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71話 お悩み相談

 長かったようで短かった夏休みも終わり。ついに二学期が始まってしまった。


 わたしは未だに遥に告白されたことについて悩んでいる。


 その証拠に始業式で生徒会代表挨拶で壇上に上がった遥を見て動揺し、壇上の遥と目が合った時なんて、メガネ越しでもわかる笑みを向けられたわたしはドキッとして遥から目を反らしてしまった程である。


 そんな訳で私は全くと言って良いほどに集中できずに始業式が終わってしまった。


 その後、教室に戻ってもわたしは上の空で、気付いたらクラスメイトが帰る準備を始めていた。


 そういえば、今日は授業は無いんだった。バイトも無いし午後は何しようかな? 遥に会いに行く? いやいや。今のわたしじゃ、まともに遥と話なんて出来ない気がする。あれから数日経っているのにこの調子だ。遥に会わす顔がない。


 そんな時、わたしのスマホが震えた。


 まさか遥? もしそうなら何の用だろう?


 私は恐る恐るスマホのメッセージの差出人を確認すると遥の名前が目に入り、わたしの心臓が跳ねあがる。


 夏祭り以降、わたしと遥は連絡を取り合っていなかった。そのため、久しぶりの遥からのメッセージは嬉しい。でも、遥とどう接したら良いかわからなくなってしまったわたしには戸惑いがあった。


 と、取り合えずメッセージの内容を読んでみよう……。


 送られてきたメッセージを読んでみれば、私と話がしたいけど今日は生徒会で忙しいので明日時間が欲しいとの内容だった。


 一体、話って何だろう? 今のわたしではとてもじゃないが遥とまともに話をする自信がないけど、遥が話があると言うのだから行くのは確定だ。


 けど、どう返信しようと頭を悩ませていたそんな時……。


「瑠璃華。スマホ見ながら難しい顔してどうしたの?」


「あっ、恵梨香。何でもないよ」


 わたしはスマホをしまうと恵梨香にそう言い返した。


「そんな風には、見えない……何か変……」


「そ、そうかな?」


「そうだよ。今日の瑠璃華は何か様子がおかしい。始業式もホームルームも上の空だったじゃん。何かあったの?」


 何かあったのと聞かれても遥に告白されました。なんて言える訳が無い。ここは取り合えず誤魔化そう。


「ま、まぁ、少し考えごとをしてただけだから。気にしないで」


 わたしの雑な誤魔化しに恵梨香と凛子は顔を見合わせている。


「恵梨香、どうする?」


「そうだなぁ……。ねぇ、瑠璃華。話は変わるけどさ」


 恵梨香は食い気味にわたしにそう話しかけて来る。今度は何だろう?


「な、なに?」


「これからあたし達と遊ぼうか? 午後に用事とかあったりする?」


「えっ? な、無いけど。どうして急に?」


 唐突にそう提案してくる恵梨香にわたしは困惑する。


 いや、もしかしたら元々わたしを誘って何処かに遊びに行こうしていたのかも知れない。


「そんな細かいことは気にしないの。さぁ、早く行こう瑠璃華」


「ほら、鞄持って……行くよ瑠璃華……時間は有限……」


「ちょ、ちょっと待って!?」


 わたしは恵梨香と凛子に両脇を抱えられながら学園から連れ出された。



 ◆◆◆



 恵梨香と凛子に連れていかれた場所はカラオケボックスだった。


「瑠璃華とここに来るのは二度目だよね~」


「そ、そうだね。確か入学式の時だったっけ?」


「うん……そう……。ちなみに今回は私達の奢り……安心して楽しんで……」


「別に気を使わなくても自分の分は払うよ」


「気にしない気にしない。あたし達が瑠璃華を無理やり連れて来たんだからさ。さぁ、思いっきり歌うよ! お~!」


「……お~」


「お、お~」


 その後、普段よりもテンション高目な恵梨香と凛子に流されるまま、最初は気が乗らなかったわたしだったが気付けばカラオケに没頭していた。そうしている内に少しだけ気が楽になったのを感じた。


「なんか瑠璃華。さっきよりもすっきりした顔になったね」


「うん。なんか歌ってたら少しだけ悩みが……あっ」


「瑠璃華。やっぱり……悩んでたんだ……」


 しまった。つい勢い余ってボロが出ちゃった。もしかして恵梨香と凛子はこれを狙ってわたしをカラオケに誘ったの?


