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第17話 フルボッコじゃねえかよ!

「なんだお前かよ、邪魔なんだよ、ダッシャー!」


 魔神クラスのナイトメアメーカーであるノウエーに恐れることなく、威圧を跳ね除けて飛びかかろうと突進したサンタ。

 しかし、ノウエーの出現に恐れ慄き、腰を抜かしたように尻餅をついていたダッシャーに躓いて転倒してしまう。


 サンタにしてみれば障害物(ダッシャー)によって転倒を見舞われた訳だが、ダッシャーにしてみれば、不意打ちのような蹴りを喰らった訳である。

 ところが、サンタに蹴飛ばされた衝撃で我に返って恐怖という呪縛から解放されたダッシャーは、恐怖よりも蹴りを入れてきたサンタへの怒りが込み上げると、世紀末救世主のような劇画チックな表情に変貌する。


「なんだとは、なんだよ! このクソサンターーっ!!」


 障害物(ダッシャー)のせいで転倒したサンタも、邪魔な障害物がダッシャーであることを確認すると、その障害物(ダッシャー)に中指を立てる。


 魔神クラスのノウエーを前にして、かなりの余裕を見せる二人の訓練生。


 そう、彼らは訓練生なのである。

 正式なドリーム・クラッシャーでもない訓練生が到底敵う相手ではない。そのことは、頭の足りない彼らでも感覚で理解していた。

 それでも、ここを何とか乗り切らなければ、全員消滅させられるだけ・・・そのことも同時に理解している。


 頭で理解しないが故に、サンタは障害物(ダッシャー)から目線を外して、再びノウエーに向き直る。

 そして、格が全く上すぎるノウエーの禍々しい圧倒的な邪気を無理矢理に振り払って前へ進む。


「バカやろー・・・前方不注意だぞ! お前は毎度毎度・・・おかげで目が覚めたじゃねえかよ!」


 ダッシャーが蹴られた痛みを堪えながらも怒りのようで怒りではない言葉をサンタにぶつける・・・右手の親指を立てながら。

 彼もまた、そうやって自身を奮い立たせているかのように見える。


「俺だってなーー! どう考えたってヤバいこの状況でもなー! こうなりゃあ、俺がお前を精一杯サポートしてやるぜ!」


 そう言って、自分を蹴飛ばした前方不注意野郎に神気功術を付与すると、清々しく軽やかな気がサンタの全身に流れ込んでゆく。


「俺の気持ちだ、受け取っておけ。そいつは身体へのダメージを一度だけキャンセルしてくれる術式だ。だからあいつに熱い一発を入れてやれよ、サンタ!」


 ダッシャーから付与された神気功によって、スカッと爽やかな炭酸飲料が体の中に沁み渡っていくような気分になったサンタは不敵な笑みを浮かべる。

「グッジョブだぜ、ダッシャー!」


 一方、その一部始終を見ていたダンサーとキューピッドは、身体の硬直がようやく解けて、手足の関節の動きなどを確認していた。

 何とも恥ずかしいバカ二人の青春ごっこを見せつけられて、(くすぐ)ったさと遣る瀬無さが相俟った結果、何かイラッとする感覚が、身体と精神の硬直を解いたように思えた。


「あのやり取りを見てしまったせいなのか、よくわかりませんが、恐怖心よりも遣る瀬無い気持ちでいっぱいになりましたよ・・・」


「キューピッドもそう感じたのか! なんか、見てはいけない気持ち悪いもんでも見ちゃったような気分だよなぁ・・・なんか無性にイラッとした気持ちが込み上げてくるんだよな」


 ダンサーはかなりドイヒーな発言をしながら、強大な邪気を纏った魔神に立ち向かおうとする無謀なバカ野郎を見据える。



「どうした・・・そんなところで転げ回っているが、お前は犬か猫なのか?」

ノウエーが冷ややかな表情で口を開いた。


「くっそ、すげえ圧だな・・・おまけによぉ、スカした感じのムカつくオーラまで出しやがって・・・」


 気圧され気味のサンタは立ち止まって、両脚を地に打ち付けるように踏ん張ると、丹田に神気功を集中させる。


「ーーー無駄口だけか、立っているだけでやっとのようだな」


「ちっ! 余裕こきやがってよ・・・てめえ、虫唾が走るんだよ!」


「威勢だけでは俺に近づくことも出来ないぞ・・・こちらからお前の目の前に行ってやろうかあ・・・」


「大きなお世話だ、このクズ野郎があーー!」


 丹田から両脚に神気功を流したサンタがスカした魔神クラスのナイトメアメーカーに向かって啖呵を切る。


「てめえらのせいで、俺の存在は半分になっちまったんだよ! だから、絶対にてめえらを木っ端微塵に消し去ってやらねえと気が済まないんだよ!」


「それがどうした?」啖呵を切られたノウエーが無表情で返答する。


「気が済まねえって言ってんだよぉ!」練り上げた神気功がサンタの身体中を超速で巡り出した。全身に漲るような神気功が全身を白く発光させる。


 次の瞬間、サンタが宙に跳ぶと一気にノウエーの懐に飛び込んだ!


