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79話 その日の夜に……

 男装喫茶から帰って来たわたしは疲れと汗をシャワーで洗い流した後、リビングのソファーでのんびりと過ごしていた。


「はぁ……執事服の遥、本当にカッコ良かったなぁ……」


 男装喫茶を出た後もわたしの頭の中は執事服姿の遥のことで一杯だった。


 普段の姿、メイド服姿とは見た目も雰囲気も違う遥は、わたしにとって新鮮でとても魅力的だったんだから仕方がない。


 この感情は初めてメイド服姿の遥を見た時のものに近いかも知れない。


 もし2人きりの時だったら、執事服姿の遥はわたしをどういう風に甘やかしてくれるんだろう? どんな言葉でわたしの心を揺さぶって来るんだろう?


 そんなことを頭の片隅で考えながら過ごしていたら、21時を過ぎていた。


 今日は疲れたし、明日はバイトもあるからそろそろ寝ようかと思ったわたしは寝室に向かいベッドに横になった。


 そんな時、唐突にスマホが鳴る。


「んんっ……だれだろ?」


 そう思いながらスマホを手に取り確認してみると遥からのメッセージだった。


 遥からのメッセージに目を通してみると、今からお話しませんかという簡素な内容だった。


 どう考えても話って男装喫茶のことについてだよね?


 そう思いながらわたしは遥に『いいよ』と返信する。


 すると直ぐに遥から電話が掛かってきたので、わたしは通話のアイコンをタップした。


「こんばんは瑠璃華。こんな時間に電話してごめんなさい」


「大丈夫ですよ。それで話って何ですか?」


「実は今日のことについて色々とお話がしたいなと思って。えっと、まず最初に聞きたいのですが本当に似合っていましたか? 私の男装姿」


「うん、凄く似合ってたよ。カッコ良すぎて惚れちゃいそうなくらいでした」


「ふふ、そうですか……瑠璃華の口からハッキリとその言葉が聞けて嬉しいです。でも、私としてはカッコ良すぎて惚れましたと言って欲しかったんですけどね」


 実はもう既に遥のことが好きで好きで仕方がないとは口が裂けても言えない。遥の誕生日までがまんがまん……。ごめんね遥。


「あはは、遥はそう言われた方が嬉しいですもんね。でも、電話越しで告白の答えを聞かされるのって嫌じゃないですか?」


「ふふ、確かにそれだと雰囲気も何もありませんね。私だって場所や状況を考慮した上で返事はして欲しいですから」


「それなら遥の誕生日までわたしの答えは待ってて欲しいな」


「ええ、もちろん。それにしても今の瑠璃華の言い方だと私が望んだ結果になるように聞こえますが私の気のせいでしょうか?」


 確かに今の会話の流れだとそういう風に捉えられても仕方がない気がする。もしかしたら遥はわたしの本心に気付いているのかも?


「う~ん……どうなんでしょうね?」


「ふふ、まだまだ私の頑張りが足りないということですね。私のことを好きになって貰うためにもっともっと頑張りますね」


「うん、楽しみにしてますね」


 そうは言ったものの、現時点で遥が大好きだからこれ以上頑張られてもわたしの理性が持つかどうかの方が心配だけど……。


「それにしても瑠璃華がお店に来た時にはとても驚きました。もしかして怜に聞いたんですか?」


「はい。Stellaに向っている時に偶然、怜先輩に出会って教えてくれたんですよ。あの時は遥が男装喫茶で働いているって聞いてとても驚いたんですから」


「ふふ、やっぱりそうだったんですね。本当は私から瑠璃華に伝えたかったんですが時間が無くて伝えられませんでした。ごめんなさい」


「いいんですよ。結果的に遥の執事服姿をちゃんと見れましたから、何の問題もありません」


「そう言って貰えると助かります。ふふ……」


 急に遥が思い出したかのように静かに笑った。


「あの、どうして笑ったんです?」


「ごめんなさい。瑠璃華が接客している私を不満そうに見ている時のことを思い出してしまって。あの時はなにか瑠璃華の気に障るようなことをしてしまったんじゃないかと不安でしたが、実は私が瑠璃華以外に笑顔を向けていることに不満があったと知って嬉しかったですよ。それに少し頬が膨れていた瑠璃華はとても可愛らしかったです」


「そ、それは……仕事だから仕方がないってわかってはいたけど、なんか嫌だなって思ったからで……」


「ふふ、そうですか……。お店でも言いましたが私の笑顔は瑠璃華だけの物ですから安心して下さい」


「う、うん……あ、ありがと……」


 ストレートに好意を向けられるのはとても嬉しいけど、やっぱり照れ臭いな……。


 その後も遥と時間を忘れて会話をしていたら、なんと時刻は22時を過ぎていた。今日は疲れたし、明日はバイトもあるから早く眠ろうと思ったのに……。


 時計を見て内心そう思ったわたしに遥が話しかける。


「それじゃあそろそろ終わりにしましょうか。実は明日まで男装喫茶で働くことになってまして」


「そうだったんですね。わたしも明日はバイトがあるんでもう切ります――」


「待って下さい。最後に……」


 わたしが通話を終わらせようとした時、遥がわたしの話を遮った。


「んっ? なんですか?」


「えっと、実は瑠璃華が喜んでくれたらいいなと思って用意した物がありまして……」


「用意した物?」


「はい。通話が終わった後にメッセージで送りますね。それじゃあまた月曜日……」


 そう言って遥は通話を切ってしまった。


 遥がわたしに用意した物って……なに?


 その時、わたしのスマホに遥からメッセージが届いた。見てみるとそのメッセージには何かが添付されていた。


「これってもしかして……」


 まさかなぁ~と思いながら、その添付されていた物を見てみると……。案の定、執事服姿の遥の自撮り写真だった。


 バイトの合間にでも撮ったのかな?


「やっぱり、カッコいいなぁ……」


 写真でもカッコ良さが全く衰えていない。写真写りまで良いなんて流石遥としか言いようがない。


「うーん。どうしよう……待ち受けにしようかな?」


 夏休みに遥と一緒に撮った写真をスマホの待ち受けにしてるけど、これにするのも良いかも。でも、もしこの写真を誰かに見られた時のことを考えるとこのままの方が良いのかな?


「ん? また遥からだ。これだけじゃなかったの?」


 待ち受けにするかどうか考えている最中のわたしに又しても遥からのメッセージが送られてきた。見ると今度はボイスメッセージが添付されていた。


 一体何だろうと不思議に思いながら、わたしは添付されていたボイスメッセージを再生した。


『愛してるよ瑠璃華……』


「ひゃ!?」


 予想だにしなかったイケボ遥の愛の囁きボイスに、わたしは思わず持っていたスマホを放り投げてしまう。


 まさかこんなことを遥がするなんて思わなかった……。


 まさかのサプライズに驚いたわたしはしばらく身動きが取れなかった。


「あっ、そ、そうだスマホ……」


 正気を取り戻したわたしは床に転がっているスマホを拾い上げ、再度ボイスを恐る恐る再生する。


『愛してるよ瑠璃華……』


「うぅ……これは反則だよ……」


 そう言いながら、わたしは何度も何度もボイスを再生する。


「はるかぁ……すきぃ……」


 何だろう……このボイスを聞くたびに脳が溶けていっているような……。このボイスはわたしにとって中毒性の高い危ない物なのでは?


 そう思いながらもわたしはイケボ遥の告白ボイスを聞き続ける。


 その結果、全く眠れなかったわたしは寝不足の状態でバイトをすることになってしまった……。

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