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TS魔法少女オトメリッサどもは漢気を取り戻したい  作者: 和泉公也
第四章

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87話「緑山葉はひたすら特訓して速くなりたい②」

9月15日 晴れ

 今日、学校に新しい先生がやって来ました。

 今日から体育でリレーの練習が始まりましたが、とっても大変でした。

 そして夜、黒塚先生にも特訓してもらうことにしました。


「えー、彼女は今日から教育実習生として赴任してきました鬼木蘭子(おにきらんこ)先生です。体育の授業を主に教えることになりますんで、よろしくお願いします」

 ――教育実習?

 そんな話、全く聞いていなかったけど。

僕は首を傾げて、新しく現れた先生の顔を見る。

「はい、今ご紹介に預かった鬼木蘭子だよ。体育ではアンタたちをビシバシ鍛えてやるから、覚悟しなよ! いいかい? あたいの授業は生半可なもんじゃないからね!」

 なんていうか、豪快そうな先生だ。赤い尖った髪に、黒いタンクトップ。黒塚先生の女性版みたいなイメージがある。知り合ったら仲良くなれるんじゃないかな?

「あの、鬼木先生。お手柔らかにお願いしますね。このご時世、しごきとか体罰とかそういうのは……」

「知ったこっちゃないよ。さぁ、早いところ体操着に着替えた着替えた!」

「すみません、一限目は理科なんですけど……」

「あん? そうなの? 今日は体育は……」

「……給食の後、ですけど」

「それならそれで、腹ごなしにちょうどいいな! よっしゃ! それまで身体を温めておくか! はっはっは!」

 ――なんなんだ? この人。

 笑い方も黒塚先生みたいだけど、あの人とはどこか違う雰囲気だ。上手くは言えないけど。

 普通教育実習が来たら皆がはしゃぎそうなものなのに、もう教室中がずっと静まり返っているよ。


 それから午前中――

「ぐがーーーーー、ごおーーーーーーー」

「誰ですか!? 授業中に大きないびきを掻いているのは!」

「先生、鬼木先生が後ろの方で熟睡しています!」

「……後でしっかり反省文書かせます」

 授業にならない授業が、ひたすら続いていた。

 ――この人、本当に大丈夫かな?


「さぁ、みんな! お待ちかね、体育の時間だよ!」

 さっきまでの熟睡ムードはどこへ行ったのか、運動場で意気揚々と僕らの前に立ちはだかる鬼木先生。

 不安を抱えつつ、僕は整列して黙りこんだ。

「やだなぁ、運動会の練習……」

 僕は思わずぽつりと呟いてしまう。

「葉くん、頑張ってね!」

 横からの根元さんの圧が凄い。まるでアイドルの推し活をしているファンみたいな目だ。僕はまたもやはぁ、と溜息が出てしまう。

「今日は運動会の練習だったね。ま、あたいは入場の行進とかそういうのは興味ないから、リレーのメンバーだけこっち来な。しごいてやっから! ほんで、関係ない奴らはあっちで勝手にやっといて」

 ――言い方!

 ――もの凄い雑!

 そんな心の中でツッコミをしながら、僕たちリレーメンバーは鬼木先生のほうへとやって来たのだった。

「……よろしくお願いします」

「ふむふむ、これがリレーに選抜された面々かい。ま、普通……ってか、そこのアンタ」

 鬼木先生は僕を指さした。

「えっと、先生……」

「ううん、やっぱ頼りないねぇ。見るからに。本当にリレーメンバーに選ばれたんかい?」

 ――ほら言われた。

 正直予想通りの反応過ぎて、もう怒りも落胆もなかった。

「すみません」

「はっ、何謝ってんだい? もしかしてアンタ、本当は走るのに自信ないってか?」

「その通りです」

 この際キッパリと言ってやった。

「おうおう、自信ありげに自信ないこと言うんだねぇ」鬼木先生は僕の顔をじっと見つめて、「でも……そういう方が鍛え甲斐があるってもんだ。なぁ……」

 先生はニヤニヤと笑っている。

 ――なんだ?

 この先生、何を楽しんでいるんだ?

