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88話 蕩けるほどの幸福

「はぁ~」


 メイド服を着た瑠璃華に頭を思う存分撫でられた私は、今までとは違う幸福感を味わったことにより、何とも気の抜けた声が出てしまった。


 鏡を見なくてもわかる。今の私の表情は蕩けているに違いない。


 普段の私ならそんな恥ずかしい顔を瑠璃華に見せないようにするはずだけど、あまりにも多くの幸福を一度に味わってしまったため、そんなことを考える余裕もなく瑠璃華の肩に寄り掛かっている。


「あはは、凄く緩んだ顔をしていますね」


「はぃ……こんなに幸せな時間を過ごせるなんて思いませんでしたから……満足です……」


「もう、まだ来てそんなに時間経ってないじゃないですか。これだけで満足しないで下さいよ。これからわたしが頑張って遥に御奉仕するんですから、ね?」


 確かに話の流れと勢いで私が瑠璃華に抱きついて頭を撫でられただけだった……。


「あっ、そういえばそうでした……」


「はい。ですのでこれからが本番ですよ。まず最初はこれです」


 瑠璃華は何かを取り出すと私に見せてくる。


「これって……耳かき棒?」


 瑠璃華が手に持っているのはどこからどう見ても耳かき棒だった。


 えっ!? 私、今から瑠璃華に耳かきされちゃうの!?


「る、瑠璃華。もしかしてその耳かき棒で私の耳を?」 


「はい! いつも遥に耳かきして貰ってばかりだったので、一度でいいから遥に耳かきしてあげたかったんです!」


 そう言って無邪気な笑顔を見せる瑠璃華。


 瑠璃華に耳の中を見られるのはちょっと恥ずかしい。でもやって貰いたい思いの方が勝っていた。そして同時に私は危惧する。


 瑠璃華に耳かきされたら表情が蕩けるだけでは済まない……これは確信を持って言えることだ。


 以前、奏が言っていたのだ。人は過剰に幸せを摂取してしまうと脳が蕩けてしまうのだと。


 大好きな瑠璃華がメイド服を着て耳かきしてくれる……これはダメになるかも知れない……。何がどうダメになるかはわからないけど。とても高校三年生がしていい姿ではなくなることだけはわかる。


 でも、それで良いや! だって瑠璃華に耳かきされたいから!


「る、瑠璃華に耳の中を見られるのは恥ずかしいですが、よ、よろしくお願いします」


「はい。頑張って耳かきします。それじゃあ、わたしにしてくれた時のようにカーペットの上でしましょうね」


 瑠璃華はソファーから立ち上がるとカーペットの上で正座した。


「遥、こっちに来てわたしの膝に頭を乗せて下さい」


 瑠璃華は自分の膝をポンポンと軽く叩いて私を誘う。


 私はソファーから立ち上がり、瑠璃華の元まで移動する。


「それじゃあ、失礼します……」


 私はゆっくりと瑠璃華の膝に右耳を上にした状態で頭を乗せて横になった。


 瑠璃華の小さくて柔らかい膝の感触がロングスカート越しに伝わってくる。


「わたしの膝枕はどうですか?」


「凄く良いです……」


「それは良かったです。それじゃあ早速、耳かきを始めますけど、もし痛かったら直ぐに言って下さいね」


 そう言った直後、瑠璃華の持つ耳かき棒がゆっくりと私の耳に入っていくのを感じた。


「動かないで下さいねぇ~」


 耳の中を傷つけないよう、ゆっくりと耳かきをする瑠璃華。


「くぅ……」


 ど、どうしよう……瑠璃華の耳かきが気持ち良すぎる……。メイド服を自作できるくらい器用だからなのか。耳かきが予想以上に上手いんだけど……。


「どうでしょう? 痛かったりしませんか?」


「だいじょうぶでぇす。すごくきもちいいでし……」


 あまりの気持ち良さに私の口が回らなくなってきている。これが脳が蕩けるってことなの? 瑠璃華も私に耳かきされたりした時に、今の私と同じ状態によくなっていたけど。こんな気持ちだったんだ……。


「遥も耳かきされるとこんな風になるんですね。舌足らずで可愛い……」


「か、かわいくないでふよぉ……」


「可愛いですよ。表情も話し方もふにゃふにゃでとっても可愛いです。わたし以外には絶対に見せないで下さいね」


「み、みせましぇん。るりかにだってみせたくなかったですよぉ……」


「あはは、そんな状態で言われても説得力がありませんよ。まぁ、わたしもここまで遥がふにゃふにゃになるとは思いませんでしたけどね。あっ、今からお耳をふぅ~ってしてゴミを飛ばしますね。ふぅ~」


「ひゃ!?」


 瑠璃華の息が私の耳に掛った瞬間、私の体がビクッと小さく跳ねた。


「あはは、ビクッてなっちゃいましたね。それじゃあ、もう一回……ふぅ~」


「くぅ……」


 や、やばいよぉ。耳に息を吹きかけられるのが癖になっちゃいそう。耳かきも耳ふぅーも気持ちいい……まだ右耳なのにこんなに、こんなに……。


 気持ちいとか嬉しいなど、単純なことしか考えられない状態の私の耳に、またしても瑠璃華の持つ耳かき棒が入っていく。


「かり、かり。こうやってオノマトペを口にしながら耳かきするのが良いんですよぉ~。か~り、か~り」


 ああ、本当に気持ちいいなぁ……。もし瑠璃華と恋人同士になれたら好きなだけ耳かきして貰えるんだよね?


