表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS魔法少女オトメリッサどもは漢気を取り戻したい  作者: 和泉公也
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/88

番外編 「黒塚兜はなかなか泣かない(後編)」

「おーじーさん!」

 暗い道の、公園前。街灯がまばらに照らす中に声が響いた。

 あの金髪男は振り返り、相手を見る。

 ここからは少々描写不足になるが堪忍してほしい。

「あん? 誰、君?」

「あの、真田蛍の友人です」

「へぇ……。で、何の用?」

 男はぶっきらぼうそうに相対する。なんとなく言おうとしていることは察しているのだろう。

「あなた、蛍さんにお金たかっていますよね?」

 そう言われた男はちょっとムッとした表情になり、

「たかってるって、人聞き悪いなぁ。俺はあ・く・ま・で・も! 借りてんの!」

「返してください! それは蛍さんとお母さんにとって大事なお金です!」

「だから?」

 やはり男は聞く耳持たず、といった様子だ。完全にナメたような目で相手を見ている。

「お父さん、なんですよね? 高校生の娘にお金をたかるってどういう神経しているんですか!?」

「あのねぇ、君」男は頭を掻きながら、「これは蛍に貰ったの! 娘が父親を助けるのは当然でしょ? てか寧ろお母さんのほうが積極的に渡せって言ってんだから、何の問題もないっての! 分かったらシッシッ! 余所の家の問題に勝手に入らない!」


 ――クズが!


 罪悪感の欠片もないな、この男。刑事ドラマなら確実に被害者になるタイプだぞ。

「……少年院に入っても結局中身は変わらないんですね」

「あん?」

 男は明らかに不機嫌剥き出しで顔を歪めた。

「知ってるんですよ。小学生の頃は近所のガキ大将気取り、喧嘩ばかり。中学は不良グループのリーダー。そしてその頃には既にあっちのほうの経験済み。高校に入って同級生の女子を妊娠させて、そのままヤリ捨て。同時に暴行傷害事件を犯してそのまま少年院行き。出てきたら悪い仲間とヤバい仕事をしつつ、ほぼギャンブル三昧。で、どこかしら風の噂でかつて自分が妊娠させた女性を突き止めて理由をつけてそこの家に転がり込んでやろう、って魂胆ですか。ホント……何も変わってねぇなぁ」

「このガキ……、何でそんなことを知って……」

 と、そこまで叫びかけたところで、男ははっと顔が引きつった。

「どうしました? 私の顔に何かついていますか?」

「まさか……、てめぇ……。嘘、だろ? 変わってねぇとか、そんな……」

 お、効いてる効いてる。ようやく気が付いたみたいだな。

「謝るなら今のうちですよ」

「う、うっせぇ! てめぇ如きがあああああああああああああああああッ……」

「……漢気、超極小解放」

 金髪の男が拳を振り上げた瞬間――、


 ドゴッッッッッッ!


 右頬に一発。

「ふごッッッッッッ!」

 殴られて飛ばされたのは、金髪の男のほうだった。

 ――やれやれ。

 近付いて確認してみる。何が起こったのか全く理解できない、大間抜けな顔で男は伸びていた。鼻からは微小ながら鼻血が出てる。ズボンの股間あたりも若干湿っている。

 ――おっと。

 そろそろ、俺も元の姿に戻っておかなければな。

 そう思って変身を解除して着替えていると、俺のスマホが鳴る。恐らく、頼んだ動画が届いたはずだ。

 さぁて、早いところ気が付いてくれるか……?