 サンタの右拳がノウエーの顔面を捉えようとした、その瞬間・・・


ーーーBOOOO GOOOOOOM!!ーーー


 サンタの拳よりも速く、ノウエーの蹴りがサンタの腹部に炸裂。

 一瞬にしてダンサーとキューピッドの頭上を越えて遥か後方へとぶっ飛んでしまう。


「ーーー!!! ヒィッ!」顔面蒼白のキューピッド。


「なっ・・・今のは・・・」その横でダンサーが驚愕の声を漏らした。


「・・・あり得ねえ・・・俺の攻撃キャンセルの神気功術が全く効いてねえなんて・・・」


 後方へ吹っ飛ぶサンタを見たダッシャーは、驚愕しながらもヤケクソ気味に立ち上がって双剣を抜くとノウエーに向けてクロスさせる。

 必死に練り上げた神気功を両腕の双剣に流し込むと、竜巻状の風が全身を覆い出す。


「くっそーーー! 全力のこいつを喰らいやがれーーー!! トルネードアターーーーック!!」必死の形相で竜巻状の風攻撃を繰り出した。


 その一撃は、つい先ほど不細工なナイトメアメーカーに放った一撃とは比べ物にならない大きな威力とスピードでノウエーに襲いかかる。


 が、しかし、

ノウエーは片手でピンポン玉でも払い除けるかのようにダッシャーの渾身のトルネードアタック(たつまき)を消し去ってしまう。


「!!・・・マジ・・・かよ」全力で放った攻撃をいとも簡単に掻き消されたダッシャーの戦意は完全に消失し、呆然と立ち尽くしている。


「お前など、我が手を汚す価値もないが、無謀にも一撃入れてきた愚かさに免じて同じ技を返してやろうぞ! 但し、お前の微風と違って、我のトルネードの破壊力はレベルが違うぞ」


 ノウエーは右腕を天に向けると、その腕に魔力を集中させる。

 一瞬にして、計り知れない程の魔力量がノウエーの右腕に込められているのがわかる。


 最早、逃げる気力さえも失ってしまい、ただ立ち尽くすだけのダッシャー。

「あんの、バカ野郎、何をやってやがる!」


 呆然と立ち尽くしたままのでくの坊野郎に危険を知らせようと速攻で駆け寄るダンサーが叫ぶ。


「おい、ダッシャー! 逃げろーーっ!」


 ノウエーの右腕が振り下ろされ、漆黒の竜巻がダッシャー目掛けて一直線に放たれた。螺旋の如く渦巻いて迫り来る一撃!


 漆黒の竜巻が、呆然と立ち尽くすダッシャーを飲み込もうとする。


 次の瞬間ーーー


 間一髪、ダンサーの飛び蹴りがダッシャーにクリーンヒット! 真横に10メートルほど吹っ飛ばされたが、それによって竜巻を回避。


 しかし、飛び蹴りを放ったダンサーは、左半身に漆黒の竜巻の直撃を許してしまい、そのまま後方へ弾き飛ばされた。


 身代わりになって弾き飛ばされたダンサーは、ボロボロになりながらもよろよろと立ち上がる。


「クッソ! あんのスカした魔神野郎、思ったよりも威力があるじゃねえかよ」


 左腕をダラんとさせながらも立ち上がったダンサーは、手負いとは思えないド根性の化身のようにノウエーを睨みつけている。


 蹴り飛ばされて地面に顔を擦りつけた状態で、ダンサーのド根性を見せつけられたダッシャーは、自身の不甲斐なさを嘆いた。


「ダンサー! 俺のせいで・・・俺なんかを庇ったせいで、ズタボロじゃねえかよ。今度は俺がお前の盾になるからちょっと待ってろよ!」


 地面に転がった状態でそう叫びながら必死に立ちあがろうとするダッシャーにダンサーが言葉だけを返す。


「バカ野郎! てめえ、あたしの飛び蹴りを喰らった状態でそう簡単に立てる訳がねえだろう。その前にサンタの蹴りも喰らってやがるんだからよ! そのまま這いずった状態でもいいから後方のキューピッドのところへ退がれよ」



「ほう、お前、随分と男前だな・・・だが、戦力にもならん奴を庇って自分が傷つくとは愚の骨頂ではないのか」


 余裕の表情のノウエーが、誉めているのか貶しているのかわからないことをほざくと、ダンサーが鬼の形相に変貌する。


「なんだと、この野郎! 男前とか言ってんじゃあねえよ、このチンカス野郎! あたしは女なんだよーー!」


 怒ったダンサーの神気功である“雷光”が振り上げた彼女の剣(シュヴェルト)に付与されていく。

 左半身にダメージを受けながらも、持ち前の根性をフルに発動させて、右腕に渾身の力を込める。


 雷光を帯びた剣が、見た目でわかるほどにビリビリと音を立てる。それだけの膨大な神気功量をシュヴェルトに注いである。


「てめえ、舐めんじゃあねえぞぉぉぉーー! 怒れ、我が剣シュヴェルト!! あのチンカスを天空から撃ち付けろーー! ライディーーーンボルトーー!!」


 ダンサーの怒りの一撃が、神の裁きの雷のようにノウエーに放たれた。

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