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70話 瑠璃華は遥の本心を知る

「ねぇ、遥。『私の大好きな瑠璃華』って、どういう意味ですか?」


「それはその……」


 この質問に対する遥の反応は見るからにおかしい……。


「否定しないってことはそう言ったと思っても良いんですね?」


「あっ……えっと、その……。聞いていたんですね……」


「はい。眠る直前にわたしの耳に聞こえてきました。あれはどういう意味なのか何故かずっと気になってたんです」


「そう、ですか……」


 遥はしばらく何も話すことなく、難しい表情をして考え込んでいる。


「わかりました……。その言葉の意味について教えてあげましょう。このタイミングは全くの想定外ですが、私の油断が原因ですからね。仕方ありません……」


 俯いていた遥は顔を上げ、わたしの方を向いた。


「瑠璃華……」


「は、はい!」


 いつになく真剣な表情の遥にわたしは姿勢を正す。


「私は……いいえ。私、春町遥は成瀬瑠璃華、あなたのことが好きです……」


「は、遥がわたしのことを好き?」


「はい。この言葉の意味は友達としてではありません。恋愛的な意味での好きです」


 遥の真剣な表情を見れば、その言葉が本気であることは容易に理解出来た。


 まさか、遥がわたしのことをす、好きだったなんて……。で、でも、一体いつから?


「い、一体、いつから……」


「奏の誕生日の時に、私は瑠璃華のことが好きなんだということに気付きました」


 確かに遥がわたしに対して何だか積極的だなと感じたのもその辺りからだった気がする。


 ど、どうしよう……遥の本心を聞いてしまったわたしはどう答えたら良いの? わたしも遥のことは好き。でも、それが遥と同じ意味での好きなの? ううっ、ダメだ……全く考えがまとまらないよ……。この場で直ぐに答えを出すことは……今のわたしには無理だよ……。


「ご、ごめんなさい……」


「あっ……そ、そうですよね。急にそんなこと言われても困りますよね。それに同性から好きだと言われたら……気持ち悪いと思ってしまうのも……」


 遥は今にも泣きそうな表情になり、俯きながらそんなことを言い始めた。


 わたしはそんな意味合いでごめんなさいって言った訳じゃない。このままじゃ、遥が勘違いしてしまう!


「遥!」


「は、はい!?」


 急に大きな声を出したわたしに驚いた遥は勢いよく顔を上げる。


「よく聞いて遥。わたしはごめんなさいと言ったけど。遥の告白を断る意味で言った訳じゃない」


「えっ?」


「わたしも遥のことは好きだよ。でも、その好きが遥と同じ好きなのかが今のわたしにはわからない。そういう意味で言ったの」


「そ、そうだったんですね。私、勘違いしてしまいました。ふふ……」


 さっきまで泣きそうな表情をしていた遥に少しだけ笑みが戻る。


「勘違いさせるようなことを言ったのは謝ります。遥、わたしに時間をくれませんか?」


 ここで遥の告白の答えを出すのは無理だ。だから、考える時間の欲しいわたしはそう遥に提案した。


「わ、わかりました。瑠璃華にも考える時間が必要ですもんね。それでその……私の我が儘で申し訳ないのですが……。この告白に対する返事は私の誕生日にして欲しいんです……」


 遥の誕生日って確か10月15日だったよね? 一か月以上期間があるけど、遥はそれで良いの?


「ねぇ、誕生日まで一か月以上あるけど。本当にそれで良いの?」


「は、はい。瑠璃華にはよく考えて答えを出して欲しいので……。そ、それに二学期になれば、文化祭の準備も始まって忙しくなりますし、時間に余裕があった方が良いと思うんです。――私の心の準備もしたいし……」


 確かに遥の言う通り、二学期が始まれば10月の文化祭に向けて準備が始まる。わたしは遥の告白に対して誠意を持って答えたい。だから遥の気遣いには感謝しないと。


「わかりました。遥の誕生日にわたしは告白の答えを必ず伝えます」


「お願いします。その時出した瑠璃華の答えがどんな物であっても私は受け入れます」


 笑顔でそう言っている遥だったけど。心なしか不安げな雰囲気を感じた。そうだよね。私があんなことを聞かなかったら、このタイミングで遥は告白することは無かったんだもんね。それにわたしがどんな答えを出すかも心配だろうし……。


「ごめんね遥」


「どうして急に謝るんですか?」


「だって、わたしがあんなことを聞いたから遥は望まないタイミングで告白しないといけなくなったから……」


「良いんです。恐らく瑠璃華が機会を与えてくれなければ、私はいつまで経っても瑠璃華に告白出来なかったと思うんです。ふふ、私ってへたれですからね。さて、そろそろ帰りましょうか? 補導なんてされてしまったら、大変ですからね」


