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終わりの始まり

 そんな事を考えていると、恐怖で顔と体が硬直してしまった。

(で、でも。まだ男ってバレてない! 話題を逸らさないと)

「え、えっと……どうしてこんなところにいるの?」


「道に迷っちゃったの。ちょっとだけ散歩するつもりだったのに……ここどこ?」

「村からは大分離れてるけど。もしかして方向音痴だったりする?」

「いやいや~。そんな訳ないよ~。ちょっとリュナンの木を探してるだけだし、私は全然迷子じゃない!」


 そう言ってあざとく笑う少女。だが、だんだんとその表情も曇ってきた。

「でも、お父様とかには、家の中を一人で出歩くなって言われるかも。迷子になっちゃうから」


「い、家の中で?」

「変かなぁ。普通だと思うんだけど。だって家大きいし」

「そ、そうなんだ。と、とにかくえっと……リュナン村に戻れればいいのかな?」

 エリュがそう言うと、少女は目を丸くした。


「あなた、リュナン村の人?」

「うん。だから案内できるよ」

「ホント⁉ じゃあお願いっ!」

 天真爛漫に笑う少女の人柄の良さに心地よさを覚えながらエリュはくるりと反転した。


「じゃあ、俺に付いてきて。こっちだよ」

「うん! それにしても──」

 変な所で言葉を切った少女が気になってエリュは振り向く。

「なに?」


「あなたなんだか男の子みたいな話し方するんだね」

 ──ギクッ

 そんな擬音が聞こえそうなほどに身体をビクリと震わせたエリュは、そのまま、ギクシャクと硬い動きで首を横に振った。


「き、気の所為だよ。周りに男の人ばかりいるからだと思う」

 先程よりも数段高めの声を作ってエリュは言った。

 それを聞いた少女は、関心した様子で両手を合わせる。


「なんだかそれって凄く大変そう。私なんて執事とお父様、お兄様としか男の人と話す機会がないし、社交界でもあんまり話さないもん」

「そ、そうかな。慣れたら普通じゃないかな」

 エリュは必死に笑顔を取り繕いながら歩く。


 一方の少女はエリュの隣を歩きながら興味深そうに森の方や崖下を観察しており、好奇心がとても強い子のように見える。

 しばらく歩いて、エリュは少女に一つ聞きたいことがあったことを思い出した。

「ところで、さっきはなんで服を脱ごうとしてたの?」

「……やっぱり見えてたんだ。恥ずかしいなぁ」


 そう言って、顔を赤らめた少女は逃げるように視線を森の方へ向けながら口を開いた。

「リュナン村からここまで遠いでしょ? だから汗でベトベトしちゃって流したかったの」


 分かるでしょ? と続けて言いながら少女は恥ずかしそうに俯く。

「まぁ……分かるけどさ」

 と、エリュは一応の同意を示した。

 その直後、背筋を電撃が走り抜けるような感覚に見舞われた。

「っ!」


 エリュはその場で足を止めると、素早く周囲を見回す。少女もエリュが足を止めたことに気が付き、一拍遅れて足を止めた。

「なに? どうしたの?」

「いや……なんか、嫌な予感がする」


「そうかな? 気の所為だよ。森が暗いからだと思う」

「いや、前に魔物と遭遇したときも似たような感じがあった」

 声を潜めたエリュが言うと、エリュの言葉を信じた少女も腰を落とした。


「な、何がいるの?」

「分からない……あっ」

「何?」


 泣き出しそうな声をあげた少女はエリュの袖を掴む。

 エリュは、掴まれた方とは逆の手で森の方へと指を伸ばした。その先には、倒壊した木々と裸足の人間のような足跡があった。

 しかし、大きさだけは人間のサイズではない。


「ね、ねぇ。あれなに?」

「魔物の足跡……だね。しかも大きい。足だけで俺の身長くらいある。しかも、さっきまでこんな足跡無かった」

「ど、どういうこと?」

「近くに巨大な魔物がいるってこと」

「え? 嘘っ⁉ な、なんとかしてよ~」


 少女は声を震わせてエリュの袖をグイグイと引っ張る。

「なんとかしてって言われても……とりあえず早く帰ろう」


 立ち上がったエリュは歩を早め、リュナン村へと急ぐ。

 しかし、少女の方は普段あまり運動をしないせいか、小走りになっても歩くのが遅い。加えて三〇〇メートルも進まないうちに息切れを起こした。


「ちょ、ちょっと待って……歩くの早いよっ」

「えぇ……」


 いくらなんでも運動不足が過ぎるだろ、と内心思いながらそれでもエリュは足を止め少女の近くに立って周囲を見回す。

 少女の息が整う時間が妙に長く感じる。

 永遠にも思える数十秒後、ようやく少女が顔を上げた。


「ありがと、急ごっ」

 エリュは小さく頷くと、再び歩き出す。今度は先程よりもペースを落として、視界の取れない森から離れるようにして底なしの断層の縁を歩いた。

「ねぇ。魔物は? どこにいるの?」


 隣を歩く少女は不安そうにエリュに声を掛けてくる。

 しかし、エリュの方は森の方に耳を傾けることに集中しており、少女の言葉は雑音としてしか入ってこなかった。


「ね、ねぇ? 聞いてるの?」

「…………」

「ねぇってばっ!」


 少女が突然大きな声を出し、エリュの集中は途切れる。

「ごめん……なんだっけ?」

「だから、魔物はどこにいるのって聞いてるのっ!」

「そんなの分かるわけがないじゃん。でも近くにいることは──」


 エリュの言葉はそれ以上続かなかった。

 なぜなら、少女の質問の答えがエリュの眼の前で示されたからだ。

「やばい……」


 どうやら探していた魔物は木々の影に隠れるように横になって寝ていたようだ。だが、少女の大声で起きてしまったらしい。


 少女の背後。エリュの正面でムクリと起き上がる魔物は、小山のような大きさの巨人だった。周囲の木々を優に超えるその大きさは、推定で十メートル以上にも達し、その巨大さだけで恐怖したエリュの足は震えてしまった。

「キュクロプス……」

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