第3話 ざまぁ
「税金ってこんなに高いのか?」
「はい、旦那さま」
トーマスの問いに古参の使用人は落ち着き払って答える。
「家賃ってなんだ? あの店はミストラル商会の持ち物ではないのか?」
「はい、旦那さま。ミストラル商会は店舗を多数持っておりますが、その殆どは賃貸物件でございます」
「経費? 経費ってこんなにかかるのか?」
「はい、旦那さま。店舗を維持するためには、お金が掛かります。従業員への給与だけではありません。テーブルひとつ、棚ひとつ、無料のものなどありません」
「売上が全部利益になるわけではないんだな」
「はい、旦那さま」
「粗利益と売上総利益が同じで、営業利益、経常利益、純利益、か」
「はい、旦那さま。税金を納めて、残った部分が純利益となります」
「面倒だな?」
「はい、旦那さま。商売とは、面倒なものでございます」
「まぁ、いい。商売は順調なのだろう? そちらは任せる」
「はい、旦那さま」
古参の使用人に全てを任せて、トーマスは遊ぶことに専念することになったようだ。
だが、トーマスは知らない。
自分が生活していくのに必要な出費が、どれだけあるのかを。
稼ぎ続け、払い続けていくことが、どれほど大変な事なのかを。
「トーマス? 支払いが滞っていると請求書がこんなに」
「大丈夫だよ、ミラ。まだ財産は、こんなにある」
「トーマス? 請求書の束が厚くなったような気がするけど」
「大丈夫だよ、ミラ。ミストラル商会を売却したから」
「トーマス? 借金取りが来ていますわ」
「大丈夫だよ、ミラ。私が話をつけよう」
財産を余命で割れば、年間に使える金額は大体の場合、高くはない。
「トーマス? 執事も侍女もメイドも、見当たらないのだけれど」
「掃除も、洗濯も、料理も。キミだったら自分で出来るだろう?」
「……」
お金が無くなれば、他人に任せていた仕事も自分に圧し掛かって来る。
それで幸せになれると、本気で思っているのだろうか?
トーマスのことだ。
本気でそう思っているのだろう。
いや、そう思っていたのだろう。
私は神さまの傍らで地上を見下ろしながら思う。
「うん、ミラを男やもめの男爵家後妻にするのは良い選択よね? 娼館に売り飛ばした所で経費がかさんで利益が出ない可能性があるから……うん、悪くない選択だわ。トーマスは……どうかしら? 宝石の採掘場送りにするのはいいけど。良い石を掘り当てられないと利益が出ないわよね……体力だってあるほうじゃないし。でも、頭も悪いし、これといった特技を持ってるわけじゃないから仕方ないかしら。私だったら、もっと早い段階でミストラル男爵家を商売の上手くいっている商家にでも売ってたわ。借金さえなければ、トーマスは無駄に顔がいいから、お金持ちのマダムのヒモにでもなって暮らしていけただろうに。自分の利益になると思った相手には愛想がいいから、イケたと思うのよね。もうダメだろうけど。採掘所の仕事で唯一の取柄である見た目がボロボロだわ」
「どうだい? 納得できたかな?」
「んー、神さま。ちょっと『ざまぁ』が弱いかもしれない」
「ほっほっほっ。ワシは神さまなので、キッツイ『ざまぁ』は個人ではなく社会にかけなければならんのだ」
「なら、仕方ないですね」
「その代わりと言ってはなんだが。キミは異世界に転生させてあげるから」
「やったー!」
トーマス。散々な目に遭わせてくれたアナタには恨みしかないけれど。
私は異世界転生できるみたいなので、そちらで楽しく過ごしますね。