「それは、その……」


「瑠璃華、誤魔化さなくてもいいよ。今日の瑠璃華を見たら誰だって何かあったんじゃないかって思うよ。あたしと凛子は瑠璃華の味方だよ。もし話せる事情だったら話して欲しいな」


 どうする? 恵梨香と凛子に相談する? 正直に言ってわたしだけじゃこの悩みを解決するのは難しいのは確かだ。恋愛経験皆無だから……。


 ここは現在進行形で恋人同士である2人に相談するのが、わたしにとって良いことなのかも知れない。それに2人なら誰かに言いふらすなんて絶対にしないはずだ。


 と、取り合えず誰かは伏せた上で相談するだけしてみよう。うん、そうしよう。


「じ、じゃあ、話すけど……誰かに言わない?」


「言わない言わない。あたし達が人の悩みをペラペラと周りに話す訳ないじゃん。ねっ? 凛子」


「うん……絶対に言いふらさない……。ワタシ、ウソツカナイ……スゴクアンシン……」


 なんで最後の方、カタコトなの? もしかしてわたしを安心させるための凛子なりの気遣いなのかも知れない。


「えっとね……。じ、実は告白されたの……」


「「ほう……それで?」」


 何か息ピッタリだな。流石、恵梨香と凛子。


「う、うん。そ、それで、どうすれば良いのかわからなくて……」


「具体的には何がわからないの? それに誰に告白されたの? まぁ、予想はつくけど……」


 質問の後に何か言っていたみたいだけど。今は恵梨香の質問に答えないと。遥の名前は伏せるとして、告白してきた人が女性であることは伝えよう。


「えっと、まず最初にね。告白してきた人の名前は言えないけど。その人は、その……女の人でね。それでわたし、恋愛なんて一度もしたことが無いから人を好きになるってどんな気持ちになるかなんてわからないの」


「なるほど……先輩は頑張ったのか……グッド……」


「えっ、何が?」


「いや、何でも無い……。なるほど、瑠璃華は人を好きになるって言う気持ちを知りたい……それで間違いないんだね?」


「うん。聞きたいんだけど。恵梨香と凛子はどういう経緯で付き合ったの?」


 好きと言うものを知るには実際に付き合ってる人に聞くのが一番だ。しかも恵梨香と凛子は同性のカップルだから尚更だ。2人の付き合い始めた経緯を知れば、それがわかるかも知れない。


「そうだねぇ。あたしと凛子は幼馴染で小さい頃からずっと一緒だったの。それで一緒に居たら段々、凛子が傍に居ない人生なんて考えられないって気持ちになって。そんな時に凛子があたしに告白してきたの。「私は恵梨香なしでは生きてはいけない。ずっと一緒に居よう」ってね。あの時の凛子がカッコ良すぎて。うへへ」


 恵梨香の顔が今まで見た事が無いほどに綻んでいる。


「私も、恵梨香と長い間一緒に居て、心の底から恵梨香なしでは生きていけないと思った……。だから、誰かに恵梨香を盗られる前に自分の恋人にしようと思って告白した……。告白を受け入れてくれた時は……天にも昇るような気分だった……」


 いつも以上に饒舌で話をする凛子の口元が僅かに綻んでいるのが見えた。前髪で表情全体が見えないが恐らく恵梨香と同じような表情をしているんじゃないかな?


