魔神、来臨
音はしなかった、だがその巨大な卵にイナズマのようなひびが入る。卵に入ったひびはどんどんと広がりそして細かくなっていく。
ついに卵は割れ始める内側に向かって。そう、卵の殻は中に向かって吸い込まれていく、一欠けら、二欠けらと落ちていくに従い卵の中から、呻き声と叫び声が響き始める。それがデモニスト達の今まで捧げて来た生贄の声だとミーシャとレーナは直感で理解した。彼らは死んだ今になっても生贄なのだ。
「酷い」レーナがそうつぶやく、死した今でも苦しめられるなど考えただけでもおぞましい。
卵の殻半分が消え中身が見えるようになった。卵の中は別の世界だった、黒と紫の入り混じった世界その中でそいつは生贄達の恨みと助けの声に包まれていた。普通の人間なら五分も持たずに発狂していてもおかしくない場所で、そいつはうずくまっている。
そいつは大きな体に青い体色を持っていた。そいつは三本の指を持つ四本の力強い腕を持ち、その腕を交差させている。その奥に頭らしき物をのぞかせる、本来なら目が有るはずであろう場所はただの穴が開いているだけで、目を守るために有るはずのまぶたには牙が生えていた。
本来顎のある部分には、粘液でヌルヌルと蠢く二十本の触手が腹の下まで垂れ下がり、そのブヨブヨと大きな腹を這いまわしている。
おそらく大きな瘤がある部分が背中なのであろうが、そこからは三対の皮膜で出来た翼が生えている。
その足は太く短く、まるで座禅でもしているかに見える。もっともその毛深い足がどんな形で座っているかは解からないが。
そいつはその大きな体を身じろぎさせて四本の腕を広げると、その頭のどこにあるのか解からない声帯を動かす。
「ぎゃああぁああぁぁあああぁあああ!!!」
「「ひ?!」」
ミーシャとレーナは何とか悲鳴をあげるのをこらえたが、ミーシャは思わず後ろに数歩さがり、レーナはその場に尻もちをつく。
そいつはゆっくりと歩き出し卵の中から、悪夢の中から現実の世界へその腐りきった第一歩を踏み出す。
辺り一面に形容し難い悪臭がそいつの体から漂う。ミーシャもレーナも嘔吐しなかったのは、単に喉がカラカラに渇いていたからだった。
そいつは周りを見渡すと(おかしなことに見えているらしい)一本の木に注意を示す、おもむろに手を一本その木に伸ばしその木をあっさりと引き抜く。途端に木はまるで時間が早回しされるかの様に腐っていく。幹はどす黒く変色し、葉っぱは変色する前にボロボロとこの世から消え去る。
今ここに、魔神は解き放たれた。
さて、たった2人で魔神を倒せるのか?
答え、無理です。いくらなんでもこれには勝てない。
さあ、みんなで一緒に呼ぼうあのデーモンスレイヤーを!
…来るかな…。




