第13話 合流
ナイトメアメーカーにとってS級の獲物である非望因子ペイペイの夢幻空間の奥底では、魔神アレスが従える幻魔衆の副官であるノウエーが暗躍中であった。
ナイトメアメーカーの中でも最強と謳われる幻魔衆の副官ノウエーは、この空間内に発生した自分とは正反対の気を感じ取っていた。それは僅かに感じる程度であったが、
ナイトメアメーカーの中でも随一の鋭い察知能力を持つ魔神級のノウエーだから感じ取れたというべきであろう。
「――――!! これは・・・まさか・・・」
彼にとっては忌々しく、そして悍ましい神の気であると確信していた。
それはキューピッドが練った僅かな神の気、それを感じ取ったのである。
「ん!?・・・微かだが、悍ましい光の気を感じたのだが・・・消えたのか? 否、消え去ったのか?」
キューピッドが隠し空間を創った際に練り上げた神の気を感知したノウエーは、その真偽を確かめるべく神の気の発生ポイントへ超速で急行する。
超速で移動してくる何か(正体はノウエー)に気がついたキューピッドが展開していた探知網を逆探知したノウエーは、キューピッドの位置を把握してしまう。
こうして、ノウエーは自身が発する禍々しい膨大な魔力を撒き散らしながら、キューピッドとダッシャーのいる地点まで一気に詰め寄せる。
――――それはまさに邪気を纏った彗星のようであった。
ノウエーは、別空間のように認識させる隠し空間結界もろとも破壊出来るだけの絶大なダークエネルギーを自在に操るパワーを持つ。
わざわざ、魔力を撒き散らしていたのは、キューピッドが巡らした隠し空間結界を破壊するためでもあった。
結界を打ち破る勢いとパワーで衝突は避けられないのかと思われた・・・・その時、
間一髪で疾風のごとく迫り来るノウエーを交わすことに成功したキューピッドは、隠し空間結界ごと別の空間へジャンプさせることに成功した。
一方、サンタとダンサーは、コーツキーサイド(コーツキーの夢幻空間)を探索中、
不細工なくせに巨大なカラスアゲハタイプのナイトメアメーカーに遭遇していた。
その不細工なナイトメアメーカーは、非望を成就するために“スゴイナージュース、略してスゴジュー”をイエローのカサブランカに散布しまくっていた。そのスゴジューの非望増強効果によってダークマター(非望)を成就させていたのである。
この成就した非望は『裏切り』のダークマターという特性を色濃く醸成させたため、空間全体を禍々しい闇に染め上げるだけのエネルギーに満ち満ちていた。
人ひとりを軽く飲み込めるほどに大きく、そして真っ黄色に染まった花から噴き上げられた霧のような液体がこの無限空間内に充満していく。
非望『裏切り』が生み出すこの液体こそ混沌の根源たるエネルギーなのであろう。
そんな悍ましい空間をサンタとダンサーが探索していると、突如、二人の目の前に、空間移動してきたキューピッドとダッシャーが出現した。
目の前の空中に二人が現れて・・・そのまま地面に落下した。
しかし、キューピッドはダッシャーをクッションにするように落下したので無傷である。
「うおーーっ、なんだ、おい!!」
突然のことに驚いて、思わず声を上げてしまうサンタ。その後ろには、無言のまま咄嗟に抜刀しつつ防御体制をとるダンサー。
ダッシャーは、その二人に気が付くことなく、キューピッドの下敷きになって落下した痛みを堪えつつ、キューピッドに文句をたれる。
「痛っーー!! おいおい、キューピッド、唐突に空中に移動させるのは勘弁してくれよ」
「ちょっと! あなた、何を言うのよ。命を助けてあげたのよ! 大体あなたは何もしていないんだから、せめて私を衝撃から守るクッションになるくらいは当然の役目でしょう!」
「何もしていない・・・って、厳しいこと言うなー。君はホント、その可愛い顔のどこからそんなキツイ言葉が出てくるんだろうなあ・・・」
