第16話 やべえ奴、登場!
怒りの形相となったダンサーの上段回し蹴りがサンタに炸裂・・・・・からの、そのまま着地と同時に振りかぶったブーメラン的な右フックがダッシャーに炸裂した。
サンタは後方へ吹っ飛び、ダッシャーは地面に叩きつけられた。
そうしておいてから、ダンサーがキューピッドに向かって口を開く。
「おいおい、スズメバチ野郎のことを勝手に“ブサイク(反応)”呼ばわりしちゃっていたぞ! よしなさいって!!」
割と型にハマったスタンダードなツッコミを入れた。
ダンサーはどうあってもピューピッドにツッコミを入れたかったのである。
「フゥ〜、せいせいしたぜ〜」右腕で額の汗を拭いながら爽快な気分になった。
「・・・・・・・・」
ツッコミを入れられた方のキューピッドは、気分爽快感丸出しのダンサーをただただ呆然と見つめている。
しばらくして、ハッと我に返り、叩きのめされた方の二人に視線を移すと、クリーンヒットを喰らいつつもヨロヨロと立ち上がろうとする二人の姿に、何やら真っ白に燃え尽きる寸前のあしたのあの人を想起させられてしまう。
ヨロヨロと立ち上がったサンタは蹴りを入れられたというのに、やけに爽やかな口調で叫ぶ。
「よーっし! どうやらあの不細工な野郎が消滅したみたいだから、早速、ここに成就しやがった非望を木っ端微塵にぶっ潰そうぜ!」
「そうだな、俺たちのミッションは非望を破壊することが全てだからな! ここは俺を中心にしてミッションコンプリートしてやろうぜ!」
同じくヨロヨロ立ち上がったダッシャーが何もしていないくせに偉そうに言い放つ。
「大したこともしてないのに、よくまあ偉そうに言うわよねえ」
「おおおーーいっ! キューピッドぉー! そりゃあないだろう。俺だって、毒鱗粉をトルネードで吹き飛ばしてピンチを救ったじゃあないかよお」
やっと立ち上がったダッシャーは、キューピッドの毒舌攻撃で再びよろめいて倒れそうになる。
「おい! キューピッド、ダメだぜー! そういう身も蓋もないことを言うのはさあ、こいつは確かに調子こいてるからイラッとするのもわかるんだけどよお」
ダッシャーを憐れんだサンタがキューピッドを中途半端に注意するとスッキリ感に満ちたダンサーも同じように小言を放つ。
「そうだぞ、いくら本当のことだからって、そこまで言っちゃあ可哀想だぞ」
注意を受けたキューピッドは、ダッシャーにブーメラン的なフックを見舞うようなダンサーには言われたくないと心の中で思った。
そして、そのセリフを聞いていたダッシャーは、更に二段階ほどガックリと項垂れた。
しょぼくれて項垂れるダッシャーの背中を上からバシッ! と叩いてサンタが喝を入れる。
「しょぼくれんなよ、リーダー! 一番重要な非望の破壊に行こうぜ! それがお前の一番活躍するところなんだろう!」
「————サンタ・・・痛えよ・・・あと、言われるまでもねえ、とっとと行こうぜえ!」
サンタの言葉に励まされ、少し嬉しそうな表情で上を向いて歩き出そうとするダッシャーを見て、サンタは行く先を指差した。
「よく言った! んじゃあ、俺が案内するぜ!」
「このまま一気に終わらせてやるか!」
ダッシャーの言葉に軽く頷きながらダンサーもサンタの横に並び立つ。
「なんか、悪くないわね・・・」
キューピッドもこのメンバーの不思議な空気感に薄っすらと笑みを浮かべている。
しかし、先程、空間移動してきたキューピッドの脳裏には、ペイペイサイドの
夢幻空間に出現した魔神クラスの禍々しいオーラの存在が過ぎっていた。