 遥は強引に話題を変えて帰る準備を始めた。その顔は赤く染まっていたけど、何か吹っ切れたようなスッキリした表情のように見えた。


「そ、そうですね。帰りましょう」


 わたしと遥は公園を離れ、途中で拾ったタクシーに乗り込むと遥の家へと向う。その間、タクシーの車内ではお互い一言も話すことはなく静寂が支配していた。


 公園ではその場の勢いで話していたけど。タクシーで遥の家へと向かっている間にわたしの思考は徐々に冷静になって行く……。


 ああ、わたしは本当に遥に告白されたんだ……。その事実にわたしは言葉では言い表せられないほどに動揺していた。


 もうドキドキし過ぎて心臓が胸を突き破って出て来るんじゃないかと思うほどだ。


「あ、あの瑠璃華。着きましたよ」


「へぁ!? あっ、そ、そうですか。す、直ぐに降ります」


 遥に肩を軽く叩かれ、そう言われたわたしは急いでタクシーから降りた。


「「ただいま……」」


「あっ! お姉ちゃん。瑠璃華ちゃん。お帰りって、どうしたの!? なんか2人とも変だよ!」


 流石、奏ちゃん鋭い。そう思ったけど今のわたしと遥を見たら誰だって様子がおかしいのはわかるよね。でも、流石に告白されたことを奏ちゃんに正直に話す訳にはいかない。


「いや、何でも無いよ。奏ちゃん」


「そ、そう……何でも無いの……」


「何でも無いってことは無いと思うんだけど? どう考えてもおかし――」


「ああっ! わたし用事を思い出したので着替えを取ったら直ぐに帰るね! お邪魔します!」


「ええっ!? ちょ!? 瑠璃華ちゃん!?」


 とても失礼だと思ったけど、奏ちゃんの追求を強引にかわすために、わたしはそう言って奏ちゃんの横を通り抜け、リビングに向かうとそこに置いてあったわたしの着替えを持って玄関まで戻ってきた。


「る、瑠璃華ちゃん急にどうしたの? 本当に何が――」


「わ、わたし用事もあるし、外でタクシーも待たせてるの。そ、それじゃあ遥。そ、その……今日はありがとう楽しかった」


「は、はい。わ、私の楽しかったです。お気をつけて……」


「あっ! 瑠璃華ちゃん! ちょっと待って――」


「奏ちゃん。本当にごめんなさーい!」


 わたしは引き留めようとする奏ちゃんの言葉に耳も貸さずに足早にタクシーへと向かい乗り込んだ。


 本当にごめんね奏ちゃん。でも、流石に遥に告白されたなんて、わたしの口からは言えないよ……。



 ◆◆◆



「う~ん。おかしい……絶対におかしい……」


 瑠璃華ちゃんが逃げるように帰ってしばらく経った。


 やっぱり、家に帰って来たお姉ちゃんも瑠璃華ちゃんもなんか変だ。お祭りで会った時はあんなに良い雰囲気だったのに……。


「はぁ……。どうしよう……」


 もしかして私と別れた後に喧嘩でもしたの? でも、そんな感じじゃなかったし……。


「ううっ……。ああ……」


 ああ、全くわからん! いくら私でもお姉ちゃんと瑠璃華ちゃんの様子がおかしくなった理由なんて分かる訳が無いんだよ! そんなことお姉ちゃんに直接聞けば良いんだ! 超シンプルな話じゃん!


「ああっ。はぁ……ううっ……」


「ああ、もう! お姉ちゃんさっきからうるさい! どうしたのさ。私とお祭りで会った時はあんなに瑠璃華ちゃんと良い雰囲気だったじゃん。なのになんで帰って来たらあんなことになってるの!」


 私は先ほどから赤くなった顔を両手で覆い、聞き取れないほどの小さな声でブツブツ呟きながら、ソファーで鬱陶しいくらいにモゾモゾと動いているお姉ちゃんに少しだけ大きな声でそう言った。


 ここまであからさまに様子がおかしいお姉ちゃんを見たのは生まれて初めてだ。こんな状態のお姉ちゃんを、もし仕事から帰って来たパパやママに見られたらどう考えても面倒なことになる。


「そ、それは……ああ……」


 そう呻いた後、お姉ちゃんは何かを思い出したのかまた悶絶している。本当に何があったのさ……。


「ああ、とか。ううっ、とか。言ってないでちゃんと話してよ。相談に乗るからさ」


 私がそう言うとお姉ちゃんの動きがピタリと止まる。相変わらず顔を両手で覆っているけど……。


「……瑠―華に―白した……」


 お姉ちゃんは小さな声で何かを口にしたけど聞き取れなかった。瑠璃華ちゃんに何をしたって?


