88話「緑山葉はひたすら特訓して速くなりたい③」
9月17日 相変わらず晴れ
またもや闇乙女族が現れました
そしてまた取り逃がしました
夜、今日は蒼条さんと特訓しました。
「オトメ、リッサチャージ、れでぃー……ごー……」
筋肉痛を抑えながら、なんとか僕は変身をやり遂げた。
「一体私は何のために走っているのでしょうかもしかしたら本当は止まりたいのかも知れませんですがこれは本能なのですだって私はダチョウなのですから……」
「ま、待て……」
走り去っていくオーストリッチアクジョを追いかけようとしたが、やはり身体の節々が痛む。昨日よりは大分良くなったけど、やっぱり本調子にはなれない。
結局あっちの方向に過ぎ去ってしまったオーストリッチアクジョを見送りながら、僕はやむなく変身を解除することにした。
こういう日に限って僕以外のオトメリッサは誰も来ていない。僕一人でなんとかしようと画策したのだけれど、無理だった。
――こんな調子で勝てるのかな?
本当に自信が無くなってきたけど、それでも……
僕は、やらなきゃならないんだ。
「来たな、緑山」
「蒼条さん、お願いしますッ!」
「お、おう……筋肉痛が凄まじいと聞いているが、大丈夫か?」
「はい、おかげさまで。あ、すみません。先ほど闇乙女族が現れたんですけど、また逃がしてしまいました……」
「そうか……まぁ闇乙女族は仕方ない。お前も無理するな」
夜、今日は蒼条さんと特訓する約束で外の道へと集合していった。
筋肉痛は大丈夫だというのは、勿論嘘だ。まだ太腿とかかなり痛む。ランニングパンツの下には思いっきり湿布だらけだ。
けど、そうも言ってはいられない。サボってしまった分は取り戻そう。
「今日はどれだけ走りますか?」
「いや、まずはお前の走りを見させてもらう」
?
僕は言われるがまま、数メートル走ってみた。痛みを抑えてはいるけど、これぐらいならなんとかいける。
僕の走りを見ながら、蒼条さんは少し考え込んで、
「やはりそうか……」
「やはりって? 何か問題でも?」
「うむ……早い話が、力が入りすぎている。走るという動作は常に地面に力を込めるものだからな、力みすぎるとその分反動も大きくなる」
――なるほど。
あまり深く意識したことはなかったけど、流石蒼条さんだ。理論的に僕の走り方を観察してくれてしっかりアドバイスをしてくれる。
「ありがとうございます! もう一度走ってみます!」
「そうだな、よし、やってみろ!」
僕は言われるがままもう一度走ってみた。
自分なりにリラックスしてやったつもりだけど、蒼条さんはまだまだ、と首を横に振る。それならもう一度、と走るが、まだ力んでいるみたいだ。
何度も何度も、挑戦してみる――
「今日はこれぐらいにしておこうか」
「え、でも……」
息は荒げているけど、僕はまだやれる。
折角自信を貰ったんだ。何度でもやってやる!
「無理はするなと言っただろう。休息も大事だ」
「無理なんてしていません! まだまだやれます!」
「ダメだ! これ以上はやらせるわけにはいかない」
腕を組みながら神妙な面持ちで僕を睨み付ける蒼条さん。
僕は流石に観念して、「……分かりました」とだけ呟いて全身の力を抜いていった。
蒼条さんは僕の様子を見越してストップを掛けたのだろう。この人の目は確かだ。ここは言うとおりにしておくべきだ。
「蒼条さん、僕のことを心配してくださって……」
「いや、俺もまだレポートの続きが残っているのでな。今日はタイムリミットだ」
――前言撤回!
