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86話 誕生日前夜

「あっ、もうこんな時間……」


 立て掛けてある時計を見れば時刻は22時を過ぎていた。あと2時間もしないうちに遥の誕生日だ。


 明日のために買い物や掃除、料理の下ごしらえなどをしている間にこんな時間になってしまったみたい。


「はぁ……明日、本当に大丈夫かな?」


 この心配をするのは今日で何回目だろう?


 わたしが最初に考えた誕生日プランは遥と何処かに出掛けて、雰囲気の良い場所で告白の返事をしようというモノだったんだけど。それはわたし達らしくないのでは? と考えてわたしの家で遥の誕生日をお祝いすることに決めた。


 しかし決めたのはいいんだけれど、誕生日前日になってわたしの心配はどんどん大きくなっていった。例えば掃除をしている最中には本当にこれで良いの? 出かけた方が良かったんじゃないの? と言う考えが何度も思い浮かび。


 明日のために料理の下ごしらえをしている時は、遥はわたしの作った料理を美味しく食べてくれるかな? なんてことを考えてしまう始末。


「こんなことばかり考えちゃダメだよね」


 自分で決めた事なのだからしっかりとやり遂げて、遥と幸せになるんだと自分自身にそう言い聞かせる。


 そんな時、わたしのスマホが着信を告げる。


「誰だろう?」


 スマホを手に取り確認してみると……。


「は、遥……」


 明日わたしの家に来るんだから掛けてこないだろうと思っていた相手から電話にわたしの心臓が跳ね上がる。


 一体、何の用だろう? もしかして明日急に予定が入ったとか? いや、流石にそれは無いか。無いよね!


 不安に思いながらわたしはスマホを操作した。


「も、もしもし……」


「あっ、瑠璃華。夜遅くにごめんなさい。なんだか無性に瑠璃華の声が聞きたくなってしまって電話を掛けてしまいました」


 なぁんだ、それで電話してきたんだ。明日来れないって理由じゃなくて良かったぁ~。


「大丈夫ですよ。ちょうど終わったんで」


「もしかして今の時間まで明日の準備をしていたんですか?」


「はい。実はそうなんです」


「ふふ、私のためにこんなに遅い時間まで頑張ってくれていたんですね。明日がとても楽しみになって来ました」


 遥の声の弾み具合から本当に明日が楽しみで仕方が無いことがわかる。そこまで期待されてしまうのは嬉しい反面、物凄いプレッシャーを感じてしまう。


 あぁ、また心配になってきたよ……。


「あはは、楽しみにしてて下さいと自信を持って言いたい所なんですが、遥にそこまで期待されてしまうと凄いプレッシャーを感じます……」


「ふふ、そんなに深刻に考えないで下さい。お互い楽しむことが一番ですから、肩の力を抜いて気楽に行きましょう、ね?」


 遥のその言葉で少しだけ気が楽になったような気がした。やっぱりこういう時は好きな人に励まされるのが一番だね。


「確かに遥の言う通りかも知れないですね。お陰で気が楽になりました。ありがとうございます。では改めて明日は楽しみにして下さい」


「ふふ、言われずとも楽しみにしてますよ。本当はもっと瑠璃華とお話したいところですが、この時間まで私のために準備していたんですから疲れているでしょう? 明日にそれが響いてしまうのは良くありませんからもう切りますね」


「気づかってくれてありがとうございます。それじゃあ、明日」


「ええ、また明日」


 通話が切れたスマホを置いたわたしは「ふぅ」っと一息ついた。


「遥、凄く楽しみにしてたなぁ……」


 遥の期待に応えるためにも明日は頑張らなくちゃ!


 わたしはベッドから立ち上がり、壁に掛けておいた服の前まで移動する。


 まさかこれを着る機会が来るなんて思ってなかったなぁ。これはある意味わたしのお守りのような物であり、共に受験戦争を戦った戦友とも言える服。


 これほど遥の誕生日に着るに相応しい物は他にないといえる。


 それに遥はわたしがこの服を着た姿を見たかったみたいだしちょうど良い。


「明日、わたしと遥は幸せになる。あの時みたいにわたしに力を貸してね……」


 そう呟きながらわたしは立てかけた服を優しく撫でた。


 気のせいかも知れないけど、この服もわたしのことを励ましているような気がする。まぁ、わたしがそう思いたいだけなんだろうけどね。


「さて、そろそろ寝よっかな?」


 ベッドに横になったわたしはゆっくりと瞼を閉じる。そして遥と幸せになれたら良いなと願いながらわたしは眠りについた……。

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