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約束の地

 魔神信奉者の神官ネィガールの心は踊っていた。もうすぐ我が神の欲する”約束の地“が手に入るからだった。

「行け、我が神の戦士達、この地を神の楽園とする為に殺して、殺して、殺しまくるのだ!」

 ネィガールは神官ではあっても『司令官』ではない。だから彼には自分の戦士にただ前線へ突撃させ、ほとんどの戦士を無駄に死なせることしか出来ない。

 だがそれでも、敵の三倍以上の死を恐れない、──いや、自分から死を選ぶ、狂った戦力を手に入れたネィガールの勝ちは目に見えていた。

 例えここで生き残った者がネィガール一人だけであっても。何故ならネィガールの勝利とは、ここを、この土地を手に入れるだけであり、その後の事など考えていないからだ。

 何故そうまでしてこの土地を手に入れなければならないかは、ネィガールにも解らない。事の発端はネィガールの目の前で、自分の愛する娘の心臓を贄として呼び出した神が、カインゼルと言う若僧にあっさりと滅ぼされた事だった。

 それまではニワトリ一羽の生贄で交信出来ていた神からの言葉が、全く聞こえなくなったのだ。その失踪感はネィガールを大いにうろたえさせた。

 ネィガールはあらゆる事に手を染めた。

 生贄として捧げた生き物は人を含めて二十をこえた。アルコール度数の高い酒を浴びるように飲み。極めて依存性の高いモノにも手を出した。

 その苦労のおかげだろうかネィガールは奇跡的に神との交信に改めて成功した。ネィガールの喜びようは、鬼気迫るものがあったのは言うまでも無い。

 また神のお言葉を聞ける。信者に神のお言葉を伝えて自分も尊敬される。それだけでネィガールの心は満たされていた。

 だからネィガールは忘れていた、最初の自分の願いを。彼はただ強さを求めていたことを、そのために魔神信奉者の神官になったことを。

 彼の目的と手段が狂っている事にネィガールはまだ気づいていない、いや、もはや自分が正常な人間などでは無いという事に気づいていない。

 ネィガールはデーモンがこの地上に約束の地を欲していると思い込んでいた。……本当に?

 ネィガールは強い酒と依存性の極めて高い物を自分が服用している事を忘れていた。

 だからネィガールは魔神との交信に成功した時の自分の精神がすでに狂っている事に気づいていない。……もっとも、この狂った教団でネィガールに意見出来る者は、背教者としいて生きてなど入られはしないだろうが。

 だから今のネィガールは幸せだった。誰も疑わない、誰も反抗しない、……誰も、ネィガールを止めはしない。

 だから気付かない、ネィガールが誰を敵にまわしたのかを。


さて、誰もあまり読みたがらないであろうネィガールの話でした。

僕もあんまり書きたく無かったですが、話しの都合上書かないわけにもいかない。

まあ、こいつがどういった理由でこうなったのか、おおむね理解してください。

え? 理解できない? …ま、そういう事もあります。

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