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TS魔法少女オトメリッサどもは漢気を取り戻したい  作者: 和泉公也
第三章

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78話 「白龍説は新たな伝説になりたい⑤」

「よーし! お前ら、久しぶりだな! 夏休みは楽しんだか? 俺は楽しめたぞ!」

「先生、お祭り以来ですね!」

「……ビキニ大会はありがとうございました」

「えー、先生そんなとこ行ってたの? ヤバくね?」

「はっはっは! ただの市民プールだから決して問題はないぞ!」

 生徒たちの間の抜けた喧噪、そして黒塚兜の無駄に野太くでかい声が廊下にまで漏れてくる。

 これが学校というものか。思った以上に騒々しい場所だ。

「んで今日から二学期が始まるわけだが……」コホンと咳ばらいを混じらせて、「実は、今日からこのクラスに新しい仲間が加わることになった」

 黒塚がそう言うと、騒々しかったクラスから更にざわざわとどよめきが沸き起こる。

「またうちのクラス? 桃瀬さんに続いて?」

「可愛い子が増えてくれるといいな~」

「次はきっとイケメンが来るよ!」

 ――なんというか。

 黒塚のクラスらしいな、こういう能天気さは。この担任にしてこの生徒あり、というべきか。


 勿論、その転校生というのは他でもなくオレのことなのだが。


 何故、こういうことになったのかというと……。



 フェニックスアクジョを倒した直後、オレはすぐさま変身を解いた。

「ふぅ……」

「すごいすごい! やっぱり説くんだったんだね!」

「見て分かるだろ。オレの名は伝説……」と、オレははっと気が付き、「そんなことよりも、あのアメジラとかいう奴は?」

 もう一度周囲を見渡す。オトメリッサの五人と、灰神。そして毛目玉しかいない。

「そういえば……、いつの間にかいなくなっているわね」

 どうやら灰神も気が付かないうちに姿をくらましたらしい。逃げたわけではなさそうだが、まぁ、だからといって見たい顔ではないが。

「それよりもメ! これからオトメリッサ六人、力を合わせて戦っていくメ!」


 ――六人、か。

「よろしくね!」

「チッ、気は進まなねぇけどな」

「俺も気は進まないが、仕方ないか」

「よろしく……、お願いします」

「はっはっは! よろしく頼むぞ!」

「ま、挨拶はいいとして……」灰神は眼鏡を正して、「それで、貴方に聞きたいことがあるんだけど」

 ――ん?

「そうだよ。何で僕を探していたの?」

「探していた? オレが探していたのは、桃瀬翼だが……」

「だーかーら! 僕がその……、君の探している桃瀬翼なの!」


 ……。


 ……。


 なるほど。

「つまりは、お前はオレが探している桃瀬翼。それで、どういった経緯か知らんが、女になってしまった。そういうことか?」

「そういうこと!」

 ――うぅむ。

「灯台下暗し、というわけか。まさか、ずっとこんな近くにいたとはな」

「鈍い癖に物分かりは良いようだな」

「しかも反応薄すぎるしよぉ!」

「話が長くなるよりはいいじゃないか!」

 うぅむ、もっと驚くべきだったか?

 正直な話、なんとなくそんな気はしていたから新鮮味はほとんどなかったのだが。

「それで、どう? 白龍くんは何か思い出せそう?」

「思い出せるも何も……」オレは額を抑えながら、「それで思い出せるならとっくに思い出しているだろう」

「……んだよ。ここまでやっといて結局収穫なしか」

「でもいいじゃん。二人でじっくり時間を掛けて思い出そうよ。こうして仲間になれたわけだし」

 にこやかな桃瀬の表情。あぁ、確かに。性別こそ変わっているが、オレがずっと探していた記憶にある桃瀬翼そのものだ。

「それよりも、お前。いつまでそのドレスを着ているんだ?」

 海に言われて、オレはようやくまだウェディングドレス姿だったことに気が付いた。オトメリッサの衣装も割と似たようなふわっとした素材だったし、着慣れすぎてしまったのだろうか。