いつも通りだけど、もう少しこう、何というか、手心というか……
まぁ、でも無茶はいけないのは事実だし、付き合って貰ったのは本当に助かった。
それに――
「本当にありがとうございました。おかげで、ひとつ分かったことがあります」
「ほう? 何だ?」
「それは……」僕は首を横に振って、「今は上手く言えませんけど、とにかくもう一度練習し直してみます」
「そうか。まぁ、自分なりにやってみるのが一番良いだろう」
「はい!」
それだけの会話を交わして、その日の特訓は終わった。
力みすぎ、か――
多分、地面に対して無理に踏み込んでいたのだろう。
僕なりに反省点を頭の中で咀嚼して、その日は眠りにつくことにした。
9月18日 言うまでもなく腫れ
今日は体育の授業で褒められました
昨日の特訓から、ひとつ学ぶことが生かされて良かったです
夜は黄金井さんと、何故か付いてきた桃瀬さんと白龍さんと一緒に特訓をしました
「どうした? なかなか調子いいじゃないか」
「えへへ……」
体育の時間。僕は思わず赤面を浮かべてしまった。
今日はバトンパスの練習だったのだけど、これが思った以上にテンポ良く受け渡しができた。
これもきっと、昨日の特訓で学んだことを応用したおかげかな。
そう――
僕はようやく理解した。地面に対して無理に踏み込んでいくのではなく、力みすぎずに自然に走って行くということ。
これはバトンの受け渡しでも同様で、力を入れてバトンを受け取ろうとすると、前の人との呼吸が合わなくなる。そして、相手に対する視野も狭くなっていく。
大事なのは、『無理をしない』ということだ。適度に肩の力を抜いて、自然に身を任せた方が何事も上手くいく。僕はそう学んだ。
「どうなるかと思ったけど、お前のこと見直したよ」
「緑山、やるじゃん!」
まるで夢のようだった。他のリレーメンバーが僕のことを褒めてくれる。
けど、ここで浮かれていてはいけない。まだまだスピードが劣るのは事実だ。基礎的な部分をしっかりと強化しないと、僕は勝つことができない。
だったら――
そして夜になった。
「葉! ちゃんと準備出来ているか!?」
威嚇しているかのように僕に喝を入れてくる黄金井さん。
僕はそれに怯まず、「お願いしまああああああああああああすッ!」と思いっきり返事をした。
「おっ、やる気満々じゃねぇか! そういうのは嫌いじゃないぜ!」
よし、と気合いを入れ直したが、ここで僕は昨日言われたことを思い出した。力みすぎは逆効果だ。ほどよく肩の力は抜いていこう。
それにしても――
「ようし、僕も葉くんに負けていられないな!」
「ふっ、伝説の走りというものを見せてやろう」
桃瀬さんと、白龍さん……
もの凄く準備万端と言わんばかりにジャージに着替えてここにいるんですけど。しかも、意気揚々と準備運動をしているし。
「……なんであの二人もいるんですか?」
「知らねぇよ。お前の特訓をするって話をしたら、勝手に付いて来やがったんだよ」
「えへへ、最近ちょっと身体が鈍っていたからさ、僕も運動したくなって」
「俺はただ、新たな伝説を残すために、更なる高みを目指すだけだ」
「ったく、お前らにそんなもん必要ないだろ。いっつもビューンって人間離れしたスピードを出しやがる癖に」
同感だ。
それに桃瀬さんはともかく、白龍さんの言っていることが意味不明すぎて反応に困ってしまう。
まぁいっか。もしかしたらこの二人からも良いアドバイスが貰えるかも知れないし。
「しゃーねぇな。走るぞ、葉!」
「はい!」
僕たちは一斉に走り出した。
なんだか足取りが軽い。黒塚先生や蒼条さんとの特訓の成果が出ているのか、一足一足がそんなに疲れない。
「葉、なんだか脚が速くなったんじゃないか?」
「それに……すっごく楽しそう」
「えへへ……」
褒めて貰えた。純粋に嬉しい。
黄金井さんも桃瀬さんも白龍さんも、僕たちのペースに合わせてくれているのは分かっている。だけど――
この心から沸き立つ感情はなんだろう?
「伝説級に達するには程遠いが、こういうのも悪くはないな」
「だね。僕たちもしっかりと特訓していかないとね」
「ったく、こんな時にまた新しい幹部まで増えやがって……」
――ん?
「新しい、幹部?」
「あ、そっか。葉くんは知らなかったね」
「こないだ現れてな。オニキラとかいう奴がな」
そういえば、黒塚先生たちがこないだ闇乙女族と戦っていたって言ってたっけ。まさかまだ幹部がいたなんてね。どんだけいるんだろう、幹部クラス。
「黒塚の女版みたいな奴だったからな。ったく、あんなのが増えんのはマジ勘弁だぜ」
――黒塚先生の、女版?
なんだろう? 最近どこかでそういう人を見かけたような気がするけど……
「でも、ここで気落ちしていたら勝てないからね。戦闘も特訓も楽しんだ者勝ちだよ!」
「確かに、オレは精神論は好きではないが、案外そういうものかも知れないかもな」
「お前らなぁ……ま、テンション上げた方がいいのは確かか」
――楽しむ、か。
そういえば、すっかりそんな感情を忘れていたっけ。柳田があんなことになってから、ずっと僕の気持ちが荒んでいた気がするからな。落ち込んでばかりもいられない、よね。
「それじゃあ、僕ももっと楽しんでいきます!」
「ようし! 僕も全力疾走!」
「あ、こら!」
「ふむ、ならオレも……」
勢いよく走って行く桃瀬さんと白龍さん。
そして、それを追いかけようと更に思いっきり走る黄金井さん。
僕はみんなの姿を見ながら、ただただひたすら自分のペースでゆっくりと走って行ったのだった。
よし!
僕は自分の中で得た答えを胸に、勝負に向けて意気込むのだった。




