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脱出手段はある。だけど……

「大丈夫。俺の魔法の師匠が来てくれたよ」

「へ? 何処に?」

「ん? そこにいるだろ?」


 エリュがレーンの立つ場所を指差すと、セレスは一瞬眉をひそめた後、エリュとその指先を交互に見て、不安そうに小さく頷いた。


「う、うん。いる……ね? あの人、かっこいいね」

「かっこいいかな? 三年前からまるで成長してないし、かなり可愛い美人な人だと思うけど」

「いや、ほらっ、佇まいというか雰囲気が」

「う~ん。そうかも?」


 女の子の感性はよく分からない。

 レーンはどちらかと言うと美人系だし、かっこいいというより可愛い印象が強い。

 男女で感性が異なるのだろうかと、エリュは思いつつ一応頷いた。


 しかし、その反応にレーンは不満げに眉をひそめ、冷たい眼差しをエリュに向ける。彼女の眼差しには、初めて会ったときのような冷徹さが宿っている。

 それに気がついたエリュは、慌てて両手を振った。


「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃん」

「うるさい。あんまり育ってなくて悪かったね。ってそんなことはどうでもいいの……それよりもここが何処だか忘れてる?」


 レーンの言葉を聞いて、エリュはようやくこの場所がどこであるかを思い出した。


「自警団に入る時、お姉ちゃんに嫌ってほど聞かされたよ。入った者は決して楽な死に方はできず、恐怖と後悔の中で息絶える。この世の地獄。その悪名は遠い王都にすら届き、子供のしつけ話にも使われる──ドラン大森林。その深部」

「ひっ」


 エリュの腰にしがみついていたセレスは、さらに力を込めてしがみついた。

 どうやら彼女もドラン大森林の深部を用いて脅された記憶があるのだろう。


 噂では、王都の子供たちは、ドラン大森林の深部に迷い込んだ冒険者の悲惨な冒険譚をよく読み聞かされているらしい。そのため、王都の子供はドラン大森林の深部と聞くだけで震えてしまうそうだ。


