女の顔
冒険者ギルドの客室で、ナナは険しい顔でたずねる。
「そ、それで魔王アルテア様、ケイ君は無事なのですか?」ナナはティーカップに今ギルドに有る最高の茶葉で淹れた紅茶と、これでもかって位に皿に盛られたアーモンドクッキーを出してきた。
アルテアは紅茶の香りを楽しみ、アーモンドクッキーを一枚食べるとこう言う。
「ナナちゃん人間っていうのは脇腹に十セチ・メール(約十センチメートル)のナイフを深く刺されたら、まず助からないんだよ」
ナナは顔色を青くして俯く、そしてアレ? と思う。なぜこの魔王様はここに来たのだろうかと、ケイ君を助けるため? いやそれならば真っ先にケイ君のもとへ向かうはず。
なんだかんだ言ってこの魔王様は人が良い、知り合いに危険が迫れば色々文句を言ってから助ける、ではなぜ?
「アルテア様、ミーシャさんとレーナさんのお知り合いですか?」
「ミーシャちゃんは名前を聞いただけ、レーナはわたしの弟子だった。短い間だったが」
当たりだった。アルテアは話しを続ける「レーナは不憫な子どもでねぇ、良い家に産まれながらあの頭の角のせいでいじめられて、だから友達が出来たと聞いて、わたしの出番はここまでと身を引いたのだけど」アルテアはため息をつく。
ナナは思い出す、“おもに男関係で色々あった” “ミスフォーチュン・ペア”。
アルテアは話しを続ける「二人の情報を集めていたら、この国に入ってケイ坊やと知り合ったって聞いてわたしは喜んだ。だがそんな喜びもある事を思い出し引っ込んでしまった」
アルテアは私の顔を指さしてこう言った「この国にはわたしの知り合いで、あの二人と別の意味で不幸な女の子がいた事を思い出しちまった。ナナあんたこのままで良いのか?」
ナナは最初アルテアが何を言いたいのか分からなかった。だからアルテアはまくし立てる様に言う。
「わたしはレーナとケイ坊やをくっつけたい、まあケイ坊やの趣味がミーシャの方が良いと言うのであれば、応援するのもやぶさかではない。あの子も十分不幸だった。でだ、ナナあんたはこのまま何もしないつもりか? あんたの母親のように何もしないでただ見ているだけで良いのかい?」
アルテアのある意味辛辣な言葉にナナは何も言えない。──いや、ナナの顔は真っ赤になる。今まで隠しに隠していた感情の仮面をアルテアは山の彼方に投げ飛ばしたのだ。
そこに有るのはケイの顔を見るだけで嬉しくなったり、悲しくなったりする。ケイを自分だけの者にしたがっている、とても、そうとっても自分勝手で嫉妬深くわがままな。ナナの大嫌いな女の顔だった。
だんだん、正体を現せて来ましたね、この魔王様。この後もこの調子で場をひっかきまわして行くんですよ。たちが悪いですね。