 豪快に見えて、何か良からぬことを企んでいるような笑い。これとは全然違うけど、どこか似たような雰囲気を放っている人物を僕は見たことがある。そいつはいつも僕たちをあざ笑いながら、大事な人を奪っていく。

 脳裏にちらつく、パールラの不敵な笑み……

「おい、どうした?」

 呼びかけられて、僕はハッと我に返ってしまう。

 ――いけない。

 先生はアイツとは全然違う。今はとにかく、速く走ることだけを意識しよう。

 パールラを、倒すためにも……

「先生」

「ん? なんだ?」

「僕、速く走れるようになりたいんです。ですから、特訓をお願いします!」

「はっ、良い心意気だね! よっしゃ! だったらアンタたちが運動会で勝てるように、しっかりと特訓してやんなきゃね。それじゃあ、早速……」

 僕はごくり、と唾を飲み込んだ。

「グラウンド、十周!」


 ……

 他の皆が「えぇ……」とあからさまに嫌そうな声を挙げた。

「グラウンド十周ですね! 分かりました!」

「アンタはやる気満々でいいね! 他の連中も見習いな! いいか、勝つためにはまずは基礎体力の底上げが必至だ!」

 ――よし!

 僕は拳を握りしめ、やってやろうと心に誓った。


「おーい、何チンタラ走ってんだい! あと七周!」

 はぁ、はぁ……

 やっぱり僕は息が上がってしまった。

 既に他の皆からは大分引き離されている。四周目に入ったところで脚の感覚がもうなくなってきている。今は身体が勝手に前に進んでいるような感覚だ。

 そういえば今日は三十五度だって言ってたっけ。最近残暑が酷いよなぁ……汗がもう全身から間欠泉のように吹き出してきている。

 五周目――まだ半分以上残っている。

 六周目――かろうじて生きている。

 七周、八周、九周……生きて、いる、よな……

 十周……


 ……


 お、お、お……わ……った……

 僕は終わった瞬間に、その場に倒れ込んだ。

 ってか、他の皆も日陰でグロッキーになっているし……これ下手したら大問題じゃないの? このご時世に。熱中症とか出したら本当にマズいんじゃ……

「ったく、やっぱアンタがビリじゃないか」

「す、すみ……ま……」

「ほら、涼しいところで水分取りな。死なれたらこっちも困るからね」

「……は、い」

 僕は重い身体を動かして、水筒の麦茶をガブ飲みした。

 人生でここまで走ったのは久しぶり、どころか初めてだ。けど、こんなので鍛えられるのか本当に疑問でしかない。

「どうだい? 今の気分は」

「……もう嫌です」

「走りたくない……」

「はっはっは! だろうねぇ! まずはよくやったと褒めてやろう! そんで、アンタらも自分を褒めてみろ。十周走りきった自分自身に、な」


 ――自分を、褒める?

「褒めるも何も、もうキツすぎて……」

「いいから、褒めるんだ! こんなクソ暑い中、頑張った自分をね。どうだ? 自信が湧いてこないかい?」

「うーん……」

 皆が怪訝な表情を浮かべている。

 けど、言われてみたら確かにそうかも知れない。無茶苦茶だけど、こうしてやり遂げたのは事実だ。

「悪いけど、あたいはそれしか教えられないもんでね。自分を鍛えられるのは他の誰でもない、自分自身だ。今のガキどもは本当に自信なさそうな奴らが多いからね。まず自分はできるって思い込む。できたら褒める。それを大事にするんだね」

 ――先生。

 凄く厚さと熱さと暑さを感じる言葉、ありがとうございます。

 僕は空になった水筒を握りしめ、じっと考え込んだ。


 僕は、出来るんだ――

 自分にそう言い聞かせることにしよう。



 その日の夜――

「はっはっは! 今日は俺が特訓してやる!」

 いつものタンクトップ姿で現れた黒塚先生。

 僕は運動着に着替えて、準備体操を始めた。

 正直まだ昼間の体育の疲れが残っている。でも、グラウンド十周走ったおかげで自信が付いた気はする。水分もしっかり取ったし、今なら何でもできる気がする。

「よろしくお願いしまああああああああああああああす!」

「おっ、いい返事だな! よっしゃ! だったら俺に付いてこい!」

「はいッッッッッッ!」


 僕は意気揚々と走り出した。

 暗くなるのも早くなってきた季節。多少涼しさが現れ始めている。けど、走るとやっぱり汗は掻いてしまう。

 ――できる。

 ――僕は、きっと出来るんだ!


「なんだ? 本当にいい顔してんじゃないか! はっはっは! なら、俺も負けていられないな!」

「ええ、望むところです!」

 僕は強い自信を持って、黒塚先生と夜の道をランニングしていった。



 9月16日 晴れ

 今日は創立記念日で学校がお休みでした

 ですが、筋肉痛があまりにも酷くて一日中ベッドから起き上がれませんでした


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