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87話 メイド服を着た天使

 今日は待ちに待った私の誕生日。私は約束した時間通りに瑠璃華の家の前までやって来ていた。


 昨夜、瑠璃華の声が聞きたくて電話した時、余裕ぶっていた私だったが実際は一切余裕なんてなかったのだ。


 今も私の心臓はドキドキしっぱなしで、インターホンを押そうとしている指が震えているくらいだ。


「すぅー。はぁー」


 一度深呼吸をして、私は震える指でインターホンのボタンを押した。


 押して数十秒後。ガチャリと音がすると「ど、どうぞ」と瑠璃華に声を掛けられた私は意を決してドアを開けた。


「お邪魔しまっ……ふぇ!?」


 ドアを開けて中に入ろうとした私。いつものように出迎えてくれる瑠璃華の姿を見た私は思わず驚きの声を上げた。


 なんと目の前に居る瑠璃華はメイド服を着ていたのだ。


 恥ずかしそうに顔を薄っすらと赤らめながら私の方を見ている瑠璃華のその姿はまさにメイド服を着た天使だった。


「か、可愛い……」


「へぇ?」


 メイド姿の瑠璃華のあまりの可愛さに、私は瑠璃華の目の前まで向かうとギュっと抱きしめた。


「ええ!? ちょ! ちょっと遥!? き、急にどうしたんですか!? は、離れて欲しいんですけど……」


 そう言いながらも抵抗することなく、私にされるがままの瑠璃華。


「だってメイド服を着た瑠璃華があまりにも可愛かったから……」


「は、遥が抱きついちゃうくらい気に入って貰えたことはわかりました。でもここは玄関なので続きはリビングで……」


 言われてみれば確かにここは玄関だった。


 私としたことが勢いのままに抱きついてしまった。


「ご、ごめんなさい。つい感情が先走ってしまいました」


 そう言って私は瑠璃華から離れる。


「い、良いですよ。さあ、早く上がって下さい」


 そう促されて私は瑠璃華と一緒にリビングへと向かった。



 ◆◆◆



 リビングのソファーに座った私は隣に座っている瑠璃華の方へと身体を向ける。


 やっぱりメイド服姿の瑠璃華は可愛い。それに瑠璃華の着ているメイド服が凄く気になる。


「瑠璃華。今着ているメイド服なんですが……」


「気になるんですよね? いいですよ。どうぞ好きに見たり触って下さい。でも変な所を触るのは、その……ダメです……」


 モジモジしながら落ち着きの無い瑠璃華はそう言いながら私の方へと身体を向けた。


「そ、それじゃあ、失礼します」


 私はロングスカートだから多少持ち上げても問題ないだろうという考えで、メイド服のスカート部分を軽く持ち上げて、生地の肌触りを確かめる。


 触って見たところ、パーティーグッズとして売られている物よりも良い生地を使っている。エプロン部分も触ってみるが恐らく同じような生地を使っているのがわかった。


 デザインを見てもシンプルなクラシカルなメイド服。瑠璃華が特に好きだと言っていたタイプだ。


 単純な疑問として、このメイド服は何処で手に入れたんだろう? どう考えてもパーティーグッズとして売られている物でないのは確かなのだけど。


「瑠璃華。単純な疑問なのですが。これは何処で手に入れた物なんですか? この辺りでは売られていないですよね?」


「やっぱりわかりますよね。作りも雑な部分がありますから。あはは……」


 作りが雑? そう言われた私はスカートの縫い目の部分を見てみると確かに縫い目が歪んでいたりなどしていた。


 これってもしかして瑠璃華が作ったの? 瑠璃華の口振りからもそう言っているように思える。


「もしかしてこのメイド服は瑠璃華が作ったんですか?」


「は、はい。そうです」


 やっぱりそうなんだ。それにしても手作りにしてはとてもクオリティが高い。まさか瑠璃華にこんな特技があったなんて。でもどうしてメイド服を作ったんだろう?


「これを手作りするなんて凄いです。でもどうしてメイド服を自作したんですか? 流石に私のために作った訳ではないですよね?」


「そうですね。確かにこれは遥のために作った物ではありません。これは訳あって去年作ったんです。ただ出来れば、その……これを作った理由は聞かないでくれると助かります」