「う、うぅ……」

 おっと、思ったよりも意識を取り戻すのが早いな。

 俺は急いで男が懐に仕舞ったお金を取り出して、そのまま奴の前でしゃがみこんだ。

「よぉ、気が付いたか?」

「て、てめぇは……?」

 我に返った金髪男は、目の前にいる男を見て驚いている。まぁ、その男ってのは俺のことなんだが。

「久しぶりだな、源次(げんじ)ぃ」

「だ、誰だ? お前、何で俺のことを……」

「忘れたか? ガキんときはお前に随分世話になったんだがなぁ」

「世話になったって……。ま、まさか、お前……」

 俺はわざとらしく不敵に笑った。

「あぁ、そうだよ! 昔、お前に散々いじめられた、『泣き虫兜』だよッッッッ!」

「なっ……、てめぇが、あの……? じゃあ、さっきまでいたガキは?」

「ガキ? あぁ、これのことか?」

 俺はスマホを開き、先ほど届いた動画を見せつけた。

 そこには金髪男がアパートで金をたかるところから、先ほどの殴られたシーンまで一部始終が映し出されている。男――源次は唖然とした様子でそれを眺めていた。

「まさか、ハメやがったのか? お前、俺を……。いじめられた仕返しに? あのガキを差し向けて?」

「ハメた? 俺はただ、生徒のことが心配で様子を見に来ただけだが」

「せい、と?」

「あぁ。真田蛍は、俺の生徒でな。あ、ちなみに今は高校の教師やってんだよ」

「じゃあ俺を殴ったガキは……」

「さぁ? 知らんな。それにしても驚いたぞ。まさかお前とこんなところで再会できるとはな。少年院に入ったと聞いたからちったぁマシになったかと思えば、相変わらず腐った性根は変わっていないようだな」

「てめぇッ!」

「その上、偶然にも“昔の俺そっくり”の子どもが現れて、そいつに殴られるところに出くわすとか。とんでもない醜態だな。どうだ? かつていじめてた奴に殴られたような気分は?」

「ぐっ……」

「あと、お前がカツアゲした金は返してもらったぞ。勿論これは蛍にきちんと返しておく。ったく、父親の風上に置けねぇ奴だ」

「ふ、ふざけんなッ! こんなことしてタダで済むと……」

「お、やるか? お前のことだ、どうせダサい仕返しでもするんだろ。そんなもんいくらでも買ってやるよ」

「この……」

 やぶれかぶれに殴りかかってきた腕を、俺は力強く受け止めた。

「言っておくが、俺はもう昔とは違う。かなり強いぞ。少なくとも、今のお前よりはな!」

「う、うぅ……」

 俺は更に奴の腕を力強く握り、

「分かったら、二度と俺の生徒の前に顔を出すんじゃねぇッ! 次に真田を泣かせるような真似してみろ、この動画を拡散してやるからなッ! おっと、それか殴り合いのほうがいいか?」

「く、クソ……、放せ」

 お望み通り、俺は奴の腕を放してやった。

「とっとと失せろッ! このクズ野郎ッ!」

「ち、チクショウッ! 覚えてやがれッ」

 口では強がりつつも怯えた表情で金髪男は覚束ない脚で逃げていった。


 ――ザコが。

 弱くなったな、アイツ。いや、元々そんなに強くはなかったか、俺が強くなったのか。もう今となっては分からんな、こりゃ。

「終わった?」

 欠伸交じりに物陰から誰かが現れた。

「おう、すまんな灰神。いきなり協力を頼んで」

「全くよ。いきなりあの男のことを調べろとか、服を貸してくれ、とか、動画を撮影してくれ、だなんて。その上オトメリッサに変身してこんなことするなんて」

「はっはっは! 俺もこんな使い方をするなんて予想外だったぞ!」


 本当にまさかだったな――。


 初めて変身したときから思っていたが。


 オトメリッサになった俺の姿――。

 子どもの頃の俺に、結構そっくりなんだよな。


 よもやそれがこう役に立つとは思わなかった。


「でも、まぁ……」灰神はふっと顔を綻ばせて、「正直、カッコよかったわよ。いい先生じゃない。見直したわ」

「どんな理由があろうと、人を殴った時点でいい先生とは呼ばんよ」

 俺はじっと、自分の拳を見つめた。

 そうこうしていると、あっちの方から誰かがやってきた。

「……先生?」

 ――おっと。

「真田? お前、こんな夜中にどうして?」

「ちょっとお金をおろしに……。って、先生こそ!」

「おう! だったら心配いらんぞ!」

 俺は源次から取り返した金を真田に手渡した。

「このお金……。先生、どうして?」

「はっはっは! なぁに、ちょっと気になって調べてな。んで、奴は偶然にも昔馴染みだったから、話を付けて金を取り返してやったぞ! 真田の前にも二度と現れないよう言っておいた」

