初戦闘
カルーン男爵領にカインゼルが来る!
この第一報に一番早く反応したのは、神官ネィガールだった。ついにあの男が来る、自分の愛おしかった娘の心臓を代償に呼び出した“神”を、簡単に倒したモジドウリの化け物!
あの化け物のせいで、一時的に“神”との心の交流が出来なくなった時の不安感と言ったら!
一体どれだけの生贄を捧げたか! どれ程依存性の高いモノに手を出したか!!
だがそのおかげで、ワタシは今まで以上に“神”と繋がることが出来た。ワタシと共にこの苦しい時を過ごした“神”の信奉者達も今は喜んでいる。“神”との繋がりを更に強めたのだから。少し信者の人数が減ったのも仕方がない、喜んで生贄になれたのだから。
だからこそ、今度は負けることは出来ない。いや、許されない! 今度負ければ我らの教団は完全に崩壊する。それだけは何としても防がねばならない。ネィガールの体に震えが走る。 おお我が愛する娘、安心しておくれ、あの男はどんな手を使ってでも殺してあげるから。
ネィガールは震える体を自分の手で抱きしめる。
予定どうり、中年男性が帰った翌日に出発した三人が、一晩の野宿をはさんでカルーン男爵領へと進んでいく。道の右横に川が流れる場所でケイ少年はふと歩みを止める。
「どうしたの?」ミーシャがケイ少年を見て言うと、ケイ少年は後頭部をさすり。
「…敵、かな」とつぶやく。
「…本当にすごいカンをしているわ」レーナが感嘆の声を発し、森の中を指さして言う。
「敵よ」
レーナの指を刺した方向から、二十人の怪しげなマスクを付けた二メール(約二メートル)
の長身の筋骨隆々とした男達が、肩に長さ百八十セチ・メール(約百八十センチメートル)幅十セチ・メール(約十センチメートル)の青銅の大剣を担いで走ってやって来る。
レーナはミーシャとケイ少年に言う「十秒ほど稼いで」と。
「十秒ほどだね?」ミーシャは確認すると、心の止め金を外す。
【我が力は熊よりも強く】【我が体は鉄よりも硬い】ミーシャの体に筋肉の筋が浮き出る、手に握られたメイスの柄がミシッと音を立てる。
レーナの喉から耳ざわりな音が響く。
「うわ、高速言語か!」ケイ少年はそうつぶやく。
魔術師の最大の弱点は呪文詠唱事に無防備になるところだ。強力な魔法ほど呪文が長くなる。
その弱点を少しでも小さくしようと考えだされたのが、高速言語だった。
高速言語には一の言葉に十から十五の呪文を乗せることが出来る。
勿論、修得には時間がかかるし、何より音楽的な才能が必要である。つまり、音痴には修得出来ない。
ネィガールが再登場しました。これからドンドン重い話に……。うーん。
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