 そんな2人を見てわたしは羨ましい気持ちになる。恋をするとあんなに幸せそうな表情をするものなんだなと感じた。


「そうだったんだね。わたしもその人と一緒に居ると楽しいとか落ち着くと思うんだけどね。それが好きって気持ちなのかがわからなくて……」


「そうだね。今、瑠璃華が言ったことも人を好きなるって理由になるよ。あたし思うんだけど、瑠璃華は真面目に考え過ぎだと思うんだよ。もっと、気軽に考えたほうが良いと思う」


 もっと気軽に? それだとその人に失礼なんじゃないかと思うんだけど。


「それだと告白した人に失礼じゃない?」


「そう思うかも知れないけど。告白されたから取り合えず付き合って、その後にその人のことを本気で好きになるなんてこともある訳だし。瑠璃華も告白してきた人と一緒に居ると楽しいとか落ち着くって思うんだったら。それが瑠璃華に取っての好きって気持ちかも知れない。瑠璃華が気付いていないだけでね」


 なるほど……わたしが気付いていないだけ……。それは盲点だった。それならわたしも遥と今後も一緒に居れば、自ずと遥に対する気持ちがわかるのかも知れないってことだよね?


 そう考えると遥とは今まで通りで良いんだと気が楽になった。恵梨香と凛子に相談して正解だ。


「恵梨香、凛子のお陰で悩みが解決しそうだよ。ありがとう」


「そう? それは良かった……。頑張って……」


「瑠璃華が元気になって良かった良かった。あっ、そうそう。ついでに教えてあげるけど。実は簡単に好きって気持ちを知る方法ってあるんだよ」


「えっ、それってなに?」


 どんな方法だろう? もしわたしに出来ることならお手本にしてみよう。


「それはね……凛子こっち向いて」


「ん? 恵梨香、なにっ!? んんっ!?」


「ええっ!?」


 凛子が隣に居る恵梨香の方を向いた次の瞬間。わたしの目の前で恵梨香は凛子にキスをした。


 な、なんでキスするの!? も、もももしかしてそれが好きって気持ちを知る方法なの!?


「な、なななんでキスしてるの!? そ、それが好きって気持ちを知る方法なの!? 飛躍し過ぎだよ!」


「ふぅ、違う違う。その人とキスしたいって思うようになったら、それはもうその人のことを好きってことじゃない? それをあえて実演した訳ですよ瑠璃華さん」


「そ、そうだとは思うけど……」


 わたしは誕生日の時に、足が痺れた遥がわたしに倒れ込んでキスしそうになったことを思い出してしまった。


 あの時、遥とキスしていたら……ど、どうなっていたんだろう? そう考えるとさっき解決した悩みがぶり返して来そう……。


「ねぇ、恵梨香……」


「なぁに凛子? あいたっ!?」


 凛子は恵梨香の額にデコピンをした。された恵梨香は額を押さえている。


 まぁ、恋人同士とはいえ急にキスされたら怒るのも仕方ない。親しき仲にも礼儀ありって奴だね。


「恵梨香……急にそういうことをするのは、ダメ……。それに今の瑠璃華には刺激が強い……家に帰ったら、お仕置き……」


「ううっ、ごめんよ凛子」


 額を押さえながら平謝りしている恵梨香。そんな恵梨香を軽くあしらった凛子がわたしに話しかけて来る。


「瑠璃華……。今、恵梨香が言ったことはあまり気にしなくてもいい……。その人と付き合って行けば、自ずとそういうことになる……。今は気楽にその人と接して自分の気持ちを確かめればいい……」


「ありがとう凛子。そうするよ」


 その後、時間が来てわたし達はカラオケボックスを後にした。


「恵梨香、凛子。今日はありがとう」


「瑠璃華。最初の時よりもいい顔になったね。これなら安心だ」


「うん。後は瑠璃華しだい……もしまた悩んだら、私達に相談するといい……」


「そうするよ。今日は本当にありがとう。また明日ね」


 恵梨香と凛子と別れたわたしは家に帰った後。遥に返信しそびれていたメッセージを返した。もちろん、明日会うことを了承する内容をだ。


 明日、遥とちゃんとお話しできるかな? 恵梨香と凛子のお陰で気が楽になったけど。少しだけ心配だな……。


 そんな気持ちを抱えながら、わたしの一日は終わるのだった……。

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