01:事故の後遺症
気持ちいい日光を浴びながら、私は一人、絶望の淵にいた。
「何でこんな事になるの……?」
交通事故に巻き込まれ、幸い軽い怪我ですんだものの、頭を強く打ち付けたせいで【とある後遺症】が残ってしまった。
「自分以外の顔が、動物に見えるだなんて……!」
病院のベッドで目覚めた私を待ち構えていたのは、大きな角を生やした鳥の頭を被ったヒトだった。なにかの被り物かと思ったが、あまりのリアルさに違うと直感が告げた。
「よかった、目が覚めて!」
鳥頭のヒトは泣きながら抱きついてきたので、私は腹の底から悲鳴をあげた。事故後だったため、突き飛ばすことはできなかったが、私の恐怖に慄く表情、そして悲鳴に、鳥頭はショックなのか泣きながらなおも私に抱きつこうとしてくる。
「いや! 化け物!! あっちいって!!」
「どうしたの!? お母さんよ!?」
「そんなわけあるか! 騙されないからね!!」
確かに、鳥頭から母に似た声がする。だが、私の母は人間であり、こんな不気味な顔ではない。抱きつかれまいと私が必死で叫んでいると、母らしき鳥頭はナースコールを押した。少しして、蛇や魚などの頭の看護師達が次々に部屋へと入ってくる。
「どうされましたか!? しっかりしてください」
「いや! なにこれ、ドッキリなの? なんでみんな化け物の頭をしてるの!?」
パニックになり、泣き叫ぶ私を彼らは押さえつけ、鎮静剤を打つ。
(あぁ、私は狂ってしまったのだろうか)
意識がふわふわしていき、私は微睡みの世界へと落ちた。
不思議な世界へと迷い込んだ、または、事故で異世界転生したと思えたら、どれほど幸福だっただろう。自分以外の人間が全て人間ではない頭を持つヒトに見える。頭の中では人間と認識していても、五感の一つである、視覚がそれを許さない。
(お母さんの声のはずなのに、脳が拒否してる。まるで七匹の子羊になった気分だわ)
カーテン越しで泣きながら医者の説明を受けている母の声がする。カーテンの向こう側から聞こえてくる会話から察すると、頭を打った後遺症であり、強いショックが幻覚を引き起こし、今の状態になったらしい。再び強いショックを与えれば治る可能性はあるが、今のところ様子を見守るしか無い。
カーテンが開くと、山羊の頭をした医者がぬっと現れた。私が怯えた表情で震えていると、山羊は母らしきヒトに「苦しいかもしれませんが、本人が慣れるしかありません。希望は捨てないでくださいね」と耳打ちしていた。
(まじか……じゃぁ、この先一生、コレがずっと続く可能性もあるんだ)
治る見込みはなく、永遠に続くかもしれない事実に絶望し、私は気を失った。