天災級魔法、その1.
“天災級魔法”がかつて上位デーモンだった頃にあった、口のある辺りに伸びていた触手は。長さと太さは違えども今も二十本持っていた。
上位デーモンのトキと同じように、その巨大な腹の上を蠢いていた丸太の様な太さの触手がゆっくりと持ち上がって、その先端をケイとアルテアの方へ向ける。
「危ない!!」咄嗟にアルテアはケイの体を抱えると高速で上方へ飛び立つ。その瞬間まるで横へ落ちる滝のように、ケイとアルテアの立っていた場所に赤黒い体液が襲い掛かる。途端に吐き気を催す悪臭を放ちながら半径三十メール(約三十メートル)の大地が溶けて消え去る。
「ひぇー」ケイはアルテアの高速上昇で危うくブラックアウトしかかった頭を振って、その惨状を見下ろす。
「体液の量も段違いに増えているうえに含まれる腐蝕液の濃度も数百倍は濃くなっているな」アルテアがそう言うと。
「一滴でも腕についたらもげてしまいそうだな」ケイはそう判断する。
“天災級魔法”の触手の先端部が横に裂けている。そこからしたたる体液で地面の惨状は更に広がっていく。
その二十本の触手が、まるでヘビが鎌首を上げるようにその先端部を空中にいるアルテアとケイに向ける。
「それ、有りぃ?!」ケイがそう叫ぶと。
「高速で飛んでいる中での空中戦は、グレータードラゴンと戦って依頼だ!」アルテアは口の両端を吊り上げてそう言った。
「そんなはた迷惑な事をしていたのか。どこかの国を巻き込んでいないだろうな?」
「大丈夫。山脈の奥での話しだ。チョット地形が変わったが、人がそれに気付くのは数十年後だろうな」アルテアは涼しげな顔でそう言う。
ケイは嫌な予感を口にする「それってあの北方山脈の奥での話しか?」
「喋っていると舌を噛むぞ!」アルテアの赤いローブが赤い鳥のツバサへと変わり、急上昇を始めると、今まで飛んでいた場所を赤黒い液体が飛んでゆく。
“天災級魔法”の触手の一本が体液を放ったのだ。それをアルテアが回避した、ケイが当たらなかった液体を見ると、それは放物線を描いて遥か西へと落下する。途端に腐り始める草木と地面。
「ケイ! 今度はもっと激しくなるぞ!!」ケイは咄嗟に東へと視線を変える。
二十本の触手、その先端部がこちらを狙っていた。
次々と放たれる体液、その体液の弾幕を前後左右上下へと素早く位置を変えて交わして行くアルテア。その都度ツバサは鳥からコウモリ、空飛ぶ昆虫の羽へと目まぐるしく変化させて空中を飛んで行く。
二十本の触手、その一斉射撃が無いのが幸いだった。それがあったら終わっていた。
以後続く!