 殴ったことは一応伏せておこう。いらん心配を掛けさせるわけにもいくまい。

「そんな……、私のために。ありがとう、ございます。ありがとう……」

「なぁに。先生は、女を泣かせる男が嫌いなだけだ」

「先生……」真田は俯いた顔を挙げて、「あなたがそれ、言いますか? だって先生、私を、泣かせてるじゃないですか……」

 真田は涙で顔がぐしゃぐしゃになっている。うぅむ、やりすぎたか、こりゃ?

「す、すまん……」

「なんで、謝るんですか……。寧ろ私は、本当に感謝しているんです……」

 真田は袖で涙を拭った。

「アンタも罪な男ねぇ」

「罪なのか?」

 これじゃ良いことをしたのか悪いことをしたのかよく分からんな。

「先生……」先ほどよりは大分落ち着いた様子で、真田は「明日、覚えておいてくださいね」

「えっ……?」

「先生のこと、絶対に泣かせてみせますから!」


 ――えっ?


 なんだ、この既視感バリバリの台詞は?

「えっと真田。それはどういう……」

「それじゃあ、先生。また明日! おやすみなさい!」

 すっかり元気を取り戻した真田は、そのまま手を振って帰ってしまった。

「……なんだ、ありゃ?」

「ふぅん……」

 灰神はふっと笑っている。何か分かったのか?

「おい、灰神……」

「ちゃんと生徒に泣かされてきなさい、先生」


 ――うぅむ。


 正直意味が良く分からんが。

 まぁ、明日になれば分かるか。



 翌日――。

 結局一日、普通の授業で終わってしまった。

 黄金井も真田も、いつも通りの態度だったし、一体何なんだ?

「それじゃあ連絡事項は以上だ。帰りのホームルームを終え……」


 パァン!


 突然、教室内に響き渡る破裂音。

 俺の目の前に、カラフルな紐が降り注いでくる。若干、硝煙のような匂いもするが、別に火事とかではない。

 って、これは……。

「黒塚せんせい!」

「お誕生日……」


「「「「「「「「「「「おめでとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうッ!」」」」」」」」」」


 俺は思わず呆然とした。

 生徒たちが皆、色とりどりのパーティ帽子を被りながら、クラッカーを投げつけてくる。

「ど、どうして俺の誕生日を……」

「ん? あぁ、影子さんのデータベースに……」

「おい、翼! 黙れ!」

 影子?

 もしかして、灰神が教えたのか?

「先生、いつもありがとう!」

「これ、みんなでお金を出して買った、最新のトレーニンググッズだよ」

 黒い高級そうな包みを、君澤が手渡してくれた。


 ――まさか。


 泣かせるって、こういうこと、か?

「空気読めないところあるけどさぁ」

「いつも私たちの相談に親身に乗ってくれるし」

「うちの部が優勝できたのも先生のおかげです」

「……バレンタインのときはありがとうございました」

「ケッ! あんま気が進まねぇけど、なんだかんだで世話になってるからな」

「またまたぁ、爪くん! プレゼントを一番真剣に選んでいたじゃない!」

「だああああかあああああああらああああああッ! 黙れッ! 翼ッ!」

「私も……、昨日は先生のおかげで……」

「えっ、真田さんも何かあったの?」

「詳しく聞かせて!」


 なんだよ、お前ら……。


 私部――。

 君澤――。

 岡田――。

 三途――。

 黄金井――。

 桃瀬――。


 そして、真田――。


 みんな……。

 お前ら、お前らなぁ……。

「あー、先生!」

「泣きましたね! やったぁ!」

「作戦、大成功ッ!」


 ――なんだよ、お前ら。


 認めてやるよ。

 俺は今――。


 猛烈に、号泣しているぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

「うわっ、黒塚先生が唸ったッ!」

「おい! 思った以上にうるせぇぞ!」

「ま、いいじゃない。先生を泣かせられたんだし」

「そそ!」


 ――俺は、俺は。


 やっぱり、教師という仕事が、大好きだッ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