80話 文化祭の進捗どうですか?
気付けば文化祭まで約2週間足らず。
学園全体が本格的に文化祭の準備に力を入れ始めていて、わたしのクラスも冥土喫茶の準備を進めていた。
今は裁縫が得意なクラスメイトが用意してくれた衣装を試着しているところだ。
ちなみにその衣装を試着しているのは凛子。恵梨香を含めたクラスメイト全員が凛子に試着を頼んだからだ。
「……どう、かしら?」
白装束に頭には白い三角巾という出で立ちの凛子が恵梨香を含めたクラスメイト全員にそう質問した。
その質問に対しクラスメイト達は大絶賛。
わたしから見ても凛子の姿は似合い過ぎていると思えるくらいだった。
やっぱり、凛子の長い前髪で顔が見えないことや凛子が漂わせているミステリアスな雰囲気の影響かも知れない。
夜道で出会ったらわたし泣いちゃうかも……。
「ねぇ……恵梨香はどう思う? 私……似合ってる?」
何故だろう……恵梨香に似合ってるか聞いているだけなのに若干ホラー感があるのは……。たぶん質問の仕方が口裂け女っぽいのと今の凛子の格好が原因なんだろうけど……。
「似合ってる似合ってる。三途の川で舟待ってそうだなって思えるくらい似合ってるよ凛子」
何となく言いたいことはわかるような気がしないでもないんだけど、それは褒めてると言えるのだろうか?
「ねぇ……それって褒めてるのよね?」
「もちろん褒め言葉に決まってるじゃない。三途の川を一緒に渡りたいと思っちゃったくらいよ」
この恵梨香の発言を聞いたわたしを含めたクラスメイト全員が首を傾げる。
「そ、そう……それは良かった? 時々、恵梨香の感性がよくわからないわ……」
凛子は困惑したようにそう呟く。
「ん? 凛子、何か言った?」
「何でもない……」
恵梨香のことが大好きな凛子でも理解出来ないことってあるんだなとわたしは思った。
その後、この衣装が冥土喫茶の制服になることがクラスの多数決によって無事に決まった。
冥土喫茶で着る制服を決めたわたしのクラスが次に考えるべきことは喫茶で提供する飲食物である。
「さて、今度は提供する飲食物についてなんだけど……」
そう言いながら委員長は調理部の子に視線を向けた。
冥土喫茶で提供する飲食物に関しては調理部に所属しているクラスメイトに考えて欲しいと事前に頼んでいたのだ。
委員長の視線を受けた調理部の子は自信満々な表情で口を開いた。
「大丈夫だよ。ちゃんと試作品も作ってみたからね! ほら、これ見てよ」
そう言って調理部の子はスマホの画面を委員長に見せに行った。
調理部の子の自信満々な態度にどんな物を作ったのかと気になったクラスメイト達も一斉に集まる。
一足遅れてわたしも見に行くとホラー感のあるパフェがスマホに写し出されていた。
血を表現したであろうイチゴソースにどうやって作ったのか気になる目玉など、色々と乗っかっている豪華なパフェにクラスメイト達は調理部の子を絶賛していた。
しかし……。
「ねぇ、これって予算のことも考えて作ったんだよね?」
委員長のその言葉にクラスメイト達が「あっ」と一言。
確かにこのパフェは文化祭で気軽に出せるような物ではないように見える。だって見るからにお金がかかっている。委員長のその疑問にも頷ける。
クラスメイト達に注目される中、調理部の子は答えた。
「予算? あー。クオリティを重視したから考えてなかったや。えへへ……」
「「「えぇ……」」」「あぁ……」
調理部の子の言葉にクラスメイトは困惑し、委員長は頭を抱えた。
文化祭まで約2週間という状況で提供する飲食物が決まっていないのは大問題である。
何とか気を取り直した委員長が教壇に立ちみんなに向って話し始める。
「えー。全てを丸投げして確認を怠ってしまった私にも責任があります。ですが今は責任どうこう言っている時間の余裕はありません。喫茶で提供する飲食物を急いで決めなければいけませんからね。みんな何か良いアイデアはありませんか?」
こうして始まった話し合い。結果としては飲み物に関しては無難な物を揃えて普通に提供すると決め、食べ物に関しては業務用の食材を販売してる店で購入して、それでパンケーキやパフェなどを作ることにした。
予算上凝った物は作れないが10月はハロウィンがあるということで、幽霊などを模したクッキーをパンケーキやパフェに飾り付ければそれっぽくなるだろうという結論になり、なんとか無事にこの問題は解決した。
