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ハッピーエンド




 ソフィオーネに届いた招待状の行方であるが、彼女が隠そうと引き出しを開けていた所に、タイミング悪く鼻の利く妹が部屋を訪れた結果、渋々二人でお茶会に参加する運びとなってしまった。



 突然何を言い出すのか。

 あの社交界でソレイユ王太子にプロポーズされてから、身構えていたソフィオーネだったが、その心配は杞憂に終わってくれた。

 それも、レジーネが想いを寄せてしまったフィーバーフューも同席してくれたから。

 彼と妹がその場の雰囲気を上手い具合に作ってくれ、気付けば時間はあっという間に過ぎており、退屈する暇もなかった。



 だからなのか、その場の雰囲気に飲まれてソフィオーネはソレイユ王太子からのデートの誘いを受けてしまった。



 

 今日も何度目のデートだろう。




 城下にある人気のケーキ屋。

 品揃えが豊富だと噂の隣町の本屋。

 好きな作家が脚本を書いたという舞台。



 そして、気付けば王宮にある図書室で一緒に本を読んでいる。


 流石王宮、と、言わんばかりの珍しい本のラインナップに目を輝かせてしまったら、それを見ていた王太子に笑われてしまった。

 今もソフィオーネの座る真正面にソレイユ王太子が陣取り、熱烈な視線を向けている。



 これはもう好き過ぎるのではないか。



 と、周りが恥ずかしくなってしまう程の熱視線をものともしないソフィオーネ嬢は、ある種尊敬の眼差しを周りから向けられているのだが、そういった視線に敏感な王太子は、それらをいちいち牽制していく。


 これまでどの令嬢が気になっているだといった浮いた話もひとつなく、両親だけでなく彼の周りの人間たちは、もしかしたら王太子は一生独り身なのかもしれない、と、懸念していた。

 無理矢理にでも誰かと婚姻を結んでしまおうという話が出ていた時、ソレイユが熱をあげる令嬢が現れてくれたのだ。



 それこそ本当に渡りに船、である。



 身分など関係ない。と言わんばかりに一気に王宮は慌ただしくなり、ソレイユが夢中になった令嬢を逃してはならないと、フィーバーフューを含め、ソフィオーネが好きな物を調べあげ、それと同時進行で、彼女の家族に婚約並びに婚姻の承諾を秘密裏に結んでいた。


 もうここまできたら彼女本人の意思など必要ない。と、言わんばかりに。



 だが、それを知って怒ったのは当事者であるソレイユ王太子である。



「気持ちの伴わない婚姻ならしない」

 と、息子の初めての春に先走った両親とそれに携わった重臣たちを咎め、その書類を破棄させた。



 それ以来、ソレイユはソフィオーネと逢瀬を重ねながら、彼女が自分を結婚相手と意識してくれる様、自分の恋愛事に関しては殊更鈍くなる彼女の為に、睦言を囁き続けた。


 しかしいつまで経っても互いに友人関係を抜け出せず、ソレイユは意を決して本人に伝えた。



「この国で一緒に幸せになってほしい」



 それは人目も憚らず。

 ロマンチックなシチュエーションでも、タイミングでもなく、通い慣れた王宮の図書室で。


 いつもの様にソレイユ王太子の視線などものともせず、今日はどの本を読もうと、本の背表紙を凝視している横顔に。



「?私は今でも十分幸せですけど」

「あー……と。そういう事でなく」

「と、いうと?」

「僕と結婚してほしい」


「……え?」

 


