この、大切な思い。
ミーシャはメイスを踊るように振るい、正確かつ確実にデモニスト達の数を減らして行き、レーナの“高速言語”はそんなミーシャを讃える歌のように戦場に響きわたり、彼女の呪文から紡がれる【空気の刃】は敵の手足を使えなくして行った。
事ここに至り、ネィガールは歯ぎしりを押さえられずにいた。二人の攻撃が殺りくから行動不能にさせる事に変わったからだ。これでは“不浄の魔法陣”の完成が予定より遅れる、いや、それこそ未完成で終わるかもしれないのだった。
“不浄の魔法陣”の完成には、殺した相手への終わらない怨嗟の声が必要だった。だが手足を斬られたぐらいの傷では、強いアルコールなどで痛みの感覚が麻痺している戦士達の恨みの声では小さ過ぎる。もっともっと大きな…いや、純度の高い呪いの声が必要だった。
突然、魔神信奉者たちの動きが止まった。ネィガールが片手を上げからだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」「ふぅ、ふぅ、ふぅ」ミーシャとレーナは息を整えながら、あの『クソ神官』が次に何を仕掛けて来るのかを見る。
「女達、強いな。そこまで強いのならどうだ? この村から払われる三倍の金額を払ってやるぞ、ワタシに使えないか?」
ミーシャとレーナは互いの顔を見ると、わるい冗談を聞かされた。と言う顔をしてこの『クソ神官』に言ってやった。
「「残念、私達この村のためにあなた達と戦っているわけじゃあ無いのよ」」
うーん、とレーナは言ってこう続けた「強いて言えばあなた達がとっても邪魔なだけ、かな」
「何と、た、ただそれだけで我が神の地上での楽園作りを邪魔したと言うのか?」
「それだけではないわ」そうミーシャが話しを続ける。
「そうそう、この戦いの結果次第で私達の未来も変わってしまう」レーナはそう力説する。
ミーシャが左手を握りしめて「それだけ私達はあなた達が目障りなのよ」
「め、目障りだとぉ、いったい貴様ら何様のつもりだぁ! この地に我らの神を降臨させる。それ以上のぉ、何がぁこの土地にあるとぉ言うつもりだぁ?!」
「はっきり言ってそんな物、この土地には影も形も無いわ」レーナが身もふたもない事をあっさりと言う。
「…でもね…ここを守り通せば私達が本当に欲しかったモノが手に入るの」ミーシャがウットリとした口調でそう言い切った。
「…ええ、私達はただそれダケが欲しい。ほかの物なんてどうでも良い、神との約束の地? 神の為の楽園作り? フフフッ、そんなの私達が真に欲しいモノと比べたら犬にでもあげるわ」
ネィガールが怒り出さなかったのは、純粋に好奇心からだった「女達、それは何だ?」
レーナは頬をポッと染め。ミーシャはウットリと天を仰ぎこう言い切った。
「「愛よ」」
35話は、とても実験的なお話となっております。
まあ、この34話もたいがいそう、なんですがね。
しかし、生涯で3作目でよくこんな、実験的な作品を書く気になったな。




