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7.友達


「ただいま。」

「お邪魔しまーす!!」


 妹は玄関の一番近くの部屋で寝ていたが、大きな声で目が覚めた。


 大学生の兄は夜な夜などこかへ遊びに行き、明け方に帰ってくることが多かった。父も母も妹もそんな兄の行動に慣れていたが、今日は友達を連れて帰ってきたらしい。廊下を歩く音を聞きながら、妹は時計を見て目を閉じた。


(朝5時・・・こんな時間に友達を連れて来るなんて、私だったら無いわ。)


 起きてすぐに兄の友達と顔を合わすのが面倒だと感じ、もう一度寝ることにした。2人分の足音が2階へ上がるのを聞きながら眠りに落ちた・・・。






 陽が高く登り、ゴミ収集車が道路を走る音で目を覚ますと、リビングへ向かった。

 朝食を食べていると、兄がひとりで降りて来た。


「おはよう。朝帰りなのに、起きるの早いじゃん。」


 兄は妹を無視して朝食のパンを取り椅子に座って食べ始めた。「あれっ?」と思い、声を掛ける。


「友達の分は持っていかなくていいの?」


 返事を聞く前に、母がやって来て兄に尋ねた。


「目玉焼き、食べる?」

「うん。」


 会話はそこで終わってしまった。そのまま様子を見ていると、淡々とした休日の風景が進んでゆく。兄の友達が来ているというのに、母は普段通りの行動を取っている。いつもだったら「ご飯は食べて行くの?」と尋ねるのに、今日は何故聞かないのだろうか。



 友達は、もう帰ってしまった?



 その方がしっくりくるような家族の動き。妹は、朝来たばかりなのにすぐに帰ってしまった友達を変に思った。一瞬休むために、実家暮らしの友人の家に立ち寄るだろうか。

 それとも、友達はまだ兄の部屋で寝ているのかもしれない。起こさずに、兄だけが朝食を取りに来たのだろうか。もしそうだとしたら、余分に朝食を取ったりすると思うのだが、兄はそんな素振りを見せなかった。


 食べ終わると、手ぶらで2階に行ってしまった。


 兄の友達がいるような気がして、妹は大きな音を立てたり2階のトイレは使わないようにするなど気を遣って過ごした。

 昼前になり再び兄がリビングに降りて来た。


「ねぇ、友達は帰ったの?朝友達と帰って来たよね。」

「うん?何言ってんの?」


 肯定も否定もしない。予想とは違う返事をするので、妹は戸惑った。

 母がリビングにやって来たので兄の友達が来ていることを確認すると、怪訝な顔をされてしまった。


「朝早くに帰って来たのよ。友達なんか連れてくる訳ないじゃない。寝ぼけてたんでしょ。」


 言われてみれば早朝5時頃に「お邪魔しまーす!!」と大声で友達の家に上がるのは、よく考えてみたらおかしいということに気がついた。



 勘違いだったのだろうか・・・



 だが妹の耳には、兄と、兄の友達であろう人物の声が、しっかりと耳に残っている。



「ただいま。」

「お邪魔しまーす!!」



 明るくて、意気揚々とした、元気のいい声だった。


 あれが幻聴?

 そんな風には思えない。

 じゃあ、あれは誰の声だったのだろうか。



♦︎



 1週間後。兄と妹で会話をしている時だった。兄が大学の友人達と心霊スポット巡りをしていることが分かり、妹の返事がなくなった。不審に思った兄が妹の顔を見ると、何かに怯えている顔をしていた。


「お兄ちゃん、そういうのはもう行かない方がいいよ。」

「なんで?」


「先週の朝に帰って来た時、連れて帰って来ちゃってるよ。」

「・・・は?」


「お兄ちゃんが『ただいま』って言ったあと、すぐに『お邪魔します』って声がしたんだよ。」

「そういえば、そんなこと言ってたな。でもお前が寝ぼけてただけだろ。怖いこと言うなよ。」


「それだけじゃないの。気づいてないの?」

「・・・なにが?」


「お兄ちゃんが歩いてると、足音が一人分多いんだよ。夜も、誰かと話してる声が毎晩聞こえるし。お兄ちゃんはいつも、誰と一緒にいるの?あの日一緒に帰ってきたのは、友達じゃないなら、誰だったの?」


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