72話 「桃瀬翼は白龍説と話がしたい③」
「チッ、話をするのも一苦労だな」
「仕方があるまい。まずはコイツを黙らせるぞ」
「あはは、結局こうなるわけだね」
僕たちは呆れながらブレスレットを掲げた。
「オトメリッサチャージ、レディーゴーッ!」
強い掛け声と共に、それぞれのブレスレットから淡い光が溢れ出していった。
そして、身体がどんどん柔らかく、胸もそれぞれに合った大きさに形成させていった。
爪くんは黄色い光が消えると、上下に分かれたセパレート状の衣装を纏ったツインテール少女に――。
海さんは青い光が消えると、白と水色のスカートが付いたレオタード状の衣装を纏ったサイドテールの少女に――。
葉くんは緑色の光が消えると、緑色のチューブトップ状の衣装にストールを羽織ったポニーテールの少女に――。
黒塚先生は黒い光が消えると、黒いチャイナドレス状の服を着たショートヘアの少女に――。
そして、僕はピンクの光が消えると、白とピンクのセーラー服状の衣装を着たロングヘアの少女に――。
それぞれ変身していった。
「未来への翼、オトメリッサ・ウィング!」
「悪を切り裂く爪、オトメリッサ・クロー!」
「溢れる知識の海、オトメリッサ・マリン!」
「癒しの草花、オトメリッサ・リーフ!」
「力の甲虫、オトメリッサ・インセクト!」
「魔法少女、オトメリッサ! 参上!」
「お前らに邪魔された時間――」
「取り戻させていただきます!」
微妙に今回は台詞を変えてみた。今のところ漢気を奪われた被害が出たわけじゃないから間違ってないよね、うん。
なんて冗談を言っている場合じゃない。
「アンタたちが噂の魔法少女ですかい? いやぁ、お初にお目にかかりやす。あっしはフェニックスアクジョと申しやしてぇ。アメジラ様の右腕やらせていただいておりやす。まぁ、あっしの右腕は見ての通り、腕じゃなくて羽なんですがねぇ。おあとがよろしいようでぇ」
――なんだなんだ?
随分軽い口調で話してくるな。風変わりというか、なんだか調子が狂っちゃう。変な闇乙女族はこれまでに何人も出てきたけど、今回はとりわけ変な奴だ。
「御託はいい。とっととかかってきやがれ!」
「そ、そうです! フェニックスアクジョさん、彼らを始末しなさい!」
「まぁまぁ、慌てなすんなってぇ! こちらにも準備ってものがありやしてぇ」
「だったらこちらからいくぞ」
「だああああああかああああああああらああああああああああッ!」
フェニックスアクジョがギラリ、とこちらを睨みつける。先ほどまでの軽い口ぶりからは考えられないほど鋭い睨みだ。
僕たちは思わず身体を竦ませて攻撃をためらってしまう。
「ぐっ……」
「待て、って言ってるのが聞こえないんですかい? せっかちはモテやせんぜ」フェニックスアクジョは不敵に微笑んで、「アンタ方は五人、あっしは一人。少々分が悪いんで、こちらもちょいと失礼しやして……」
――なんだ?
フェニックスアクジョの周囲が突然真っ白に輝きだした。
いや――、これは違う。
燃えているんだ。うっすらと、静かだけど熱い火が。
その火は空中に分裂して、更に大きくなっていく。それは人型に形成されていき……、
「な、これ……」
見覚えのある形――。
「じゅ、でぇ……む……」
「えん、だぁ……」
「うぅ……うるさい……」
一体は初めて説くんと出会った時に見た物。もう一体はプールに現れた物。そして最後の一体は夏祭りのときに潜んでいた物。
僕たちが一度戦った闇乙女族たちが、人魂のように次々と現れていった。
「蘇った、だと!?」
「ふっふっふ! これがあっしの能力でやんしてねぇ。仏さん方には申し訳ないんですが、ちぃと身体と魂を半分ずつばかしあの世から連れてこさせていただきやした」
しれっと罰当たりなことを……。
「何かと思えば。ただの劣化コピーかよ」
「へっへっへ! 半分だけと侮るなかれ。戦闘力はこうして……」
フェニックスアクジョがそう言い出すと、ペガサスアクジョもどきが一気にこちらに飛び掛かり、
ひゅんッ!
クロー目掛けて瞬時に拳をぶつけてきた。
「あ、っぶね……」
なんとか避けるも、背後の大木を穿つような拳に、一同は呆気に取られる。
「ねぇ、あんさん方が一度戦った相手と遜色ないでしょう?」
――なるほど。
戦闘力は変わらないってことか。
僕は内心震えあがってきた。面白い、とほくそ笑みたくなったきた。ここ最近、あまりまともに戦闘らしい戦闘をしてこなかったので、楽しめそうだ。
「あん? これが遜色ないって正気か? 俺が以前に戦った時はもっとパンチが重かったぜ」
「あー、はいはい。そうですかい。だったらとっとと……」フェニックスアクジョはこちらを睨みつけて、「倒してみやがれッ!」
――来る!
