魔王
「ケイ君、無事に帰って来て」ナナはいつもの様に静かに祈る。
前回無事だったからと言って今回も無事に帰って来られるとは限らない。
だからこうしてお茶とお菓子までつけるのだから。
「お願いだからケイ君、生きて帰って来て」目の前の人物に手を合わす。そう、祈る相手は神では無い。
「…あのねぇナナちゃん…」
「なんでしょう、アルテアさん」
ときどきこのギルドに顔を出すアルテアさんは、何か不満そうにティーカップをテーブルに置くと、私に話かけてくる。
「ケイ坊やが心配なのはわかるけど、わたしに手を合わせるぐらいならギルドメンバーを送った方が良いと思うよ」
「いえいえ、そんな事をすると経費が掛かっちゃうじゃないですか。そんな事をして何もありませんでした、なんて事になったら私のお給金が減らされちゃいます。少しはほかの人に力を使った方が後々の為にも良いと思いますよ、魔王様」
魔王アルテアは、はぁー、とため息をつく。
アルテアは女性からも男性からも好かれる。性格は男性的でありながら体のラインはとても女性的なのだ。
小さい頃ナナが性別を聞いた事があるが、その時の答えは「両性」と言う答えだった。…良く生きていられたなと、ナナは今でも思う。
「昔はあんなに愛らしかったのにどこで道を間違えちゃったんだい? ナナちゃん」
魔王アルテアはプラチナブロンドの髪を指に絡ませて、薄い茶色というよりも黄色と言った方がいい瞳をナナに向ける。普通の人なら、良い意味と悪い意味とで心臓に負担をかけかねない目力でナナを見る。
が、ナナは動じずに「そんな昔の事なんて覚えてもいませんよ」と何事もなく答える。
「──で、何が知りたい? ケイ坊やが今どうしているか観てくれ、なんていうのはごめんだぞ。後で怒られるのはわた…」
「あらもうこんな時間、ごめんなさい大したおもてなしも出来なくて」そう言ってサッサと片づけを始めるナナ。
「あ、こら、まてって」
最後の楽しみとして取って置いた、アーモンドクッキーに手を伸ばされて慌てる魔王様。
「解かったよ、観てやるよ! だからアーモンドクッキーを人質にとるな!」
「あら、お茶がぬるくなっていますアルテアさん、煎れかえますね」
やれやれ、という感じでアルテアは目を閉じるそしてこう言う「あー、死にかけだね、また」
ガチャっとティーセットを鳴らすナナ。
さあ出ました! 魔王です。まだネコを被っていますがすぐに本性出しますよ! 書いた僕が言うのですから!




