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夜のドライブー後半ー

 道なりに進み続けると交差点に差し掛かり、左折して団地に入った。

 もうすぐ家に着く。

 安堵とともに、今日はやけに気味悪く感じるドライブだったなぁと振り返る。まぁそんな日もあるか。

 左手に見慣れた酒屋が見えて、僕は左にウインカーを出した。そのまま減速し、右側の、手前から四軒先の家を目指す。ちょうど家の目の前には街灯がある。これは我が家を探すのに良い目印になっている。このおかげで引っ越してきたばかりの時も家を間違えることはなかった。

 駐車場に頭から突っ込んでブレーキを踏む。エンジンを止め、シートベルトを外してドアを開けて降りると、後部座席のドアをスライドした。


「着いたよ」


 子供達は寝息をたてていた。息子の肩を揺らすと目を覚ましたが、娘は起こそうとしてもいびきをかいたままだった。仕方なく胸の前で抱き上げた。

 雨が降っているからこのままドアまで走り抜けるしかない。しかし・・・

 今日は娘がやけに重い気がする。

 気のせいか?

 玄関に続くアプローチを走り、階段を急いで登る。

 一段二段三段四段・・・

 踊り場を過ぎて再び一段二段三段四ーー


「うぅん」


 娘が頭を動かし目を擦り始めた。どうやら起こしてしまったらしい。


「降りる?」

「ううん。抱っこして。あっ・・・」


 うん? どうしたんだ?


「やだ〜! こーわーい!」


 突然ぐずり始めて僕の腕にしがみつき顔を伏せてしまった。

 夜だから怖いのだろうか? 娘は眠りを邪魔されると、一時間泣きやまないこともある。今回もそうなりそうで、このあと仕事から帰ってくる妻に睨まれる絵が浮かんだ・・・


「お父さん、あれ誰?」


 喚く娘から目を離し、先に玄関ドアの庇の下で雨宿りしていた息子を見やった。

 なぜか僕の背後に人差し指を向けている。


 振り返ると違和感を感じた。僕の家の前は街灯があるから明るいはず。にも関わらず、家の前の道路が暗いように思えた。だがもっと妙なのは、その暗闇の中に、なぜか大勢の人が下を向いて立っていることだ。十、いや、二十人以上にみえる。

 こんな時間に何をしてるんだ?

 雨なのに誰も傘をさしていないのが気になった。それだけでも首をひねりたくなるのに、加えて妙なことに見慣れない服を着ている。例えるなら、民俗博物館に展示されているような、江戸時代の人々を連想させる褪せたボロボロの服だ。足元に目をやると靴は履いていない。みな裸足だった。

 彼らは雨の降る中、誰ひとり傘もささず、みすぼらしい身なりで、じっと、俯いているのだった。


 ふと、先ほど駐車場に停める時には周りに誰もいなかったことを思い出した。それなのに、僕たちが車から玄関の前に向かうまでの、一分もない短い間に、彼らは大人数でぞろぞろと家の前まで歩いてきたというのか?

 信じられない。一体なんの目的で?

 ・・・あ。



 ーーーー山道で、見てしまった。



 悟った刹那、鈍器で頭を殴られるような恐怖を覚え、耳の辺りがどくどくと脈打つのを感じた。途端に呼吸が乱れていく。


「やだぁーー! うわぁぁ〜〜ん!」


 耳元で泣き叫ぶ娘の悲鳴が僕の恐怖心をさらに掻き立てる。息子は「あれ誰? あれ誰?」と、しきりに服の裾を引っ張ってくる。倒れそうになりながら震える手をズボンのポケットに突っ込み家の鍵を探した。

 指先がもつれ、小銭や飴の空袋ばかりをまさぐる。と、冷たくて硬いものに触れた。

 鍵だ。

 つまんで取り出すと小銭が落ちてタイルの上に金属特有の高い音が鳴り響いた。だけど僕はそんな音など聞こえなかったかのように鍵を開けることに集中した。

 玄関ドアの二つの鍵穴のうちのひとつに鍵を差し込んで回すとカチャリと音が鳴る。


「お父さん、来たーーー!! 早くしてーーー!!!」

「うわぁぁ〜〜〜ん!!!」


 緊迫した悲鳴に神経が張り詰める。引き抜いた鍵をもう一つの鍵穴に差し込もうとするが、焦りが邪魔をして震える鍵が穴に入らない。カチャカチャと鍵穴をこする音が僕をより急かし苛立たせる。


「嫌だ嫌だ嫌だ怖いよ来るなーーー!!」


 早くしないと襲われるかもしれない! 早く早く開けないと!! 


「お父さんお父さんいるよ! そこにいるよ!!!」


 早く早く早く早くはやく早く早く早く早く早くはやく早く早く!!!!


「うあぁぁぁぁーーん!!!!」


 カチャリ


 鍵穴を回した。安堵する暇もなくドアノブに手を掛ーー



 肩に何かが触れた。



 手のような気がする。



 見てはいけない。でもこのまま家に入るわけにもいかない。引き入れてしまうから。

 おそるおそる振り返ると、影を切り抜いてそのまま持ってきたような、この世の者とは思えぬ年老いた男が立っていた。

 老人は口を閉じたままなのに、若い女のような声音で言った。




「見つけた」







 結局あれが何だったのかは分からない。

 あの老人たちが何をしたかったのか、なぜ僕の家の前に来たのか、なぜ話しかけてきたのか・・・・・・答えを見出せないでいる。

 ただ、あの産業廃棄物処理場。

 あれが建っている場所には、かつて農村があったと人づてに聞いた。

 そこでなにかあったのかもしれない。

 けれど僕は、もうこれ以上詮索するのはやめにした。


 あの道は、それ以来通っていない。



ホラー作品の

それ以来行ってない。

みたいな終わり方が好きです笑


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