◆◆◆
「ということがあったんですよ」
お昼休み。いつもの校舎裏で遥の作ってくれたお弁当を食べていると、遥に「文化祭の進捗はどうですか?」と聞かれたので午前中に起こった出来事を話した。
「そんなことが……。無事に問題が解決して良かったですね」
「はい。文化祭まで2週間位しかなかったので解決して本当に良かったです」
「私もそれを聞いて安心しました。生徒会の耳に色々と入って来るんです。あるクラスの進捗が芳しくないとか、予算内に収まるか怪しいなど。苦労しているクラスが結構ありますから」
遥の話を聞く限り、わたしのクラスって他のクラスと比べたら順調に文化祭の準備が進んでいるみたい。
「そうなんですね。わたしのクラスもこれ以上の問題が起こらないように気を付けないと」
「そうですね。でも気を付けていたとしても問題というのは起こってしまうものです。そんな時は私に気軽に相談して下さい」
「そう言って貰えると凄く心強いです。流石生徒会長」
「ふふ、生徒会長といっても文化祭までですけどね」
「えっ!? そうなんですか?」
さらっとそんなことを口にした遥に驚いて少し大きな声が出てしまった。
「ええ、文化祭が終われば三年生は生徒会を引退します。受験や就職など色々と有りますからね。恐らく次の生徒会長は七菜香さんになると思います」
確かに遥の言う通り三年生は受験や就職とかで忙しくなるもんね。それじゃあ、遥も忙しくなってわたしと過ごす時間が少なくなっちゃうのかな?
「確かにそうですよね。そうなると遥も忙しくなってわたしと一緒に居れる時間が少なくなっちゃうんですか?」
「大丈夫ですよ。むしろ瑠璃華と一緒に居れる時間が増えると思いますから安心して下さい」
そうなんだ。今まで以上に遥と一緒に居れるんだ……嬉しい……。
「そうなんですね……よかった……」
「ふふ、そんなに私と一緒に居れるのが嬉しいんですか?」
あっ、遥と一緒に居れる時間が増えることが嬉しくて口に出ちゃった。
「ま、まぁ……そうですね……」
「ふふ、素っ気なくなっちゃいましたね。素直になれば楽になりますよ。ほらほら」
そう言って遥はわたしの頬を人差し指でつんつんしてくる。
「や、やめて下さい。いくら校舎裏でも人は居るんですよ。誰かが見てるかも知れないじゃないですか」
わたしはそう言いながら辺りを見回す。わたしの見える範囲に居るのはハンモックにゆらゆらと揺られながら眠っていると思われる。南先輩くらいなので助かった。
「ふふ、確かにそうですね。これ以上はやめておきましょう……」
そう言って遥はわたしの頬を突いていた手を引っ込めた。
た、助かった……。そんなことを思っていたのも束の間。
「ところで瑠璃華に会ったら聞こうと思っていたんですよ。土曜日の夜に送った物なんですけど、どうでした?」
遥が土曜日の夜に送った物……それってあのボイスメッセージのことだよね?
「土曜日に送った物、ですか? そ、それってボイスメッセージのことですか?」
「はい。いつもとは違う方法で瑠璃華にアプローチをしたいなと思ってやってみたんです。それであのボイスメッセージを聞いてどうでした? あれ結構録音するの恥ずかしかったんですよ」
そう言って恥ずかしそうに頬を赤らめている遥。
どうでしたと聞かれても、わたしはなんて答えたら良いの? 遥の告白ボイスを寝不足になるくらいリピートしてましたなんて正直に言える訳がない。
「えっと……そうですね……よ、良かったですよ……」
「具体的にはどう良かったんでしょうか? 今後のために詳しく教えてくれませんか?」
「ぐ、具体的にって言われても……。えっと、いつもの遥とは違うカッコいい遥の声が良かったと言いますか……」
「わぁ、そんなに気に入ってくれたんですね。――それなら今週の休日にでも……」
「何か言いました?」
「いいえ。何でもありません。ところで今週の休日に瑠璃華の家に遊びに来ても良いですか?」
「えっ? 土曜日だったら良いですけど」
「土曜日ですね。わかりました。ふふ……」
一体、土曜日に遥は何をしようとしてるんだろう? 気になる……。
その後は何事もなく、遥とお昼休みを過ごし午後の授業を受けた。




