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TS魔法少女オトメリッサどもは漢気を取り戻したい  作者: 和泉公也
第三章

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75話 「白龍説は新たな伝説になりたい②」

「イッシッシ、何度来ても無駄でっせ」

「うるせぇッ! 漢気解放ッ!」

「「「「漢気解放ッ!」」」」

 オトメリッサたちの周囲に光の粒が集まり、各々が武器を構えていく。

「学習能力が足りないでやんすねぇ。余程やられ足りないようでさぁ」

 フェニックスアクジョの身体に白い炎が纏わりつく。それらが再び分裂し、どんどん人型……、いや、闇乙女族型に変貌していく。前と同じ戦法というわけか。

「学習能力が足りないのはどっちだ? 同じ芸当が通用すると思うな」

「ところがどっこい、今度はそれに加えて……」

「シャドロウ……」

「シャドロウ……」

 参列者に扮していた泥女どもも次々とオトメリッサたちの前に立ちはだかる。炎と泥、人型になったその数は、最早教会の通路を埋め尽くすほどだった。

「おいおい、数が多すぎんだろ」

「はっはっは、お前らしくないな。怖気づいたか?」

「ばーーーーっか! んなわけねぇだろ!」

「おい、喋っている暇はないぞ!」

「いくよ!」

 オトメリッサたちは一斉に軍勢に向かって襲い掛かる。

「やっ!」

 ウイングが矢を放ち、当たった泥女たちが次々と崩壊していく。奴の高いジャンプ力を使い、次々と倒していく。

 ――そういえば。

 コイツの本名も、オレが探している者と同じ桃瀬翼といったか。同姓同名だが、これはただの偶然だろうか? いや、だがコイツは変身する前から女だ。オレが探している者は間違いなく男だ。記憶違いなどは決してありえない。一体、どういうことだ?

「ふんっ!」

 クローも次々と剣でなぎ倒していく。「漢気、大解放!」とスピードを上げて数秒間に何体もの泥女を瓦解させていく。

 マリンも、リーフも、そしてインセクトも……。漢気を解放させて次々と泥女を倒していく。見事だ、としか言いようがない。オレ自身が伝説の目撃者となったと言っても過言ではない。

「ま、ここまではほんの小手調べでさぁ」

 ――そうだ。

 あの泥女は見たところ大したことはない。恐らく厄介なのは……、

「じゅ、でぇ、む……」

「えん、だぁ……」

 死屍累々になりかけている、劣化コピーども。

 だが、侮ってはならない。

「ジュ……」

 リーフに向かってストレートパンチを繰り出す。

「わ、危ない!」

「ペガサスは俺に任せろ!」

 リーフの前に立ちはだかったインセクトが、左の掌でペガサスもどきの拳を受け止める。そしてすかさずもう片方の手で相手の鳩尾に強烈な掌打を食らわせた。

「……じゅ、で」

「おし、一体撃破!」

「一体だけで喜んでいる場合じゃないぞッ!」

 そうこうしているうちに、次は人魚もどきが地面を這うようにオトメリッサたちに迫っていく。

「ここは僕がいきます! 漢気、奮発ッ! ”蒲公英(ダンデライオン)”!」

 リーフが取り出したのは一本のルージュ。それを唇に塗りたくると、光の粒が奴の周囲に集まり、綿毛のようなものに変貌する。と思いきや、地面で一斉にバンッ! と強烈に爆発していった。

「……えん、だ」

「これだけでは倒れないか。次は俺が!」 続いてマリンもルージュを取り出して、「漢気、奮発ッ!  ”旗魚(ソードフィッシュ)”!」

 今度はマリンの周囲に光の粒が集まっていく。そしてそれは巨大な槍、というか槍なのか怪しいが、恐らくは槍だと思われる巨大な物に変貌し、マリンはそれを力任せに振り回した。

「うが……」

 またもや人魚もどき、そして謎の植物もどきが倒され、炎が吹き消されるかのように消滅した。

「まだまだ、あっしらの結婚を祝福してくれる方は一杯いるんでさぁ」

 次々と白い炎が発せられ、別の個体へと変貌していく。

「……オトコギ」

「タコ……」

「ふ、あぁ……」

「クモ……」

 あれは、虎と、蛸? それにタンポポと蜘蛛か? 見覚えのない奴らだが、恐らくは同じく闇乙女族のコピーなのだろう。

「げっ、アイツらまでコピーできるのかよ!」

「なんだかちょっと懐かしく感じるね」

「呑気なこと言っている場合かッ! 早くフェニックスアクジョのところへ行けッ!」

「あのコピーも俺たちに任せておけッ!」

 マリンとインセクトに促され、クローとウイングは頷いて教会の奥のほうを見据えた。

「漢気、大解放ッ!」

 ウイングが叫ぶと、背中から羽が生えてくる。同時に、クローの背中にも生える。そういう芸当もできるのか、なるほど。

「いくぜッ! 漢気、大解放ッ!」

「無駄でっせ!」

 ウイングとクローは上空へと素早く羽ばたいて姿が見えなくなる。

 かと思いきや、


 ガシャンッ!

