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森の巨人

 ドラン大森林深部の探索方法は、結論から言うと意外なほど単純だった。

 なぜなら、どこへ行っても全方位にそびえる巨大な岸壁が視界に入るためだ。そのおかげで、一般的な遭難原因である方角の見失いは起こらない。


 夜になれば状況は一変するだろうが、今はまだ太陽が高い位置にある。

 日が沈む前に洞窟を見つけるつもりだ。だが、これまでの探索は順調そのものだった。

 そして、探索開始から三〇分が経過した頃、後方から鋭い声が響いた。


「え、エリュっ!」

 突然の叫び声に、エリュたちの足が止まる。

「急にな──に?」

 振り向いた瞬間、視界に飛び込んできたのは──紛れもない化け物だった。


大骨人ジャイアント・スケルトン

 総合戦闘ランク:B+

 力:A(420)耐久:C(270)器用:A(405)

 敏捷:C(272)魔力:B(348)

 特徴:数多の死者の怨念が集まってできた大型モンスター。パワーの高さに反して、光と聖気に弱く、弱点攻撃を長時間受け続けると体の崩壊が始まるのが特徴。

 備考:該当モンスターを討伐するのに要する戦力は、中級魔法の使用できる兵士五百人相当


「なんだ、あれ……」

 周辺に生えた木々よりも大きな骸骨が、ヤブをかき分けるように木々をかき分けながら歩いている。


 つまり、大骨人ジャイアント・スケルトンの大きさは二十メートルを超えている。

 エリュ達など、片足で蟻のように踏み潰される大きさだ。

 しかし、その大きさがエリュ達の味方をした。


 樹木の葉よりも高い大骨人ジャイアント・スケルトンには、エリュ達のことが見えていないようだ。それでも、生者の気配を察知しているのか、何かを探すような動作を行っている。


「隠れてっ!」

 エリュは大骨人ジャイアント・スケルトンには届かない程度の声で言うと、そのまま木の影に身を潜ませた。レーンも続いて近場の木の陰に身を隠した。


 しかし、セレスは恐怖で呆然としているのか、大骨人ジャイアント・スケルトンをぼけーっと見つめたままだ。


「何してるんだ。セレスっ!」

 慌てて彼女のもとへと駆け寄ると、セレスの手を掴んでエリュは再び木の陰に隠れた。

 そして、レーンの方を向く。


「れ、レーン。あんなのどうやって倒せって言うんだっ!」

「倒す必要はない。逃げれば──」


 レーンは躊躇いがち呟いた。だが、すぐに首を横に振り、自ら否定する。


「いや、明らかに生者の気を追ってる。逃げても無駄。倒すしかない」

 彼女は小さく息を吐きながら続けた。

「罠に嵌めるとか、どう?」


 レーンの状況判断は適切だった。その提案を受け、エリュも頭を巡らせる。


「罠を仕掛けたとして、どうやって倒すの? 嵌めただけじゃすぐに逃げ出されるんじゃないかな?」

「落とし穴に嵌めて、這い上がる前に穴の上から攻撃。攻撃は光魔法と聖力がいい。這い上がったら逃げて、もう一度同じ落とし穴に嵌める。知性はないから多分大丈夫。そして、倒れるまでこれを繰り返す」


 レーンは数多の苦境の超えた策士のように素早く解を提示した。

 同時にレーンの言葉に重ねるようにセレスも口を開く。


「……私には分からないよ。自分で考えてっ」

「はぁ? なんで怒ってるんだよ」

「あなたが無理難題を吹っ掛けてくるからでしょ!」

「別にセレスには聞いてなかったんだけど……」


 レーンとの計画立案中に突如噛みついてきた彼女にエリュは訝しんだ目を向ける。

(そういえば、ステータスに【アホ】とか色々書いてたよね。……関係あるのかな?)


 内心そんなことを思いつつ、エリュは頭をガシガシと掻いた。


「とりあえず、あの化け物を倒す方法をみんなで考えよう。落とし穴を仕掛けるっていうのは、かなり有用だと思う。問題はバレずに罠を設置できるか……ってところだね」

「そんな話してたっけ?」


 そんな事をセレスが言うので、思わずエリュは睨みつける。

「話は聞いてってば」

「ご、ごめん。でも、それいい案かも」

 セレスも賛同したので、レーンの立てた作戦を実行することにした。


「それじゃあ──」

 エリュは呟きながら、適当な枝を拾って地面に周囲の地形を描いた。


「俺の魔力量からして、そこまで派手な魔法は使えない。奴の入る大穴一つくらいなら作れるけど、残った魔力で倒せるかどうか……」


 エリュのつぶやきにセレスも悩ましげに顔を伏せる。

「私達の攻撃なんて、豆鉄砲みたいなものだよね。弱点を突いても、倒せるのかな?」

「……うん。能力に開きがあり過ぎる。落とし穴に嵌めてできるだけ遠くに逃げるっていうのでもいいかも。ただ、どこまでも追われるリスクがある」

「なら、やっぱり倒すしかないよ」

「だね。なら、魔物が凶暴化する日没前に倒したい」


 そんな話をしていると、ずっと顎に手を当てて考え込んでいたレーンがパッと顔を上げた。

「それじゃあ一つ。今思いついたアイデアだけど聞いて」

 レーンはそう言って、説明を始めた。


 レーンの作戦はこうだ。


 一、大骨人ジャイアント・スケルトンが登ってこられないような巨大な落とし穴を魔法で作る。


 二、落とし穴の中に踏むと起爆する光魔法の罠を設置する。


 三、落とし穴の準備ができたら実際に大骨人ジャイアント・スケルトンを罠にかける。仕掛けた罠を大骨人ジャイアント・スケルトンが踏むと起爆する。すると大骨人ジャイアント・スケルトンは怯むので、その隙にセレスと一緒に落とし穴に聖力を満たす。


 四、他の魔物が来る前にエリュが魔法や聖気での攻撃を行い、早期討伐を目指す。


 というのが概ねの作戦だ。


「つまり、毒を使ってあの化け物を殺すってわけ」

「聖力は不死者アンデッドに対しての毒……なるほどね。それなら、力の差も魔力も関係ないもんね。掘った穴に聖力が貯まるはずだし……うん。いけるかも」

「でしょ?」


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