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魔法の深淵。

 “天災級魔法”はついにその足を腐敗した巨大な沼から引き抜き、その巨体を空へ浮かべる。だがそこまでだった。腐敗したクレーターの中から浮き上がった“天災級魔法”は自分が、魔力で維持される超高圧の水分で作られた直径十キ・メール(約十キロメートル)の円筒形の壁の中に、閉じ込められている事を認識したからだ。

 円筒形、という事はドームの中に閉じ込められている訳では無いが、その高さが問題だった。高さは実に二百キ・メール(約二百キロメートル)もあるからだ。

 “天災級魔法”は別に呼吸出来なくなっても死ぬことなどはしない、むしろ真空の方が空気の抵抗が無くなる分早く移動出来るが、この高さを昇って行くのは時間がかかる。そう、“天災級魔法”にとって時間ほど有限で貴重なものはない。

 それに何か途方もない魔力を放出するモノが、空の更に上からやって来るのが感じられる。

 クレーターの北側に立つケイは両手を空へと伸ばす。

 意思を持つロングソードはその手へむかって衝撃波を放ちながら突進する。

 “天災級魔法”の右側三枚の翼が凄まじいほどの衝撃波でバラバラに吹き飛んだ。

 天に伸ばした手の中へ飛び込んで来たロングソードのグリップをケイは握り締める。途端にケイを中心に衝撃波が回りを破壊する。

 ケイがロングソードを握りしめた瞬間ロングソードはケイが潜在的に持つ力と接続し、その力を一億倍まで引き上げる。

 ケイの頭の中でアルテアの声が響く「“天災級魔法”が落ちて来るぞ! イッケー!!」

「おおおお!!」ケイが叫ぶ。ロングソードが光り輝きその先端から数万本のイナズマを束ねた大威力の雷撃が“天災級魔法”へと伸びる。

 ケイの周りのありとあらゆるモノがプラズマ化して燃え上がる。

 片翼を無くした“天災級魔法”には避ける手段など無かった。

 その光景は三十キ・メール(約三十キロメートル)も離れた場所まで避難していたミーシャとレーナにも見えていた。

 直径十キ・メール(約十キロメートル)の天まで届く水の塔。その中を昇って行く一対九百メール(約九百メートル)はある羽を六枚も持つ魔神…、いや、もはやそんなモノでは無い存在。そしてそれらを凄まじい轟音を響かせて消し去った天へと上がる光の柱。

 ハッキリ言ってミーシャはただ凄いとしか感じられなかった、あれ程の事が魔法には出来るのだという事に体が震えていた。

 だがその隣であの光景を見ていたレーナは別の意味で体が震えていた。上位デーモンの変化にも驚いたが、あれが噂に聞いた“天災級魔法”何だと頭の中で理解できた。だが、天に届く水の塔は何だ? そして、その二つを一撃で消し去った光の柱は何だったのか?

 魔法の深淵、その一端の更に一部、それだけで体が震える。おそらく自分では手が届かない。そんなモノを見てしまった自分は果たして幸運なのか不運なのか。と、レーナは思った。


 



 


次回、最終話。

「そして、不幸だったヒロイン達の未来はあそこだ!」

お楽しみに!

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