 と天窓のガラスを突き破って、地面へと一気に降りて、俺とフェニックスアクジョの前に立ちはだかる。

「い、痛ってええエエエエエエエエエエエエエエッ!」

 腕に刺さったガラスの破片を抜きながら、クローがフェニックスアクジョを睨みつける。

「あはは、今日一番のダメージだね」

「笑ってる場合かッ! クソッ、やってくれたな、てめぇッ!」

「あんさんらが勝手にやったんでさぁ」

「この恨み、きっちり晴らしてやっからなッ! 覚悟しとけ!」

「あ、ダメだこりゃ。熱くなりすぎてるでさぁ」フェニックスアクジョははぁ、とため息を吐きながら、「そんじゃま、そんなお兄さんにもっとお熱いのを……」

 フェニックスアクジョは周囲に炎を纏わせる。今度は先ほどとは違い、真っ赤に燃え盛っている。


 ボンッ!

 と爆発する音を立て、火の玉がクロー目掛けて飛んでくる。

「……っぶね!」

「今のは炎の玉じゃない。あっしの火の玉でっせ」

「どっちも変わんねぇよ!」

「ちょっとさぁ、キャンドルサービスにしてはやりすぎじゃないかな」

 ウイングが天井まで飛び立ち、弓を構えて一気に放つ。

「おっとぉ」フェニックスアクジョは身軽な動きで何本もの矢を躱し、天井のウイングを睨みつける。「あんさんこそ、余興に流鏑馬でもやるつもりですかい?」

「言ってる場合かッ! 漢気、大解放ッ!」

 隙が生じた、と言わんばかりにクローが素早い動きでフェニックスアクジョに近付く。

 が、


 ボッ!

「うわ、あちッ!」

 瞬時に燃えたフェニックスアクジョの熱に当たったのか、寸前で動きが止まる。

「危ないところでやんしたねぇ。もう少しであんさんは消し炭になるところでしたぜぃ」

「クソッ、反則だろこんなん。どうやって倒せっつーんだよ! 吊り橋を消してマグマに突き落せってか!?」

「あはは、ちょうど囚われのお姫様もいることだしね」

 ――さっきコイツらと同じ発想した自分が恥ずかしい。

 とはいえ、このままではオトメリッサでも勝てる気がしない。


 ――無力、なのか?

 オレは本当に、伝説なのか?

 情けない話だが、段々と自分の力に自信が持てなくなってきた。

「ぐっ!」

「あはははははッ! それッ! それそれそれッ!」

 フェニックスアクジョがしきりに何度も炎を飛ばしてくる。ウイングもクローも躱すのがひたすら精一杯という状況だ。あんなもの一発でも当たってしまえば即黒焦げコースだろう。

「クソッ!」

 オレの口から思わず苦悶の声が漏れる。


 ――どうする?


 ――しっかりしろ!


 ――考えろ!


 ――お前は、伝説だろ!


 動かない手足をバタつかせながら、苛立つ。だが、どうしても思いつかない。オトメリッサたちだけではこの状況を打破することはできやしない。


 ――もう、ダメなのか?


「諦めてはいけません!」


 ……。


 えっ……?

 教会内に響く、女性の声。

 この妙に腹立つほど馬鹿丁寧な声は、まさか……。


「助けに来ました! イニムさまああああああああああああああああああああッ!」

 オレは思わず天井のほうを見上げる。


「あれは……」

「……来やがったですかい」

「へっ、おせぇんだよ」

 先ほど割れた天窓の縁に、二人の眼鏡の女性が座っている。

 灰神とかいう女と、紫スーツのアメジラとかいう女。後者は腰に何かロープのようなものを括りつけている。

「こっちは準備完了、っと!」

「はい、お願いします! よっこいせっと!」

 こちらが呆気に取られている間に、アメジラとかいう女がスルスルとロープで降りてきた。

「ばーーーーーーーーーーーーーーーーっか! そんなモン、ロープを燃やしてしまえば……」

「おい、気を付け……」

 と呼びかける間もなく、アメジラのロープに火の玉が飛んでくる。

 だが、燃えるどころか全く焦げ跡すら残らない。

「なっ……」

「ふふふふふ、無駄よ。このロープはマグマでも溶けない超有能素材で出来てんの!」

 ――伝説だ。

 しれっと、ノーベル賞どころじゃないレベルの物質を発明しているぞ、あの女。そしてそれを誰もツッコもうとしない。どういう神経をしているんだ、コイツら。

 と、オレもツッコんでいる場合じゃない。

「助けにきました! イニム様ッ!」

 あっという間にアメジラがオレの前にやってきた。目がハート型になっているが、それでも非常にありがたかった。

「す、すまない……」

「くぅ、やりやがったですねぇ」

「そういうわけですから、あばよとっつぁん! です!」

 そう言い放って、アメジラはオレをいとも容易くお姫様抱っこしていく。

 そしてオレたちは巻き取られるロープと共に、天井へ上がっていくのだった。


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