84話 占いの館にて
しばらく待っていると遥から食べ終わったので合流しましょうという内容のメッセージが届き、わたしは遥と合流するために教室を出た。
教室を出て辺りを見回すと直ぐに遥の姿を見つけることができ、わたしは足早に遥の元へと向かう。
「あら、制服に着替えたんですね」
「はい。流石にあの格好だと目立ちますから。それに今だって……」
わたしと遥の周りをチラリと見れば、多くの視線が遥に注がれている状態である。
「それもそうですね。折角、私が他の生徒に気付かれないような格好をしていますからね。目立つようなことは避けないといけません」
う~ん……どうやら遥は今の自分が注目されていることに、全く気付いていないみたい。
わたしは遥にそのことを伝えようかと考えたけど、そうすると遥が気にして楽しめるものも楽しめないかもと思い、伝えることはやめることにした。
それと同時にもう周りの視線なんて気にしないで思う存分、遥との文化祭デートを楽しむことにしようとわたしは決意したのだった。
「それでこれから何処に行くんですか?」
「ふふ、着いてからのお楽しみです。それじゃあ早速向かいましょうか」
そう言って遥はわたしの手を握るとゆっくりと歩き出す。わたしも遥に手を引かれて歩き出した。
◆◆◆
遥に案内されてやって来たのはオカルト研究会の表札が掛かっている部屋。
その部屋の前には三組のお客さんと思われる人達が列を作っていて、その部屋の近くに置いてあった看板を見てみると占いの館と書かれていた。
「占いですか?」
「はい。文化祭デートの定番だと聞いたので最初にここを選びました。さぁ、早速並びましょう」
わたしと遥は列の最後尾に並び、順番が回って来るのを待っていたのだが、三組しかお客さんが居なかったお陰で意外と早くわたし達に順番が回って来る。
わたしと遥は案内役の生徒に促されて部屋の中へと入る。
部屋の中は薄暗く、視線の先には占い師であろうローブ姿の生徒が座っている。
「……どうぞお座り下さい……」
占い師にそう促されたわたしと遥は2脚ある椅子にそれぞれ腰掛けて占い師と向かい合う。
占い師はフードを深く被っている上に部屋の中が暗いこともあって顔を見ることが出来ない。
「ふふふ、それではどの様なことを占いましょうか?」
「それじゃあ、私達の相性について占って貰いたいのですが……」
うん。遥ならそう言うと思ったよ。まぁ、わたしも気になるからちょうど良い。でも、もし相性が悪いですと言われたらどうしよう……それだけが気がかりだ……。
「ほほう、確かにお二人は随分と仲が良いように見えますから、気になりますよね。良いでしょう早速占ってみましょう……」
そう言って占い師が取り出したのはタロットカード。手慣れた手つきでタロットカードをシャッフルし、テーブルに並べていく。
タロットカードなんてさっぱりなわたしはその様子を静かに眺めながら、チラリと遥を見てみる。
遥は目をキラキラと輝かせながらテーブルを見ていて、余程占いの結果が気になっていることが一目で理解する事ができた。
「出ました……。ほぉ、これは……」
どうやら占いの結果が出たみたいだ。その声でわたしは占い師の方へと視線を向ける。
「それで占いの結果はどうでしたか?」
「お二人はとても相性が良いですよ。ええ、とても良いです。私でも惚れ惚れするほどに……」
「そんなに良いんですね! ふふ、そうですかそうですか……。ああ、本当に良かった……」
弾むような声でそう言う遥の表情は輝くほどの笑顔だった。
そんな遥の様子を見てわたしも思わず顔が綻ぶ。
そっか……わたし達ってそんなに相性が良いんだ……。それなら遥の誕生日の後も楽しく過ごせるんだろうな……。
「ふふふ、そんなとても良い相性のお二人にこちらを差し上げましょう……」
そう言って占い師は二枚の紙を差し出した。
「これはクレープの無料券? 本当に貰っても良いんでしょうか?」
「ええ、これはとても相性の良いお二人への細やかなサービスです。遠慮なくお受け取り下さい」
