楽しい事
「まさに地獄絵図ではないか、素晴らしい」ネィガールは赤黒く染まったこの世とはかけ離れた。まさに地獄のような大地を見て満足そうにうなずいた。
「………こいつ狂っている」レーナの一人ごとを聞いたミーシャは今更という感じで答える。
「しってる」
「そういう事じゃあ……いや、ある意味そういう事なんだけど。あの男は自分の部下の血と肉で不浄の魔法陣を描かせているのよ、私達に!!」
レーナの考えは大当たりだった、召喚術には特別な何かを捧げる事で成功率が上がることがある。召喚者がベテランの場合は別にニワトリの血で描いた魔法陣でも、よほど特殊な存在でない限り大抵のモノは呼び出せる。
だがその存在がとても希少な場合はなにか特別な贄を捧げる必要がある、例えばただのニワトリではなく、雄のニワトリが産んだ卵をヒキガエルが温めていた。生きた卵。などといった極めて珍しい贄の場合には、高確率でとんでもないモノが召喚される。(ちなみにこの贄で召喚されるのは、“バジリスク”と呼ばれる真に、とんでもない化け物である)
「……でも今更やめる事も出来ない」ミーシャはわずかに残った理性でそうつぶやく。
「……そうね、今更よね、……ならあの『クソ神官』に召喚させる前に叩かないとね」レーナはそう言い放つ。
「オオオッ」ミーシャは唸るような声で自分を鼓舞する。
「ハハハッ行け、我が神の戦士達あの女達は神を召喚する生贄とするのだ!」ネィガールは暗に出まかせを口に出した、本当の目的ためには今少しの犠牲が必要だったが、その様な些細な事なんかを説明する気など微塵も無かった。
ネィガールのそろえた、選りすぐりの戦士達の数はもう四分の一にまで減ってきたが、未だにそれだけが残って、そして戦っているのは驚愕の光景だった。カルーン男爵領の領民は決して弱い相手では無い。カルーン男爵領での予想外の抵抗には参ったが、それでもあのまま戦い続ければ、三倍の戦力のデモニスト側の勝利は確実だった。
だが、そんな相手と二人、そうたった二人でここまでデモニストの戦士と戦いその数を減らしたのは、もはやミーシャとレーナの運が良いでは説明出来ない事だった。
そう二人は強い。『麗しのバーサーカー』『ドラゴン・ウィッチ』この二つ名は伊達ではない。実力で勝ち取った物なのだ。彼女達の強さにもっと早く気づいていれば、ローサル国は間違い無く自らの国から、“英雄”を生み出していただろう。
だがもう遅い、彼女達は国を見限った。いや彼女達の望み、冒険者になった最初の理由が今まさにここで手に入る。ならば何故、国の言う事にいやいや従う必要などあるものか!
さあ戦おう。二人の目が笑っていた、この戦いが終われば、この地獄から生還すれば、次の戦いはとても楽しい事の始まりだから。
うわ! もう10分。




