第15話 それって、あり?
スズメバチのような姿に変態したナイトメアメーカー・・・ナイトメアメーカーとは、いわゆる魔人であるが、しかし、この魔人は不細工だった。
サンタとダンサーに、これでもかというほど不細工呼ばわりされてブチ切れまくったナイトメアメーカーは、その不細工な顔に青筋を立てている。
「こんのクソガキがあぁぁ! お前ら、もう許さんぞおぉぉぉぉ!!」
怒りの雄叫びを上げて、尻尾の毒針を逆立てると、禍々しく醜悪な瘴気を全開に放出する。
活火山状態に怒り心頭の不細工ナイトメアメーカーは、その禍々しい瘴気を沸騰した湯気を噴き出すかのように放出している。
「この俺の怒りの猛毒を浴びまくって、苦しんで死ねえーーーい!!」
「あいつが尻尾の針辺りから噴き出している霧みたいなの・・・あれ、なんかヤバイやつなんじゃねえのか!?」
警戒心というよりも、重症の臆病を患っているだろうダッシャーが弱気の発言をするが、逆に猛毒の霧だろうが何だろうが全く動じないサンタが戦闘体制をとる。
腰にぶら下げたトンファーを両手に持つと強気の闘志を剥き出しにする。
その真横に立ったダンサーも自分の剣に神気功術を付与する。
「――シュヴェルト、雷鳴轟けーー! 雷光剣!!」
ダンサーの神気功を纏った剣が膨大な電流を帯びたかのように稲光を巻き散らす。そして、そのまま上段に振り上げる。
と、その時、
「ちょっと待てーーーい!! お前の相手はこの俺様だあーー!!」
ダンサーが我先にといち早く臨戦体制になるのを阻止するかのようにサンタが叫ぶ。
更に、せっかく構えたトンファーを何故か一旦自らの腰に戻すと、力強く握った右手拳を左手で上から龍が宝玉を掴み取るかのような構えを見せる。
両脚を開いて、やや左足を前に出しながら大地を踏み締めるように腰を落とす。
サンタが得意とする戦闘スタイルは拳闘である。
そしてこの構えこそが、サンタ独自の攻撃スタイル
ーーー“ドラゴンフィスト”―――。
「サンターー!! てめえ、あたしの邪魔をすんじゃあねえぞおーー!!」
剣を振りかぶった状態のダンサーがサンタを一喝する。
が、サンタはニヤリと不敵な笑みを浮かべている。
「こんのクソサンタがあー! ニマニマしやがってえーー!」
しかしサンタは動じない。そして自身の持つ神気功量の全てを両脚に溜め込むように腰を落として踏ん張っている。
サンタの右拳と竜の鉤爪のような左手にも神気功が漲る。
「俺は、“韋駄天”って呼ばれてるんだぜ」不敵な笑みでそう呟いた。
「ホント、ムカつくクソガキねえー! このすんごく太〜い針で、先ずはお前から消し去ってやるわ!」
完全にコケにされたナイトメアメーカーが、不細工だが怒りの形相で叫ぶと、尻尾の針を突き立てながらハイスピードでサンタを目掛けて突っ込んでくる。
それと同時に、サンタは両腕を左右に力強く開いて、そのまま地を蹴った。
次の瞬間、突っ込んでくるナイトメアメーカーの真横に並ぶサンタ。
―――BO OOOO GOOONG!!―――
「―――!!!???」
瞬間移動でもしたかのような超加速でナイトメアメーカーの懐に飛び込んだサンタの一撃が不細工な顔面にクリーンヒットした!