「るりかぁ。すきぃ……」


 私は瑠璃華にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。


「んっ? 何か言いましたか?」


「なんでもないでふ……」


「そうですか。最後にお耳にふぅ~ってやったら右耳はお終いです。ふっ~」


 今度の瑠璃華の耳ふぅ~は何とか耐えることが出来た。結構危なかったけど……。


「あっ、今回は耐えましたね。わたしなら絶対に耐えられないのに。凄いです」


「わ、わたしだってみっともないすがたをみせられませんから。も、もう変な声は出しません」


「おっ、強気ですね。それじゃあ、今度は左耳ですよ。ゴロンしてわたしの方を向いて下さいねぇ~。はい、ごろーん」


 瑠璃華の掛け声とともに私は寝返りを打った。そうすると瑠璃華のお腹が目と鼻の先に見え、とても良い匂いがした。


「はい。それじゃあ始めますね」


「お、お願いします」


 こうして左耳の耳かきが始まった。相変わらず瑠璃華の耳かきはとても気持ちいいんだけど、右耳で少しだけ慣れたのか、変な声を出すことなく順調に耳かきは続いていく。


「うーん。わたしの耳かきになれちゃってふにゃふにゃにならないですね」


「き、気持ちいいですが、もうあんな不甲斐ない姿は見せませんよ」


「ふーん。そうですか……一通り左耳の耳かきは終わったんで、ちょっとだけ意地悪しちゃいますね」


「えっ!? な、何するんですか?」


 意地悪って……一体、瑠璃華は何をするの?


「大丈夫です。痛い事なんてしません。こうするんですよ」


 その瞬間、私の耳の中に何かが入っていく。


 なに? なんか柔らかいんだけど……しかもなんか動いてない?


「あ、あの」


「困惑してますね。今、遥のお耳に入ってるのはわたしの小指ですよ。指耳かきってやつです。こうやって遥のお耳を優しくかいてあげるんですよ~」


 い、今、私の耳に瑠璃華の小指が!? こ、こんなこと予想出来る訳が無い!


「あはは、驚いて声も出ないみたいですね。そんな顔も可愛くて良いです」


 そう言っている間にも瑠璃華の小指が私の耳をかいている。耳かき棒とは違う感覚が癖になりそう。


「こ、これはこれで……」


「あっ、ふにゃって来ましたね。それじゃあ今度は遥の耳をこうやってマッサージしちゃいますよぉ~」


 瑠璃華は小指を私の耳から抜くと今度は私の耳たぶなどの様々な場所をスリスリとマッサージしていく。


「はぅ」


「あはは、気持ち良さそうな表情。この勢いで次は強めにふぅーってしますね。頑張って下さいね」


「えっ!? ちょっと待ってくださ――」


「ダメです。ふぅー」


「うひゃ!?」


 先程よりも強い耳ふぅーにまたしてもビクッと身体が跳ね、情けない声をあげてしまった。


「あっ、ちょっとやり過ぎちゃった……ごめんなさい」


「い、いえ、とても気持ち良かったです。でも少し疲れたんで休ませてくれると助かります……」


 気持ち良くて癒されたのは確かなんだけど、興奮して疲れてしまったのだ。


「そ、そうですよね。どうぞこのままわたしの膝枕で休んで下さい」


 そう言って瑠璃華は私の頭を撫でる。


「はい。そうさせて貰います……」


 瑠璃華に頭を撫でられながら膝枕を堪能した私だったが、あまりの心地良さにいつの間にか眠ってしまった。


 私が次に起きた時には瑠璃華の姿は無く。窓の外を見れば夕日でオレンジ色に染まっていた。そして瑠璃華の膝枕の代わりに普通の枕が私の頭を受け止めており、身体には冷えない様にとブランケットが掛けられていた。


 瑠璃華は一体どこに? そんなことを考える私は直ぐに気付く。リビングにまで漂う美味しそうな香りによって……。


 そしてその香りは私の食欲をそそったのだった。

あけましておめでとうございます! 去年は思い通りに更新が出来ないことが心残りでした。今年こそは今作を完結させて、新作を投稿できるように努力したいと思います。

今年もどうぞよろしくお願いします!

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