時の魔術師は懐中時計と共に
私はとある高校で教鞭を執っている何の変哲もない一教師を装っている。
生徒達に『時間の魔術師』と呼ばれている以外は。
ただ、正体がバレている訳では無い。
私は子供の頃から時を認識する能力がずば抜けていたらしい。というのも、小学校でストップウォッチゲームをする迄は当たり前の力過ぎて気にもしていなかったのだ。
ストップウォッチを千分の一秒の狂いも無く止めれる事が普通ではないと知った時のショックは相当なものであった。
〜〜〜
私の人生を決定付けたのは中2の時だった。
父から懐中時計を渡された。
「これは小野寺家に代々伝わる家宝で、時の記憶が封じられているらしい。父さんには何の事かさっぱり分からないから、お前に託しておく」
「普通、こういうのは成人の時とかじゃないのですか」
何故今なのか疑問に思い聞いてみた。
「理由は一つだ。忘れるに決まっているからだろ。今もたまたま思い出したんだからな。父さんの記憶力のなさを舐めるなよ」
溜息しか出なかった。
しかし、私の中に私では無い記憶が一部蘇ったのだった。
▽▼▽
『小野寺殿、どうかこれを』
『これはヌシの宝物では無いか』
厳めしい甲冑姿の男の手に懐中時計を乗せた。
『どうか主殿とそれを頼みます』
私はここで命を落とすだろう。時空を渡ったせいで力を失っている懐中時計も数百年すれば力を取り戻し、来世で私の手に戻るだろう。願わくは、一番の戦友である小野寺殿の子孫として産まれるべくあれを伝え続けて貰いたいものだ。
私は尊敬する仲間達を守る為に、敵陣に単騎で乗り込んで……
▽▼▽
「何泣いてるんだ。父さんの記憶力が泣ける程なのか! 父さんも泣きたい気分になったよ」
「いや、違います。ちょっと昔の事思い出して、悲しくなったのと同時に嬉しくもなったのです」
父はよく分からないといった顔をしていた。
それからは徐々に歴々の時の魔術師としての記憶が戻った。
時には暗殺者から姫を守る為に命を落としたり、良き友と巡り合い生涯を全うしたり、時の魔力を暴発して時空を渡ったり等々。その傍らにはいつもこの懐中時計が有ったのだった。
〜〜〜
「それではこれで今日の授業は終わりにします」
『5』
教壇の上の荷物を纏める。
『4』
『3』
扉まで歩く
『2』
扉を開ける。
『1』
外に出て扉を閉める。
『0』
『キーンコーンカーンコーン……』
終業のチャイムが鳴り響く。
今世では『時間の魔術師』と呼ばれている時の魔術師は、今日も元気です。