仲間たちは、サンタの一撃で吹っ飛んでいくナイトメアメーカーを眼で追いながら、唖然としたまま立ち尽くしている。
「お……い……今の……」
ダンサーの振り上げていた剣から付与されていた雷光が消える。
「おいいいー!! なんだ今の動きは……サンタが消えたように見えたぞ! んで、何なんだよ、あのパワーは!? あれ、マジでサンタなのかあ?」
今にも目玉が飛び出そうな形相のダッシャーがキューピッドの方を振り返りながら驚愕の言葉を並べる。
同じく驚きを隠せないキューピッドが口を開いた。
「あんたじゃないのは確かよね・・・」
「・・・いや、今はそういうのは、いらないです・・・」
一方で、
ナイトメアメーカーをぶっ飛ばしたサンタが仲間のいる方へ振り返って右拳を高らかに突き上げる。
それを苦々しく見ていたダンサーがサンタ目掛けて駆け寄って行く。
そして徐に、地を蹴ってサンタの頭上に飛び上がった。
「てめえ、あたしの初陣を台無しにしやがってえーー」
そのままサンタに飛び蹴りを喰らわした・・・・・サンタは後方へ吹っ飛んだ。
「だいたいなー! こんなのは有りなのかよお! 普通は初めての魔人との闘いで緊張したりとか、相手の方が超絶に強くて苦戦するとか、苦戦してボロボロになりながらもやっと勝利するとかよーー、そういう感じになるんじゃあねえのかよ! このバカ野郎があ!」
自分の初陣を邪魔され、怒髪天状態になって気が動転したのか・・・どうかはわからないがダンサーは最もらしいがどうでもいいことを並べ立てて力説した。
それに同調したダッシャーもダンサーに続く。
「ホントお前なあ、ダンサーの言う通りだぜ! だいたいがお前って、あんなに強かったのかよ? なんか妙な薬とかやってないだろうなあ、おい! まあ、お前のおかげで、何とかピンチは脱したから良かったんだけど・・・」
「ちょっと、待てダッシャー! あんなもんじゃあ、くたばらないって! あいつも一応は魔人なんだぜ、ここからが本番だぜ! 奴がメッチャ本気のパワーで向かってくるから気をつけろよ!!」
ダッシャーのトークを遮ってサンタは跳ね起きると、ぶっ飛ばされたナイトメアメーカーの方角を見据える・・・。
ゴクリと唾を飲み込むダッシャーとダンサー。
その後方で、キューピッドが神気功を練って探知スキルを発動する。
それからしばらくは、辺り一面、静まり返ったままである。
しかし、サンタにそう言われたダッシャーは額から冷や汗を流しながら思う。
(あんだけやられたってことは、あの不細工なスズメバチ野郎は相当激怒してこっちに攻撃を仕掛けてくるんじゃあねえかあ)
すると後方のキューピッドが探知スキルを解いて、皆に伝える。
「この空間からナイトメアメーカーの禍々しいオーラが消えています。さっきの蜂型ナイトメアメーカーはクラッシュアウトしたか、もしくはこの空間から離脱したかどちらかですわ」
「は・・・あ?」ダンサーが怪訝そうな表情でキューピッドの方へ振り返る。
「本当なのかあキューピッドーー! 良かったあーー! 怒りまくった奴がこっちに来なくて本当に良かったよ!」ダッシャーも大喜びの表情で振り返った。
「おーい! サンタ、てめえこの野郎――! 嘘つきやがったなあ!!」
ダンサーが再び、サンタに迫る。
「あれーーー?? おっかしいなあ、そんなことはないはずだよお、だって普通よお、俺なんかの拳で一発殴った程度で終いになんかならねえだろう。そりゃあ何かの間違いだって、キューピッドの探知もたまには間違えちゃったりするんだよ・・・多分・・・だけど」
サンタの言い訳を聞いたキューピッドが悲しげに反論する。
「そんなぁ、私の神気功術で創造したスキルはそんな安くはありませんわよ。酷いですわ、本当にこの夢幻空間からあのブサイク存在は確認できませんでしたわ」
その抗議を聞いたダンサーがキューピッドに声をかける。
「おい・・・」
しかし、そのダンサーの言葉を遮って、血相を変えたダッシャーがサンタに噛みついた。
「おいサンタ、お前は言っていいことと悪いことくらいわかんねえのかよ。キューピッドの探知だぜ、間違う訳がねえだろう」
サンタは頭を掻きながら申し訳なさそうな表情になると、皆に向かって頭を下げた。
「ホント、ごめん! 嘘ついてごめん! んでもって、俺が強すぎて申し訳ない!!」
またもサンタに遮られたダンサーのこめかみに怒りマークが浮き上がる。
カッチーーーン!!
という擬音が辺りに響いたような、響いていないのだが、サンタ以外の三人の胸中にそんな音が鳴り響く。
「てんめえー、サンタあー!! あと、オマケ野郎ーっ! あたしが喋るタイミングを勝手に横取りしてんじゃあねえぞ! カスどもがーーっ! ムカつくんだよ!!」
と、イライラをぶち撒けつつ、ダンサーの上段回し蹴りがサンタに炸裂した・・・。