ケイをもっとも愛した女。
衛星軌道を回っていたその意思を持つロングソードは歓喜した。
ついに! ついにあのお方からお呼びがかかったのだ!! 何と言う喜びか。ああ、この時をどれほどお待ちしていた事か、またあのお方の手で握られる、またあのお方の素晴らしい剣技で使われる、また…あのお方は自分で辺り一面を吹き飛ばして下さる!
ロングソードは自分が何処に呼ばれたのも解かり、喜びが更に強まった。
直径十キ・メール(約十キロメートル)、高さ二百キ・メール(約二百キロメートル)の魔法の筒の中だからだ。
つまり、あの中の物全てが破壊の対象なのだ。ああ、この時ほど自分がロングソードである事を恨めしいと思った事は無い。もし自分が人間のからだを持っていたら、喜びだけで失神出来たのに! だが今はそんな事を考えている時ではない、待っていてください、ケイ・カインゼル様!
ロングソードは魔法の巨大な筒の中へ飛び込んで行く。少し暖かいが我慢する、なぜならケイ様の手にはあのみすぼらしい青銅製のロングソードがあるからだ! 何という羨ましさか。あのお方の手には常に自分がある事こそ相応しいというのに。
だがケイ様は、いざこの時と思うまで自分を呼んではくれない。──おそらくあの三年間の時と同じなのだ。あの三年間の時ほど苦しかった時は無い、ケイ様はどんなに苦しく、どれほどの傷を受けても、自分をただの剣以上では使わなかった。自分は所有者に恵まれ無かったと思った時もあった。それが違うと解かったのはヒドラとの戦いの時だ、ケイ様は三年間と同じく地味に戦ったが、自分は“アレ?”と思った。たった三年で人間がヒドラを倒す? たった三年でただの人間がそこまで強くなれるのか?
ケイ様はヒドラの首を全て落としたが、そんな事でヒドラは殺せない。瞬く間にヒドラの首は再生する、ケイ様も傷を負っていた。そんなときケイ様は自分を顔の前まで近づけて。
「頼む、俺にちからを貸してくれ」と言っておそらく初めて、ケイ様は自分の意思で“私”のちからを使った。
ヒドラを一刀両断したケイ様は自分の切っ先を天へ掲げ満足そうに笑った。
自分の心は震えていた。この男…いやケイ様は自分がどれほどの剣かを知ったうえで、心で自分を封印し、おのれの体と魂を鍛え上げたのだ!
何という意思か、何という偉業か、そして何という異端さか!
自分は所有者に恵まれていない? 冗談じゃない! これ程の所有者なんてこの世に数人もいやしない。…自分の創造者にして、最初の所有者も確かに凄いが、残念ながら魔導師なので自分を使いきれなかった。
その後、自分は天に昇った。だが今も自分とケイ様との心は繋がったままだ。
だから自分は今、地上を目指す!
ケイ様の敵を倒すために!
さて、今日の投稿はここまでです。
決戦は、土曜日!!




