4.片付けない家
「月見里さん、近所からゴミを片付けてくださいって、クレームが来てますよ。」
「俺の家をどうしようが、俺の自由だろ!」
お父さんのおこってる声が聞こえる。いつもやさしいのに、どうしたのかな。ドアのすきまからこっそり見ていると、うしろにはお母さんが立っていた。
「そうかもしれませんが、片付けてください。ひと月したら、また来ます。それまでに半分は片付けて下さい。」
いつものおじさんたちは帰っちゃった。かくれていた弟や妹も、わたしのうしろからお父さんを見ていた。
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「天井までゴミが積まれていましたね。それに前回よりも悪臭がひどい。」
「状況を見るに、認知症でしょうね。子供はいませんし、奥さんにも先立たれています。一人暮らしだと刺激がないから、呆けてしまって片付けられないのでしょう。月見里さんみたいな人は多い。悲しくなりますね。」
「たしかに書面上は1人世帯です。でも子供の声や女性の声が聞こえると近所の人が教えてくれました。本当に一人暮らしなんでしょうか?」
「あの家で誰かと暮らすのは無理でしょう。だって玄関までゴミであふれかえってるんだから。」
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いつものおじさんたちがまた来てくれた。
「月見里さん!?大変だ、月見里さん!!」
おうちの中の大きなお山から出ているお父さんの足を、おじさんたちが見つけてくれた。足のまわりをほって、お山を小さくしようとしてる。
がんばれ!がんばれ!
弟と妹もおうえんすると、お父さんが出てきた。
おじさんたちは「気の毒に」と、なんかいも言っていた。
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それからたくさん人がきた。5人のおじさんたちは何日もかけてお山をなくしちゃった。かくれるお山がなくなったわたしたちは、おじさんたちに見つかっちゃった。
いつのまにかお母さんがとなりに立っていて、わたしに教えてくれた。
「おままごとは、今日でおしまいよ。」
そっか。じゃあお母さんはお母さんじゃなくなるのね。
おばさんは、わたしの頭をなでた。それから、知らない女の子と男の子の頭もなでた。
みんなで遊べて、楽しかったね。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
さようなら。
けいさつのおじさんたちが来た。
「現場には3人の白骨化した遺体があります。いずれも小さな子供の遺体です。間もなく検視官が来る予定です。」
もうわたしだけになっちゃった。
うしろをふりむいて、お山のなくなったへやを見たら、思い出したの。
おじさんとおばさんにさそわれて、いっしょにおままごとをしたこと。
わたしが動かなくなると、わたしの上にお山を作ってかくしちゃったこと。
知らない男の子と女の子もつれてきて、かくしちゃったこと。
さいごまで秘密にできて、良かったね。