俺、この国が大好きなんだ。
「くう!」ケイは激痛で思わず後ろへ倒れそうになる。
「ケイ君! しっかりして!」そんなケイを支えるレーナ。だが、刺された脇腹からは血があふれ出て止まらない。
「おや? 一番弱そうな少年を刺してしまいましたね、まぁいいでしょう。神官様からは一人でも良いから我らの“神”の敵を減らせ、そう仰せ使っただけですから。はははははははぴゃあ!」
狂ったように笑う中年男性の後頭部に、ミーシャのメイスが振り下ろされた。中年男性の命はあっけなく終わる。だがそんな事などどうでもいい、今はこんな男の人生なんかよりケイの命の方がはるかに大切だった。
「血が、血が止まらないよミーシャ」レーナの口もとは震えていた。そんなレーナにミーシャは言う「レーナ、どんな方法でもいいから血を止めるの」
だがレーナは「でも私、回復術は習っていない…」と言って両手でケイのキズ口をおさえる、レーナのローブが見る見るうちに赤く染まる。そんなレーナにミーシャは言う。
「レーナ、人間は体を叩かれたり、切られてもそこが急所じゃなければそう簡単には死なない。でも大量の出血は止めないと確実に死ぬ、レーナ解かるわね? だから何としても、どんなことをしても、これ以上の出血は止めるのよ、レーナ」
焦点の定まっていなかったレーナの目がケイの脇腹を見る、出血はまだ続いている。内臓の大きな血管が裂けているのは間違いない。
レーナは一回深呼吸をして呪文を唱える【体】【の】【肉】【は】【血液】【を】【止める】キズ口から脂肪の塊がはみ出て、あふれ出ていた血をとりあえず止めた。
ミーシャは背負い袋の中から包帯を取り出しケイの腹部に巻く、今の二人に出来るのはここまでだ、ケイの顔色も少し良くなってきた様に見える、だがあくまでも応急処置であり医者、出来る事なら『回復術師』に一刻も早く見せたい。
「う…」ケイ少年が目を開く。「くう!」と言って脇腹をおさえる。
「…また、乱暴な止血の仕方だね…、でもありがとう、これで戦える」
「そんな、無茶よ!」ミーシャはそう言ってケイ少年の両肩を押さえる。
「そうよ、あくまで出血を止めただけで、命にかかわる大ケガなのよ。そんな体で戦い何て」
そう言うレーナの言葉をケイ少年は静かにさえぎって「でもね、誰かがやらないと行けない事なんだよ」
「なぜ?」レーナはケイ少年に顔を近づけて聞く。するとケイ少年は静かに答える。
「信仰の対象となる程のデーモンは強い。都市一つ簡単に滅ぼせる程。なんだかんだ言って俺この国が好きだし、あの都市に住んでいる人たちも大好きなんだ、だから」
そこまで言ってケイはおどろいた。ミーシャとレーナの目から涙が流れていた、はっきり言って二人が何故泣いているかどんな感情を抱いているかは知らない、だからケイは二人の頬に手を当てて、優しく微笑みこう言った。
トンネルからもう少しで、出られます。
もう少しお付き合いください。
もっとも、この話しは全54話ですけどね。




