第2話 夫は歓喜する
「エレノアが死んだ」
現ミストラル男爵の声には喜色が満ちていた。
「トーマス。これでアナタの思う通りにできるわね」
「ああ、ミラ。そうだよ」
ニヤニヤと笑うトーマス・ミストラル男爵は、下衆そのものだった。
「コレで私たち、結婚できるのね」
「ああ。そうだよ、ミラ」
ピンク色の髪をふわふわと揺らしながら、ミラ・ペラルタ男爵令嬢は恋人に寄り添った。
絞れるだけ絞ったウエストの余波でプルンと膨らんだ胸をトーマスの腕に擦り付ける。
「嬉しいかい? ミラ」
「ええ、アナタ」
だらしなく鼻の下を伸ばして問いかけるトーマスに、ミラは満面の笑みで答えた。
舅である前男爵は諦めたように溜息を吐いた。
そして言う。
「仕方ない」
全てを諦めたかのような言葉に合わせたように、程なくして前男爵は亡くなった。
「これで、ミストラル商会もオレの好きにできる」
「頼もしいわ、トーマス」
得意げなトーマスをミラはうっとりと見つめた。
「ミストラル男爵家の財産は膨大だ。これからは遊んで暮らせるぞ」
「嬉しいわ、トーマス」
今までに働いたことがあるかのような言葉に疑問を持つ者など、その場にはいなかった。
彼らの脳裏にあるのは、輝かしい未来のみ。
だがトーマスは知らない。
自分の未来に、何が待っているのかを。