だが、今やるべきことは、このコーツキーサイドのダークマターだけでも破壊する、そのことを最優先すべきである。
それだけに、今ここにいる仲間達の存在が心強く感じられたし、そんな心境だから、ついサンタに声をかけたくなった。
「サンタ! あなたの潜在能力はズバ抜けているわね、頼りにしているわよ」
「おうよ! 俺ってば、やる時はやるぜ! なんたって韋駄天と呼ばれた男だからよ!」
「あら、自信満々ね。安心するわ」
言ったもん勝ちのようなサンタのセリフが、キューピッドにとっては何故か、非常に頼もしく感じられた。あの禍々しいオーラを放つ魔神に対する恐怖でさえ薄らいでいくようだった。
サンタとダンサーの案内で、先程ぶっ飛ばした不細工ナイトメアメーカーが手塩にかけて育てていた巨大な黄色い花の手前まで移動した。
目の前のそれは、一見誇らしげに巨大な大輪を咲かせてはいるが、その巨大さが異様な光景を演出している。
「あのデカい花がターゲットだ! なんか得体の知れない霧みたいものを噴き出しているから気をつけろよ!」
先行して、勇んで歩くダッシャーにサンタが注意を促した……その瞬間、
「————!!」
皆の行手を遮るかのように、目の前の空間が歪み出した。歪んだ空間から稲妻のような電光が四方八方へ放たれ、空間が上下に裂けるかのように大きく開いてゆく。
「えっ!? まさか! この禍々しい感覚は・・・このタイミングで・・・」
キューピッドが怯えるような表情で呟く。
そう。空間の裂け目から現れたのは、コーツキーサイドにいるはずの魔神クラスのナイトメアメーカー。
突如出現したそのナイトメアメーカーこそ、幻魔衆副官ノウエーであった。
「マジかよ・・・終わったぜ、これは・・・」
ダッシャーは、その空間の裂け目の前で尻餅をつきながら覚悟した。
「なんで、ここにいるのよ・・・」
目の前にノウエーの姿を確認したキューピッドは驚愕のあまり足が竦み、全身がまるで石化したかのようになって身動きが取れない。
キューピッドだけでなくメンバー全員が、ノウエーの放つ膨大なダークネスパワーの前に圧倒されてしまう。
更に、周囲の空気がビリビリと振動するようなパワーに恐怖が精神を拘束する。
やるせなく後方で石化したように立ち尽くすキューピッドの眼に映ったのは、その絶望の坩堝の中で僅かな希望の光を纏った存在。
それは、ダークネスパワーに気圧されずに抗っている男の姿であった。
「うおぉぉぉぉーーりゃあああぁぁ!! どっっっせぇぇーーい!」
正面から押し寄せる超絶なダークネスパワーを渾身の怒根性で弾き飛ばしたサンタが、一気にノウエーの正面まで躍り出た。
「————ほう・・・」ノウエーが余裕たっぷりに口角を上げる。
「てめえが、クソほど強えっていう野郎かよ!」
ノウエーに啖呵を切ったサンタは、余裕のノウエーとは正反対に今までに見たことのない怒気を露わにしている。
しかし、そんな小物の怒りなど全く眼中にないと言わんばかりに、冷たい視線をサンタに向ける余裕のノウエー。
そんな余裕の表情が気に入らないサンタは、更に怒り心頭状態になると、ノウエーのダークネスパワーなど何も感じていないように鼻息を荒くする。
「くぅおーのぅ野郎―っ!」
サンタがそのままノウエーに飛びかかろうと地を蹴った次の瞬間、
————ズゴッン
「うわっ!!」
サンタが何かに躓いて、というより、何かを蹴り飛ばした格好になって前方に倒れ込みそうになる。ノウエーに意識を取られすぎて、足元が全く見えていなかった。
「ぐおぅっ! 痛ってえーーー!」
蹴られたのは、腰を抜かして尻餅をついていたダッシャーだった。