 興味をそそられた本に手を伸ばしていたソフィオーネは手を下げ、ソレイユの方へ身体の向きを変えた。



「ソレイユ様って私の事、好きでしたの?」



 ハッキリと聞き返され、今まで一生懸命好意を露にしていた筈なのに、伝わっておらず、ガックリとその場に崩れ落ちてしまいたいのを我慢する。


 もちろん、それは息を殺してソフィオーネの返事を興味津々に待ち望んでいた図書室利用者たちも同様である。



「ああ」


 キラキラとした瞳でそう尋ねられてしまえば、もう逃げも誤魔化しもしたくはない。


 ソレイユはソフィオーネの足元に跪くと、再び彼女に告白をした。


「僕はソフィオーネが好きだ。ここまでずっと一人でいたのは、幼い頃に出会った初恋が忘れられなかったから。ようやく君に出会えて……。僕の心は再び君に夢中になってしまった。幼い頃、僕が君に言ったこと。覚えている?」


 伝えたい事が多すぎて。

 伝えたい気持ちが大きすぎて。

 ソレイユは自身の心臓の音が周りにいる全ての人たちに聞かれてしまっているのではないかという、錯覚すら覚えていた。


「……」

「……」


 図書室は元々静寂を求められる場所。

 沈黙が二人を包み、ソレイユはただひたすらにソフィオーネの言葉を待った。



「『宝石を渡してやったんだから』」



 すると、記憶を辿る様に、ゆっくりとポツリポツリソフィオーネは言葉を紡ぐ。



「『俺の方が王子様みたいだろ。次会った時に結婚してやるからな』でしたっけ」


「ああ。そうだった。今思うととても恥ずかしいが」


 幼い頃の自分の横柄な言葉を寸分の狂いなく表現された王太子は、恥ずかしそうに一瞬視線を下へ向けると、軽く咳をして再び彼女を見上げた。



「今もその気持ちは変わっていない。だからもし、ソフィオーネの気持ちが僕に向いてくれているのなら、僕と結婚してくれないだろうか」


 ここまで何度もプロポーズしているので、流石のソフィオーネも返事の一つや二つ、返せるだろう。


「私はあの時の自信満々なソレイユ様も好きでしたけどね」


 何を思い出したのか、フフっと笑みを零すソフィオーネに、ソレイユは少しだけやきもちをやく。


「でも、君はあの時フィーバーフューを見て「王子様」って言ったんだ」


「そうでしたっけ?そういえば、その頃読んでいた本に出てくる王子様が、金色の髪の毛に緑の目、長く伸びた髪を後ろに一つで結ぶ、という描写が描かれていたので」



 当時の記憶を呼び覚ます様に淡々と答えるソフィオーネの言葉に、今度こそソレイユは膝から崩れ落ちた。


 ソフィオーネは、そんな王太子と視線を合わせる為に自らもその場に腰を落とし、嬉しそうににこりと笑った。



「きっと多分、その頃から私の王子様はソレイユ様だけでしたよ」


 と、常に肌身離さず持っている、あの時の指輪をソレイユに見せる。



「私が今まで一人でいたのも、あの頃のソレイユ様のプロポーズを待っていたからかもしれません」


「これは」


 王太子は、自分でさえも渡したのを忘れていた母親からもらった指輪を見て、目を丸くする。


「大事にしてくれていたのか」


 ソフィオーネはその返事の代わりに、プロポーズの言葉を返す。


「私もソレイユ様が好きです。一緒に幸せになってください」


 感極まったソレイユはソフィオーネのその返事を聞くや否や、彼女を抱き上げ、その頬に口づけをする。




 その場に居合わせた人たちからは盛大な拍手と祝福の言葉。

 周りを見回せば大人数が二人の始まりを見届けてくれていたのだ。




 そうして初恋が実り、気分の高揚していたソレイユが彼女の唇に触れようとして避けられていたのは、ここだけの話である。





ここまで読んで下さりありがとうございます。

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。


中々他の話の続きが書けない中、この作品の子たちが顔を出してきてくれて、拙いながらも完結させる事ができました。


二、三日で勢いで書いてしまい、出し切れていない設定などあるので、時間を見つけて書けたらいいな、とは思っています。



誤字報告、ありがとうございます。

助けられております。

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