「そうですか。それでは遠慮なく頂きます」
そう言って遥は受け取った無料券を鞄にしまう。わたしもその時に占い師に対してお礼を言った。
「本当はもう少しお二人を占って差し上げたいのですが、占うのは一組につき一つと決まっているんですよ」
「そうなんですね。それでも私が一番聞きたかったことを最高の結果で聞くことが出来たので問題ありません。瑠璃華はどうですか?」
占いの結果に内心浮かれていたわたしは、急に話を振られてハッとする。
「えっ!? あっ、わたしも大丈夫です。わたしも気になっていたことだったんで……」
「ふふふ、どうやらそちらの方は少々照れているというか、占いの結果に浮かれているみたいですね」
占い師はからかうような口ぶりでそう言ってくる。
「ふふ、私としてはそうであって欲しいと願うばかりです」
そう話しながら遥はわたしに視線を向ける。
何とも言えない2人の視線に耐えられなくなったわたしは椅子から立ち上がる。
「そ、そろそろ行きましょう。時間も限られていますし」
「ふふ、そうですね。他にも行きたい場所はありますからね。占い師さん、良い結果が聞けて良かったです。ありがとうございます」
「いえいえ、私はただお二人を占ってその結果をお伝えしただけですよ。それではこの後も文化祭を楽しんで下さいね」
わたし達は占い師に見送られながら占いの館を後にした……。
◆◆◆
お姉ちゃんと瑠璃華ちゃんが出て行ったのを見届けた私は椅子から立ち上がり、身に着けていたローブを抜ぐ。
「ふふふ、お姉ちゃんと瑠璃華ちゃんに私だってバレなくて本当に良かったぁ~。あっ! そうだ。お~い! 終わったよ~」
私は暗幕の向こうに声をかける。
「奏ちゃん。終わったんだ」
暗幕の向こうからオカ研に所属している友達が現れる。
「いやぁ~ごめんね。無茶言っちゃって」
お姉ちゃんから文化祭デートの予定をそれとなく聞いた私は、オカ研に所属している友達に頼み込んで、お姉ちゃんと瑠璃華ちゃんが来た時だけ占い師役を交代して貰ったのだ!
どうしてこんなことをしたのか? それは少しでも2人の仲を良くしようとして考えた私なりの応援である。
「いいよいいよ。奏ちゃんには色々とお世話になっているからね。それにしてもあの2人とはどういう関係なの?」
「それは秘密だよ。それとこのことは誰にも言わないでくれると嬉しいな」
そう言いながら私は脱いだローブを友達に渡す。
「言わない言わない。守秘義務はちゃんと守るよ」
「ありがとね。あっ、これ私のクラスでやっているクレープ屋台の無料券。無茶言ったお礼にあげるよ」
私はお姉ちゃんと瑠璃華ちゃんに渡した物と同じ無料券を友達に手渡す。
「ありがと~。それで奏ちゃんはこの後どうするの?」
「この後は凜々花と玲奈と合流して文化祭を回る予定かな」
「そうなんだ。それじゃ、奏ちゃんも文化祭楽しんでねぇ~」
私は友達に見送られながら、占いの館を後にする。
それにしてもあの占いの結果には自分でも驚いた。占いの結果によっては結果を捻じ曲げてでも2人の相性は最高だと言おうかとも考えていたけど、最高の結果が出てくれた。
「ふふふ、本当にお姉ちゃんと瑠璃華ちゃんは最高のパートナーだなぁ……」
これじゃあ、私が瑠璃華ちゃんを甘やかすなんて出来る訳が無い。最初はお姉ちゃんと瑠璃華ちゃんを付き合わせて、そのおこぼれで瑠璃華ちゃんを甘やかせれたらなぁ~と思って始めたことだけど。あの2人の間に挟まるようなことは絶対にしてはいけないことだと確信した。
「はぁ~。誰か私に甘やかされてくれる人がいたらなぁ~」
あっ、そういえば妹アニメとコラボした時から、ちょくちょくお店に来るようになったお客さんが居たなぁ。あのお客さん、私がその時コスプレしていたキャラが好きだって言ってたっけ? あのお客さん何処かで見たんだよなぁ~。何処でだったかなぁ~。
そんなことを考えながら私は待ち合わせ場所へと向かった。




