うわ~。苦しそう……」
いつの間にかセレスはエリュの隣に立っていた。そして、穴の底で足掻く大骨人を憐れみの眼差しで見つめる。
しばらくそうしていると、唐突にセレスがエリュの服の裾を引っ張ってきた。
「ねぇ。とどめ……さしてあげてよ」
「そうだね。魔物でも無駄に苦しませるのは良くないね」
エリュは腰に差していた鉄の剣を引き抜く。そして柄から剣身まで聖力を纏わせた。剣の周囲には青白い光が纏っている。
「エリュちゃんって、聖力を剣に流せるんだ」
「うん。お姉ちゃんに教えてもらったんだ」
自慢げに空で剣を切ると、エリュはそのまま穴の底へ飛び込んだ。そして、剣を大骨人の頭部に突き立てる。
──ガキンッ
火花が散り、剣の弾かれる音が響く。だが、剣を覆った聖力は剣先から頭蓋骨へと広がった。まるで頭から水を流した時のように、聖力はゆっくりと落ちている。
それに伴って、剣を突き立てた場所からヒビが拡大していった。
「エリュちゃん! こっちに飛んで!」
穴の縁からセレスが手を伸ばして言う。
それを見て、エリュはセレスの方に手を伸ばしながら飛んだ。
一瞬、宙を舞ったエリュは、セレスの手を掴む。
「セレスっ。引っ張り上げてっ」
「わ、分かった。すぐに引っ張ってあげるからっ」
セレスは顔を真っ赤にして踏ん張る。本人は随分と非力なようで、そうしていてもあまりエリュは持ち上がらなかった。
だが、空いた手が穴の縁に届いたので、エリュはそこから這い上がった。
「……ありがと」
「気にしないで、一緒にここを脱出するって約束したでしょ」
セレスは微笑んで、穴の底を覗く。続いてエリュも穴の底を覗き込んだ。
「灰……しかないね」
穴の底には、大量の白いしか無かった。どうやら大骨人は完全に浄化されたようだ。
「や、やった……倒した!」
興奮してエリュは歓喜の声を上げた。その隣で、セレスもホッとして座り込んでいた。
「よ、よかったぁ~。死んじゃうかと思った」
「だね。だけど、俺達の作戦勝ちだよ。体調の方は大丈夫?」
「うんっ平気! なんだか、さっきより、力がついた気がするし」
元気よく言ったセレスは、先ほどよりも気力が充実しているように見える。
それが気になってエリュは鑑定を使用する。すると、彼女の才能値が全体的に向上していることが確認できた。
「魔物を倒すと強くなるって本当だったのか……。じゃあ俺も──」
エリュは、続けて自分自身に鑑定を使用した。すると、魔力値だけF90からE120に伸びているのを確認できた。残念ながら他のステータスは一切伸びていない。
「でも……魔物を倒せば強くなるなら──生きてここから脱出できるかも」
希望を見つめ活気づいたエリュの側に、申し訳無さそうな顔をしたレーンが近づく。
「どうしたの? 辛気臭そうな顔して」
「ごめんね。負担かけちゃって」
「気にしないでよ。病気なら仕方がないし、自分の身を守ることを大事にしてよ。レーンの分も俺が強くなるから。安心して」
「そうだね。エリュならきっとできるよ」
レーンはまるで子どもを見るかのような眼差しで、エリュに向けて嬉しそうに微笑む。
その温かな眼差しを向けられた瞬間、エリュの心臓は強く跳ねた。自分でも自覚できるくらいに顔を真っ赤にしたエリュは、自身の異常を悟られないように俯いた。
その直後、セレスがエリュの異常に気がついたようで、陽気に顔を覗かせてきた。
「なにしてるの?」
「っ──‼ い、いや。なんでもないよ」
プイと顔を逸らしたエリュは、わざとらしく大きな咳払いをした。
「も、もう行くよ」
「あ、待ってよ~」
セレスが慌ててエリュの背を追って駆け寄る。その後ろをレーンは微笑まし気に笑いながらついてきた。