「あっ、ヤッホー! サンタにダンサーじゃないの」
ダッシャーの次の言葉を待たずして、サンタとダンサーに気がついたキューピッドは、笑顔で両手を振る。
「おいおい・・・俺のことはシカトかよお、クウゥ〜」
無視されたダッシャーが肩を落とした。 「おーーっ! 突然何かが降ってきたのかと思えば、キューピッドだったのかあ! あっ、あとオマケキャラのダッシャーかよ」
「こらこら、誰がオマケだ、おい! 俺はお前らのリーダーだぞ、もう少し敬意を払って欲しいなあ」
「ええーーっ!! またまた〜、ウケるなあー、おいっ! お前がリーダーだってえぇ? それはないってぇー。マジ、よしなさいって!! そんな幼稚園児でも言わないようなバカなことを言うんじゃないって!」
サンタは往年のビー◯きよし師匠ばりのツッコミを入れると。そのツッコミに目を点にしたダッシャーが力無く返す。
「サンタ、お前はバカだとは思っていたけど、ついに記憶喪失に匹敵するような健忘症
になってしまったのかよ・・・」
「ダッシャー、つまんないギャグとかは、もうお腹いっぱいだから、そんなお粗末なギャグよりもお前ら二人がここへ来た状況を教えてくれよー」
「おいおいサンタ、ギャグなんて言ってないだろうが、お前は何を言ってくれてるんだよ………まあ、いいや、お前はバカだからなあ・・・俺たちの状況を話すのが先決だな」
こうしてダッシャーとキューピッドは、自分達がペイペイの夢幻空間で魔神クラスのナイトメアメーカーに遭遇した話を伝えた。
二人の話を聞いたサンタとダンサーは暫し無言となる。
流石のサンタたちも勝ち目の無いほどにレベルが桁違いの相手となると何も言えなくなるのだろう・・・ダッシャーもキューピッドもそう考えていた。
が、突然サンタが口を開いた。
「そういうすげえ奴じゃあないと気合が入んないってもんだよなあ、ダンサー!!」
「おう! どうせやるんだったらギリギリの闘いってやつを繰り広げてやるぜ! でもって当然勝つのは、あ・た・し・だぜーーー!」
「よく言ったダンサー! それでこそ、男の中の男ってもんだぜーー!!」
「バカヤロウーーー!! 誰が男だよ!! 俺は女なんだよ!! てめえ、サンター!
殺すぞ!!」
「こいつらはホント呆れるぞ、マジでバカだし・・・だけどまあ、そういう意味では最高のバディってやつなんだろうなあ、バカ同士で気が合ってそうだし・・・なあキューピッド、そう思わないか?」
少し強めに戯れあっているサンタとダンサーに目を遣りながら、ダッシャーは声をかける。
「あの二人は波長がピッタリと合致しているのが分かるわね。理屈じゃあない阿吽の呼吸みたいなコンビネーションを簡単にやってのけそうね」
「だよなあ、やっぱ、キューピッドもそう感じるのか・・・だけどあいつらはバカだからなあ」
「あら、あなたもバカだから同類なんじゃあないかしら」
「おいおい、ホント、容赦ないよなあ・・・」
「困ったわ〜、だから私とのコンビネーションが今ひとつ噛み合っていないのね〜、これって根本的な問題だわ〜」
「・・・・・・・・・」
レッドチームのチームリーダーであるダッシャー・ライノットは、キューピッドの言葉によって、俯いたまま顔を上げることができないほどのダメージを受けてしまい、すっかり意気消沈感を丸出しにしていた。
そして、その原因の発端であるサンタとダンサーは、お互いに文句を言い合いながらも和気藹々と肩を組んで拳を天に突き立てていた。
そんな光景を和やかに見ていたキューピッドだったが、急にただならぬ気配を感じ取った。
「――――!!! 不味いわ!!」
巨大だけど不細工なカラスアゲハ的なナイトメアメーカーが四人の眼の前に突如姿を現した。
「そりゃあ、これだけバカ騒ぎしていれば、嫌でもこっちに気がつくってもんだよ!」
ダンサーが問題無いと言わんばかりの台詞を口にした。