 その理由が一番気になりますが、瑠璃華の表情を見れば本当に話したくないということが伝わってくる。これ以上の追及は止めておこう。


「そうですか。それなら仕方ないですね。それにしても本当に良く出来てますね」


「あはは、そんなに褒めて貰えるなんて思いませんでした。ああ、そうだ。そろそろわたしがこの格好をしている理由を話さないと」


 確かに瑠璃華のメイド姿に気を取られてしまって、どうしてメイド服を着ているのかについて疑問にすら思わなかった。


「瑠璃華のメイド姿が可愛い過ぎて、その疑問は思い付きませんでした……」


「あっ、その反応は本当に疑問に思わなかったんですね……。こ、コホン。取り合えず説明しますね。わたしは遥に何をしてあげたら喜んでくれるかなと考えたんです。それで遥がわたしのメイド姿が見たいと言っていたのを思い出したので、このメイド服を着て遥にお返しをしようと決めたんです」


「お返しですか? それってどういう……」


 私の疑問に瑠璃華はモジモジしながら答えた。


「えっと、それはですね。遥のことをわたしが甘やかしてあげたりご奉仕するんです。わたしにはこれしか思いつきませんでした……」


 瑠璃華が私のことを甘やかしてご奉仕してくれる……ええ!? ほ、本当にしてくれるの!?


 誕生日プレゼントとしては破格と言っても良い内容に、私は驚きと嬉しさのあまり、言葉を発することが出来なかった。


「も、もし嫌なら、今から何処かに出掛けましょうか?」


 私が瑠璃華の言葉に一切の反応を示さなかったことで、嫌だと勘違いしてしまった瑠璃華の言葉で我に返った私は慌てて口を開いた。


「い、嫌じゃないです! 驚きと嬉しいが同時に来て言葉が出なかっただけなんです! 私、今から瑠璃華に甘えます!」


 そう言い放った私はその勢いのままに瑠璃華に抱きついた。


 ただ勢いのままに抱きついてしまったことで、私の顔が瑠璃華の胸に埋まってしまうという事態が発生してしまった。


 瑠璃華の可愛いらしい胸の感触を顔に受けたことで、直ぐにそのことに気付いた私だったがもう後には引けないと判断して離れなかった。


 あぁ、瑠璃華のとても良い匂いがします……。


「あっ……ず、随分と積極的ですね。そんなに私に甘えたかったんですね。よしよし……」


 瑠璃華はそう言って私の頭を優しく撫で始めた。


 ま、まさか瑠璃華によしよしされてしまう日が来るなんて夢にも思わなかった。私、瑠璃華よりも年上のお姉さんなのにこんな、こんな……。


「ど、どうですか?」


「すごく、いいです……」


 メイド服を着た天使が私の頭を優しく撫でてくれる。もしかしたらここは天国なのかも知れない……。


「そうですか。それは良かったです。あっ、そうだ」


「な、何でしょう?」


「折角メイド服を着ているんですから遥お嬢様って呼んだ方が良いのかなって思ったんですけど、どうですか?」


「そ、それは……」


 物凄く嬉しい提案だけど、そんなことされたら別の何かに目覚めてしまいそうな気がするので、とても残念だけど断ることにしよう。


「嬉しい提案ですが、いつもの聞きなれた呼び方の方が安心するというか落ち着くと言いますか。ごめんなさい……」


「そうですか。遥がそういうなら仕方ありませんね。やめておきましょう。あっ、遥にまだ言ってないことがありました」


「言ってないこと、ですか?」


「はい。それはですね……」


 そう言って瑠璃華はわたしの耳元にまで口を近づけた。そのため瑠璃華の吐息が私の耳に掛ってくすぐったい。


「お誕生日おめでとうございます。は、る、か」


 まさか耳元でお祝いの言葉を貰うとは思わなかった。ただでさえ熱くなっている顔や耳がさらに熱くなっていくのが自分でもわかる……。


「あ、ありがとうございます……瑠璃華……」


「あっ、もしかして照れてます? 耳が真っ赤ですよ?」


 悪戯っぽく私にそう問いかけて来る瑠璃華。


 耳元でそんなことをされたら誰だって照れるに決まっている。


「あ、あんなことされたら誰だってこうなりますよ」


「確かにそうですね。私も遥にされたら同じ反応になると思います。お詫びにその熱そうな耳を冷ましてあげますね。……ふぅー」


「ひゃう!?」


 そんなことをされたら余計に熱くなっちゃう! 絶対に瑠璃華はわかってやっているよね!?


「る、瑠璃華。やめて下さい。それじゃあ、余計に熱くなっちゃいますよ」


「あはは、ごめんなさい遥。出来心でつい悪戯しちゃいました」


「も、もう。こ、今回だけは許してあげます」


「ありがとうございます。それじゃあ、代わりにさっきみたいに頭を撫でてあげますね。よしよーし……」


「くぅ……」


 メイド瑠璃華に完全に骨抜きにされてしまった私は、妹の奏には絶対に見せられないであろう、瑠璃華の胸に顔を埋めて抱きしめるという姉としての尊厳皆無な姿で、瑠璃華にしばらく頭を撫でられ続けた。

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