79話 「闇乙女族どもは裏切者には容赦しない」
良い子のみんなアアアアアアアアアッ!
お久しメリッサァアアアアアア!
久しぶりのご登場、作中屈指の便利屋、メターちゃんだよ! あ、これ自虐ね!
さてさてぇ、オトメリッサも六人になったところで、戦力が増えたのは良いんだけどぉ……。
みんな、何か大事なこと忘れちゃってなぁい?
……。
…………。
はい、そうだよぉ。誰からも返事ないけど勝手に話進めちゃうね!
オトメリッサたちが死闘を繰り広げた教会からさほど離れていない、裏山の中。はぁ、はぁ、と誰かが息を荒げながら彷徨っていたの。
「くっ、まだまだ……。あっしの実力は、こんなもんでは、ありやせん……」
ななななななんと! あれだけコテンパンにされたにも関わらず、フェニックスアクジョはまだ生きていたの! 全く、どんだけしぶといのよ!
誰もいない山の中。木々にもたれかかりながら、羽を抑えて地面にへたりこんじゃうフェニックスアクジョ。
「絶対、次こそは……」
「次こそは、何ですか?」
突然聞こえた声に、フェニックスアクジョははっと気が付いたの。
「あ、アメジ、ラ……」
「アメジラ『様』です。上司に対してその口の利き方は何ですか」とアメジラは溜息を吐いて、「と言いたいところですが……、残念ながらわたくしはもうあなたの上司ではありません」
「えっ……? それって……」
クビ、という単語が出かかったのを抑えて、フェニックスアクジョは言葉に詰まったの。
「いいですか? 貴方が身勝手な行動を取ったことで我々闇乙女族全体にどれほど迷惑を被ったか、考えましたか? 結果的にイニム様がオトメリッサになってしまったわけですし。そのような行為は『マスタージュエル様』のご意思に反することだと反省なさい。今回の貴方の行動は大変に許しがたいものです。わたくしより上に行きたければ、相応の実力を示しなさい。それと、勝手にイニム様と婚礼を挙げようなどという愚かな行為も二度としないように」
「す、すみませんでさぁ……」
「それで、貴方の処分ですが――」
そう言いかけると、フェニックスアクジョは顔を青ざめて、「何卒! 何卒! 穏便に頼んまさぁ! あっしは、ただ単に、つい魔が差してしまっただけで! 悪気は、これっぽちしかなかったんでさぁ!」
「ふぅん。どれっぽちかは存じませんが」アメジラはフェニックスアクジョをギロリと睨みつけ、「わたくし――、『ドラゴンアクジョ』を相当見下している、ということだけは理解できました」
「そそそそそ! そんなことはございやせん」
「怪しいですね。貴方、ご自身を相当過大評価しているように見えますが」
「いえいえいえいえいえいえいえいえいえ! あっし如きがアメジラ様をナメてるなんて、そんなこたぁ……」
「まぁいいでしょう。とりあえず貴方には我々のチームからは外れて別のチームに移ってもらいます。それこそが、今回貴方に課せられた処分です」
「えっ……」フェニックスアクジョは一気にほっと胸を撫で下ろして、「チームを、外れるだけ? そ、そんなことでいいんですかい? クビではなく?」
「ええ。最初に申し上げた通り、わたくしはもう貴方の上司ではありません。つまりは、そういうことです」
「うぅ……、寛大なご処置ありがとうごぜぇやす」
「では……」アメジラはチラっと後ろを見て、「貴方の上司になる、新しい幹部の方をご紹介致しましょう」
アメジラがそう言うと、彼女の後ろから誰かがやってきたの。
「クスス……」
「あ、あんさんは……」
その姿を見るなり、再び青ざめるフェニックスアクジョ。
真っ白なワンピース姿で、不敵な笑みを浮かべるその人物に相当恐れをなしていたみたい。
「あなたがフェニックスアクジョさん、ですの?」
「ま、まさか……」
「知っているとは思いますが、改めてご紹介致しましょう。彼女はパールラ。貴方の新しい上司です」
「こんにちは、裏切者さん。以後お見知りおきを、ですの」
――マズい。
フェニックスアクジョは少しずつ後ずさりしていったわ。でも、パールラの恐ろしいオーラに圧倒されて、金縛りにあったかのように硬直してしまうの。
「さて、後は貴方に任せます。パールラさん」
「ええ。それじゃあ、早速あなたにはやってもらうことがありますの」
そう言って、パールラはパチン、と指を鳴らしたわ。
ザッ――!