 実例が目の前に出てきて感心する気持ちがあったが、エリュはレーンから視線を逸らさず真っすぐに彼女を見つめる。

 普段は余裕のありそうな彼女の瞳には、余裕はあまりないように見受けられた。


「そう。ここは強力な魔物が跋扈する魔境。独自の生態系で、ここの魔物は代を追うたびに強力になっていく。文字通り人知を超えた世界。……どうするエリュ」

「い、一緒に力を合わせればなんとか村まで戻れないか……な? レーンも一緒に戦ってくれれば──」


 エリュが言葉を言い終える前にレーンは首を横に振る。


「……ごめん。こんな事態になって初めて開示するけど、私は魔力欠乏症って病気を患ってるの。今の私には魔力が練れない。だから戦闘面で役には立たないと思って欲しい」


 レーンは申し訳無さそうに頭を下げた。

 だが事実として、この三年間、彼女が魔法を使うのを見たことは一度もない。


 エリュとの修行期間中もレーンは魔法の理論や感覚の説明に留め、自分で魔法を使うことは一度としてなかった。

 それを不思議に思ったことは一度や二度ではないが、その情報が彼女の正体に繋がる可能性もあったため、安易に聞くことはできなかった。


「そうか……そういう理由だったんだ」

「な、何が?」


 セレスが突然エリュに問う。


「今の話を聞いてなかったの? ここはいつ死んでもおかしくない魔境なんだよ? 情報は漏らさずに聞いて欲しい」

「ご、ごめん……で、なんだっけ?」


「だから、俺の師匠、レーンは魔力欠乏症で魔法が使えないから魔物との戦闘には参加できないって話」

「あ、あぁ。その話ね。ごめん聞いてた」


 セレスは自分の頭を軽く叩いて、真剣な眼差しをエリュに向ける。


「それよりもレーンって……」

「レーンがどうした?」

「あ、いや。なんでもない。ごめんね。話を戻して。ここからどうする?」

「そうだね……」


 エリュは底なしの断層の壁面をなぞるように遠くまで目を凝らす。


「ひとまず、この森を抜けよう。崖に沿って進めば迷うことなく森から出られると思う」


 この場所からでは、枝葉に隠れて断層の先がどうなっているのかよく見えないが、進み続ければ、いつかは森の外へと繋がっているだろう。

 確証はないがそんな漠然とした予想を胸に秘めて言った。

 しかし、エリュの隣でレーンは首を横に振る。


「ここは大地が丸ごと陥没した土地だから、いくら壁沿いに歩いても一周するだけだよ。一応、近くにある湖は地下に繋がってて、そこから海に出られるらしいけど……どうする?」


「海って……すごく遠くにあるじゃん。仮に湖の水が海と繋がってても溺死しちゃうよ。他の手段を考えよう。崖を登るとか空を飛ぶは──壁が高くて無理力も魔力もない。助けを待つ──来る保証がない。他にはえ~と。……ない」


 考えた先からアイデアが潰えていく。

 それでも何かないかと、知恵熱が出るほどに考えていると、セレスがエリュの服の袖を軽く引っ張った。


「ねぇ、エリュ。あのね、私、お父様がドラン大森林の深部には、王家の秘宝が眠っているって言ってたの聞いたことある。その秘宝の側には王城に繋がる転移門があるとか」

「転移門?」


 エリュが首を傾げると、話を聞いていたレーンが口を開く。


「エリュ。魔法を使うには【魔力】を使って【魔素】に影響を与えないといけないよね?」


 レーンが話しているのは、魔法を学ぶ上での基礎的な知識だ。そのため、特に詰まることなくエリュは頷いた。


「魔素は不可視の物質だから見えないし、触れられない。だけど魔力を使うと、エリュが触ってない離れた場所で魔法が生まれるよね?」


 レーンの説明にエリュは再び首を縦に振った。

 一方のセレスは、ちんぷんかんぷんといった表情でエリュを見上げている。レーンはセレスに理解させるつもりがないらしく、エリュを見て説明を続けた。


「つまり、『魔素は、距離に関係なく魔法使用者の魔力に影響される』ってことになるの。もちろん、遠く離れた場所で魔法を使おうとしたら、大きな魔力が必要になる。だから、世界最大の魔力があれば、星の裏側にいる人にも攻撃ができるわけ。この時、魔法の発生地点と魔法使用者はある種のパスで繋がるの。分かる?」


「うん。何度も聞いたよ。レーンの言ったことを忘れる訳が無い」

 エリュの言葉にレーンは嬉しそうに微笑むと、満足げに口を開いた。


「転移魔法は、今話した魔力と魔素で繋がったパスを使って空間同士を繋げる理論に基づいているの。この理論によって魔法発動者は、離れた空間同士が繋がっていると世界に認識させて、瞬時に別の場所に移動できる。つまり、転移門っていうのはこれを機械的に行う装置のこと」

「なるほど」


 完全に納得したエリュと違い、レーンの説明をまるで聞いていないセレスは、何故かエリュの方を不安げに見つめていた。


「あ~つまり、転移門は魔力とか才能とかがなくても使える瞬間移動装置って訳だね?」


 話を理解していなさそうなセレスのためにエリュはレーンとの話を要約して言った。

 その言葉にセレスはコクコクと何度か頷いた。


「うん。どこにあるかは分からないけど、それがあれば帰れると思う」

「一応聞くけど、転移門は本当にあるんだよね?」

「うん。絶対に聞いたよ。間違いないから安心して!」

「そっか。なら探そう。何日掛かるか分からないけど、君たちを絶対に家に帰してみせる」


ブックマーク・感想・星などなどいただけると嬉しすぎます。

できるだけ面白いものを書きたいと思っているのでよろしくお願いします

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