ペガサスアクジョもどきが再びクローに殴りかかる。が、爪くんは拳をなんとか剣で受け止める。
「え、えんだぁ……」
マーメイドアクジョもどきはといえば、弱々しい声でこの前のような音波攻撃はしてこない。が、その代わりに長い髪の毛を伸ばして――、
シュッ!
「ぐっ!」
あっという間にマリンの右腕を縛り付けた。
「え、んだ……」
「なんのこれしきッ!」マリンは空いている左手で咄嗟に懐から口紅を取り出して、「漢気奮発ッ! “蛸”ッ!」
槍の先端が何本も枝分かれしていき、伸びた先端が本体の身体を絡めとっていく。
「しずかに……」
マンドレイクアクジョもどきは地面に潜り、瞬時に蔦を地面からリーフ目掛けて出してくる。
リーフは咄嗟に口紅を出して、
「漢気奮発ッ! “南瓜”ッ!」
掌から蔦を出して上部の木の枝に引っ掛けて回避した。
「ふんッ! ハッ!」
インセクトはといえば、マンドレイクアクジョもどきの蔦とマーメイドアクジョもどきの髪を次々に力任せに引き裂いていく。
「ウィング! 黙って見ている場合じゃないメ!」
――っと、そうだった。
乱戦に呆けているわけにはいかない。みんながコピーどもの相手をするなら、僕はあのフェニックスアクジョを相手しないと。
その前に……。
「説くん!」
彼を護らないと……。
「イッシッシ……」
――マズい!
「漢気、大解放ッ!」
僕は心を集中させて、GODMSを一気に集めた。背中から羽を生やして空へと飛びあがる。
「甘いでさぁッ!」
――なっ!?
フェニックスアクジョがこちらに手を翳すと、掌から瞬時に炎の球を投げつけてきた。
ボゥッ! と咄嗟に避けるものの、掠めただけでその温度が高いことが伝わってくる。間違いない。今のは本物の炎だ。幻なんかじゃない。
「火炎攻撃もできるのか……。どうやら、思った以上に厄介な相手みたいだ」
僕は更に上昇してフェニックスアクジョと距離を取る。
そして、一気に……。
「おっとぉ!」
フェニックスアクジョが瞬時に説くんの首根っこと両腕を翼で掴んだ。
「説くん!」
「……くっ、不覚ッ!」
離れた場所にいるから大丈夫かと思っていたけど、相手のスピードは思った以上に速い。その上、今みたいに炎を出してくる。迂闊に攻撃はできない。
「説くんを放せッ!」
「放せと言われて放す阿呆がいると思いですかい? 安心してくだせぇ、こちらもあまり手荒な真似はしたくありやせんので」
「だったら……、漢気かいほ……」
「おっとどっこぉい! ここで下手に攻撃したらイニム様に当たるかも知れやせんぜ?」
――なっ!?
「オレに構うな、オトメリッサッ!」
「でも、そんな……」
僕は戸惑った。けど、すぐに気持ちを振り払った。
「漢気、解放ッ!」
僕の掌に弓矢が形成されていく。僕はそれをフェニックスアクジョに向けて、思いっきり引き絞った。
「なぁんて……」
――危ない!
再びフェニックスアクジョから炎が放たれる。僕はまたなんとか避けるが、弓矢の攻撃は中断せざるを得なくなってしまった。
このままじゃ攻撃チャンスはない。僕一人でフェニックスアクジョを相手にしなければならないのに、これじゃあ手も足も出ない。
「フェニックスアクジョさん、流石ですッ! このままオトメリッサたちを……」
「あーはいはい。ほんっっっっっっとおおおおおおおに、うるさいでやんすねぇ、アンタは」
――えっ?
フェニックスアクジョはアメジラを睨みつけている。何故だ? 仲間じゃなかったの?
「フェニックスアクジョ、さん?」
「アメジラさん、いや、アメジラ。ゴキブリホイホイに捕まった阿呆はそこで黙って見ていてくだせぇな」
「あなた、何を……」
――まさか?
「貴様、オレをどうするつもりだ?」
「いえね、どうもこうも……」フェニックスアクジョはニッと嫌らしく微笑み、「あっしはただ、ちょいと下克上を狙っていやしてねぇ。アンタをうちのアホ上司から奪い取ってやろうと思っているんですわ」
――なっ!?
僕は、いや、僕たちは目を丸くして一斉に驚いた。
フェニックスアクジョ――、奴の目的は最初からアメジラを裏切ることだったわけか。
「というわけで、イニム様。お前さんはこれからあっしと結婚するってぇことでぇ、そこんとこご了承を」