フェニックスアクジョの背後から、何か掠れる音が聞こえたの。
と、その瞬間、足首と手羽に何か堅い感触が伝わってきたの。
「ぐっ! こ、これは……」
何かの植物の蔓だと気が付いたのも束の間、フェニックスアクジョの身体は木の上に吊るしあげられたわ。
「クスス。実は、今、とぉっても生命力が足りなくて困っていますの」
「せ、生命力……?」
「そうですの。色んな感情や時間は人間たちから貰うことができるんですけど、命ばかりはどうも難しいですの。“殺戮”は闇乙女族の理念に反していますから、ですの」
「ま、まさか……」
グガアアアアアアアアアアアアアアッ!
と、フェニックスアクジョの耳に轟音が届いたわ。
真下に広がる、醜悪な光景。赤い花弁に、黄色いまだら模様。中心に広がる空洞の端っこには、牙のような、棘のような、良く分からないものが見えちゃったの。
「その子は、私が育てた生命力を吸う植物ですの。あなたには、ずっと、ずうううううううううううっと、この子の中で暮らしてもらいますの。あ、一度入ったらどうあがいても出られないので注意してほしいですの」
「い、いや……」
「本当にちょうど良かったですの。あなた、死なないって聞いていますの。だったら、その有り余る生命力を、我々の為に捧げて欲しいですの。多分、あなたなら噛み砕かれようとドロドロに溶かされようと大丈夫ですの」
「い、いや、でさぁ……」
フェニックスアクジョの目前に、巨大な花の口腔が広がってきちゃって――。
「口答えは許しませんの。あなたのようなタイプは、どうせまた裏切るに決まっていますの。だったらこうしてしっかりと役に立ってもらいますの」
「そんな、お許しを、お許しをおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
「それじゃ、バイバイ、ですの」
「いやああああああああああああああああああああああああああああッ!」
フェニックスアクジョの断末魔の悲鳴と共に――、
彼女は、植物の口の中に、突き落とされちゃった。
そして、恐らく未だに叫び声を挙げているだろうフェニックスアクジョの声も、もう聞こえなくなっちゃった。
……。
……って。
……えっと。
ちょっと、ドン引きなんだけど。これ、語るのもキツいんだけど。
うん、気を取り直そう。
「……これで良かった、ですの?」
「もうあの方はわたくしには関係ありません。どうなろうと気にしないことにします」
「クスス、恐ろしい人、ですの」
「貴方がそれを言いますか」
お互いに冷たい視線で見つめ合う二人。
「それで、これからどうしますの?」
「さて。わたくしはしばらく態勢を立て直して、それから引き続きイニム様を連れ戻すことにします。どこかの馬鹿な部下のせいで酷い目に遭いましたから」
「ドンマイ、ですの」
「貴方はどうするのですか?」
「クスス……。私も引き続き計画を進めるだけ、ですの」
「何をやるつもりか存じませんが、くれぐれも注意してくださいね」アメジラは鋭くパールラを見据え、「オトメリッサは更に強力になっていますから」
「ええ。ご忠告ありがとう、ですの」
そう言って、二人はじっと――、
フェニックスアクジョが放り込まれた巨大な植物を、じっと見つめていた。
「もうすぐ……、ですの。私の理想郷、創ってやります、ですの」
……と、まぁ。
そんなこんなで。
大変大変大変大変大変態変!
「さり気なく変態混ぜんなメ!」
ちょっとお兄ちゃん! 勝手にツッコミ入れないで!
それどころじゃないよおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!
闇乙女族が、どんどんヤバそうなことを企んじゃっているッ!
オトメリッサのみんなッ!
仲間は増えたけど、ここから戦いはどんどん激しくなっていくんだからッ!
心して掛かりなさいよッ!
それじゃッ!
TS魔法少女オトメリッサどもは漢気を取り戻したい、第三章!
これにてしゅうりょおおおおおおおおおおッ!
第四章もお楽しみにねッ!




