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14.夜のドライブー前半ー

久々の更新!

 カーナビを見ると、午後七時二十八分。

 フロントガラスに目を戻すと、ワイパーがせっせと仕事を続けている。

 ライトが照らす道には雨の筋が次々と描かれていく。雨粒はコンクリート道路を絶え間なく穿つが、遠くまでのびているその道には人ひとり歩いていなかった。まだそこまで遅い時間ではないのに。ほとんど民家のない畑沿いの田舎の道では、そういえば昼間でさえ人が歩いている姿を見かけたことがないと思った。

 誰もいない道って気味が悪いな。

 ましてや、夜だと尚更怖い。

 子どもでもあるまいし、普段はこんなこと考えもしない。しかし今日に限って、なにか感じるものがあった。

 ハンドルを持つ手に僅かに力がこもり、背筋を伸ばす。少し緊張しているように思うーーと、後部座席から息子の声がきこえた。


「もう着いた?」

「いいや。まだ時間がかかる」

「つまんないよ。パパ遊んで」

「運転中だぞ。寝てたらそのうち着くから目を閉じてなさい」

「はぁい」


 子どもを二人乗せ、夜道の運転。今日も疲れたなぁと欠伸をしながら、一日のことを振り返った。

 車で一時間の距離にある僕の実家に遊びに行ったのが午前のこと。午後はみんなで大型ショッピングモールで過ごし、帰宅すると夕飯をご馳走になって、今に至る。

 翌日からまた仕事が始まるため、八時には家に着きたいと願っていた。が、普通に帰れば九時半になってしまう。そこで少しでも早く家に到着するために裏道を通ることにしたのだ。


 少し眠気を感じる。気を紛らわせるために音楽を聴くことにした。

 ハンドルに内蔵されている再生ボタンを押すと『ネバーヤングビーチ』の曲が流れる。夏の海を彷彿とさせる陽気な音楽と多少粘り気のある独特な歌声が車内に響き渡った。

 僕はなぜかこの歌声が好きだ。

 聴くと元気が出る。

 なぜかは分からないけど。

 陽気な音楽と歌声に合わせて小さな声で一緒に歌う。しばらくそうしていると疲れた心が元気を取り戻し始めた。

 音楽も歌声も、今日はやけによく聞こえる。

 そういえば静かだな。

 いつも後部座席で騒ぐ賑やかな声が聞こえてこないことに気がついた。背筋を伸ばしてルームミラーに目をやり子どもの姿を探す。が、暗くてよく見えない。

 きっと眠ったのだろう。家はまだまだ先だから、その方がいい。


 僕は束の間の夜のドライブを楽しむことにした。


「川沿いを歩い〜て〜」


 歌を口ずさみながらハイビームをつけた。開けた道から鬱蒼とした山道に差し掛かる。右手にある産業廃棄物処理場の近くには粗大ゴミがそこらかしこに捨ててある。心ない誰かがこっそりと置いていくのだろう。

 だから気をつけなければならない。稀に捨てられたゴミが道路に転がって道を塞いでいることがあるのだ。気づかずに引っ掛けて、何かしらのアクシデントを起こすのは面倒だ。

 そういう理由で、念のため、夜はハイビームをつけて辺りを見やすくしている。これは裏道を抜ける時の僕の習慣だ。


「小さな〜 家を〜買って」


 道路の左側には黄ばんだ洗濯機、右側にはうす汚れた白っぽいソファ。次々と現れるこの場所限定のモニュメントは、大体が雨風にさらされて劣化してしまっている。いや、捨てられた時からそうだったのだろうか。


「庭にはきっと〜 ペンキを塗って〜」


 道路の白線の上に、朽ちた木の枝。

 それを避けて、右側に何かのゴミの山。もちろん粗大ゴミなのだろう。

 こんな山道にわざわざ捨てに来るなんて、一体どんな人間がやってるんだ? 

 次のモニュメントの隣に、大勢の人が照らし出された。


 ん?


 人がいた? いやいや、そんなわけがない。

 この近くで民家を見たことはないし、そもそもここは山道だぞ。それも廃棄物処理場の近くの、誰も寄りつかなそうな道。

 気のせいだな・・・

 そう納得して、下り坂に差し掛かる。ブレーキを踏みながら進むと、山道のふもとに出た。

 まっすぐ進みT字路に差し掛かり左折すると、今度は左側に民家、右側に田んぼが広がっていた。対向車が来ないのでハイビームはそのままだ。


「夏がそうさせた〜」


 このあとの歌詞は覚えていないから口をつむぐ。でも相変わらず陽気なメロディーは続いている。

 

 ふと、道路の上を飛び跳ねる小さな何かに気がついた。雨の夜に、田んぼ沿いで道の上を飛び跳ねる何か・・・その正体を想像するのは容易なことだ。

 道を進めば進むほど、飛び跳ねるモノがそこらかしこにいることに気がつく。そしてそんな道を、車で突き進んでいることに罪悪感を覚えた。


 ゆったりとしたギターが終わり、今度は口笛の伴奏が始まる。穏やかな気分になるが田んぼ道はまだ続く。今この瞬間にも、あの小さなモノを踏み潰している。今夜だけで、一体何匹のソレを轢いてしまったのだろうか。


 右手に広がる田んぼの景色の中に、突然小さな工場が現れた。その向かいーー道が曲がりくねっているため実際には左手になるのだが、そこには大きな砂の山と数台のトラックが置かれている。奥には背の高い黒いシルエットが見えた。

 ぐんと夜空に伸びる、黒い影。

 昼間なら何とも思わないのに、夜に目にすると首が異様に長い何かがこちらを見下ろしているような気がしてくる。


(今日はなんだか、本当に薄気味悪いな)


 その黒い影は、不恰好なキリンが頭を傾げているようにも見えた。と、その顔から何かが落ちた。


22時に続きを投稿します。

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