「そうだった。誰か、着替えを……」

「ちょっと君たち!」

 突如、教会の門から誰かが入ってきた。警察官の服を着た、いかにもな男だ。というか、前に交番でオレを説教したアイツだ。

 オレは思わず、顔を見せないように後ろを向いた。

「あ、ご苦労様です」

「ご苦労様です、じゃないよ。ここ廃教会だよ。君たちはこんなところで何してんの?」

「えっと、結婚式の前撮り……」

「ふぅん……。そりゃおめでとうございます。もっといいロケーションあったと思うけど。てか、前撮りに参列者いる? ちゃんと礼服だし。新郎もいなさそうだし」

「り、リアリティを追及しているんです。新郎は、もう帰りました」

 灰神の苦し紛れの言い訳に、警官は若干訝し気な反応をする。恐らくツッコみ切れないのだろうが、もう考えるのも面倒なのだろう。

「まぁいいや。悪いことしているわけじゃなさそうだし」

「え、ええ。それじゃ、私たちはこれで……」

「あ、そうそう。ついでに……」警官は懐の鞄から何かを取り出した。「多分君たちには関係ないと思うけど、この二人組に心当たりはないかい?」

 そう言って、取り出したポスターを見せてくる。

「あ……」

「えっと……」

「うん……」

 一同が一斉に、唖然とした声を漏らす。

「ほら、そこの金髪の君。こないだ交番にこの子と一緒に来ていたよね? 何か心当たりはない?」

「あ、いや、ないっす……」

「そっか。まぁ、何か気が付いたことがあったら通報お願いね。それじゃ!」

 そう言って、警察官は帰ってしまったみたいだ。

 じっと、後ろから他の面々の冷たい視線がこちらに向けられる。

「一体、何が……?」

「何が、じゃねぇッ!」

 剣幕で黄金井が怒ってくる。いや、さっぱり意味が分からないのだが。

「はぁ……、これを見なさい」

 灰神が見せてきたスマホの画面。どうやら、警視庁のホームページらしいが。


『重要指名手配。この顔見たら110番』


 どうやら指名手配写真のようだ。オレが以前にコピーしていたものと同じか。

 それで、そこに写っているのは……。


 ピンク髪の少年。

 あぁ、これやはりオレがコピーしてた桃瀬翼のものと同じか。

 だが、以前のとは違う。どうやら何か進展があったのか……。


 もう一人、写真が増えて……。


 ……。


 ……………。


 銀髪の、非常に見知った顔がそこに写っていた。

「そんな気はしていたけどな……」

「やっぱり……」

「白龍くんが、僕の共犯者だったんだね」


 そこまで言われて、写真の男がオレ自身だということに気が付いた。

「……これはでんせ」

「伝説、じゃねぇッ! 犯罪者だッ!」

「またこのメンバーに犯罪者が増えるのか」

「はっはっは! 元々烏合の衆だろう! 俺は一向に構わん!」

「僕はもう何も言いません……」

「説くん、全く覚えていないの?」

「知らん! オレが自分の伝説譚を忘れるわけがないだろう」

「伝説譚って……。お前、流石にそれは問題発言だぞ」

「それより! これからマジでどうすんだよ! このままだとコイツの写真がまた町中に出回るぞ」

「そうねぇ。桃瀬くんは女の子になったから今は捕まらずに済んでいるけど……」と言いかけたところで、灰神はジロジロとオレの顔を舐めまわすように見る。「いや、これは、もしかしたらイケるかもね、うん」

「オイ。何が言いたい?」

 灰神はポン、と手を叩いて、「この手でいきましょう! 黒塚さん、ちょっと協力してほしいんだけど」

「おう! 俺に出来ることなら何でも言ってくれ!」

「桃瀬くんも黄金井くんも、サポートお願いね!」

 灰神はそう言って、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 オレも桃瀬も黄金井も疑問符だらけの顔になっているが……。

 嫌な予感しかしない。


 で……。


 予感は的中したわけで。

「それじゃあ、入って来てくれ!」

 黒塚の声に促されるまま、オレは教室に入った。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 一瞬にして教室中から感嘆の声が沸き起こる。

「スッゲー!」

「銀髪だぜ! 外人か!?」

「帰国子女かな!? 肌綺麗!」

 思い思いにオレの姿を見て感想が沸き起こる。決して悪い、どころか高価な美術品でも見たかのようなポジティブな感想ばかり、なのだが……。

「美人すぎる! 髪サラサラ!」

「彼氏とかいるのかな?」

「宝塚とかにいそう! 王子様系女子って感じ?」


 ……気付いていないのか。

 

 このオレが。


 女装した“男”だということに。


 ピンクのスカートとセーラー服。オレと同じ銀色の長い髪のウィッグ。それらを着用して、オレは“女子生徒”としてこの学校に通うことになった。

 それもこれも、灰神影子の思いつきだ。桃瀬翼とは違い、オレは女になっていない。だったら、変装して過ごすしかない。

 ということで、こうなったのだった。


 桃瀬翼は席からにこやかにオレのほうを見ている。黄金井は頭を抱えながら視線を逸らしている。

「それじゃ、自己紹介してくれ」

 さて……。

 どうしたもんか。

 オレは自分の名前をゆっくりと黒板に書くのだった。

「えっと、初めまして……」

 ちょっとだけ声を高く作って、慣れない敬語で話してみる。

 こうなったら。


 オレは、この学校でも“伝説”になってやる!

 大きく息を吸い込みながら、オレはきっと教室中を睨みつけた。


「オレ……、私の名は“伝説”。またの名を、白龍説。以後、お見知りおきをッ!」


 ……。


 …………。


 ………………。


「あ……」

「えっと……」

「お前……」

「……でん?」

「……せつ?」

「って――」


「結局――、それかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいッ!」


 こうして。

 新学期に突如現れた、謎の美少女――。

 そして、彼女の奇抜な自己紹介は――。


 この学校の新たな「伝説」として、後々まで語り継がれることとなったのだった。

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