「お姉ちゃん。声が小さくて聞こえないんだけど。瑠璃華ちゃんに何したの?」


 そう聞けばお姉ちゃんは覆っていた両手を顔から離して私の方を向いた。顔は真っ赤で今にも泣きそうな表情のお姉ちゃん。ああ、お姉ちゃんの綺麗な顔が台無しだよ……。


「だ、だから、瑠璃華に、こ、告白したの……」


「ああ、瑠璃華ちゃんに告白……って、えぇええぇえええぇぇ!!! お姉ちゃん! 瑠璃華ちゃんに告白したの!?」


「うん……だから、そう言ってるでしょ……」


 どうやら本当にお姉ちゃんは瑠璃華ちゃんに告白したみたいだ。まさか、あのお姉ちゃんがこのタイミングで告白するなんて……明日、世界が滅ぶかも知れない……。一体、私と別れた後に何が……。


「何でこのタイミングで告白しちゃったの?」


「ううっ、私が悪いの……。瑠璃華の誕生日に瑠璃華の家に泊まった時にね。瑠璃華が眠ったと思ってうっかり『私の大好きな瑠璃華』なんてことを言っちゃったばっかりに、まだ眠っていなかった瑠璃華にそれを聞かれて……」


 ああ、それで瑠璃華ちゃんが好奇心で確信をつく様な質問をしちゃったから、お姉ちゃんは正直に話さないといけない状況に陥って告白したと。なんて不幸な事故なんだ……。


「なるほどね。この後は何となく察したから言わなくていいよ。それで瑠璃華ちゃんの返事は?」


「まだ……。瑠璃華が言うには自分の好きが私の好きと同じなのかわからないから、時間が欲しいって……」


 そうだよね。事故とはいえ、このタイミングで告白されたらそう返すよね。私だってそんな状況になったらそうするよ。


「なるほど。それで返事はいつ返してくれるとかって言ってた?」


「それはその……へ、返事は私の誕生日にして欲しいって、私が瑠璃華にお願いしたの。瑠璃華もそれで良いって言ってくれたから……」


 お姉ちゃんの誕生日って10月じゃん。それまでお姉ちゃんの精神が持つんだろうか? 私、そっちの方が心配だよ。


「10月って結構期間があるけど、それで良かったの?」


「うん……。誕生日に良い答えを貰えたらとっても嬉しいし。期間が長ければ私の心の準備も出来るから、例え悪い返事でも潔く諦められるかなって思って……」


「そう、お姉ちゃんが良いならそれで良いけどさ。これからどうするの?」


「ん? どうするって?」


「だから、次に瑠璃華ちゃんと会ったりした時だよ。たぶん瑠璃華ちゃんとぎこちない感じになると思うよ? お祭りから家に帰ってきた時のことを思い出してよ」


「あっ……」


 私の言葉にお姉ちゃんはハッとした表情をする。


 流石に今のお姉ちゃんじゃあ、そこまで考えが行かないよね。まぁ、もし瑠璃華ちゃんと何かあっても私がお姉ちゃんの相談に乗ってあげれば良い話だ。


 お姉ちゃんがこんな感じだから、今頃瑠璃華ちゃんもお姉ちゃんみたいなことになってるんだろうなぁ~。着替えを取りに家に戻って来た時点でかなり様子がおかしかったし……。


 まぁ、瑠璃華ちゃんのことだから、割と何とかなってそうな気もする。


 ふふふ、二学期も楽しいことが沢山ありそうで何よりだ。



 ◆◆◆



 瑠璃華に告白したことを奏に話した後。私は部屋に戻りベッドに倒れ込んだ。


 今日は色々な意味で凄く疲れた……肉体的にも精神的にも……。


 瑠璃華の浴衣姿を見れた喜びや、そんな浴衣姿の瑠璃華とお祭りを回ったことを思い返すと、とてもいい思い出になったなと心がほっこりとするんだけど……。


「つ、ついに瑠璃華に告白しちゃった……ああ……」


 そう、ついに私は瑠璃華に告白してしまったのだ。私が望んでいないタイミングでの告白だったけど……。


 ああ、未だに私が瑠璃華に告白したことが事実であるという実感が湧いてこない……。寝て目が覚めたら、瑠璃華に告白したのは夢でしたー。なんてことになって無いかな? 思い出すだけで不安で泣きそうだから……。


「はぁ、これからどうしよう……」


 今私が考えないといけないのはリビングで奏に言われたことだ。


 告白してしまったのだから、今まで通り瑠璃華と接することが出来ないのはわかっている。恐らく次に瑠璃華と会うのは二学期になってからだと思う。


 もしその時に瑠璃華に距離を置かれてしまったら。私、本気で泣いちゃう自信がある。


 でも、瑠璃華は優しいからそんな露骨に避けるようなことはしない無いとは思うけど。やっぱり心配だな……。


「ううん。弱気になっちゃダメだ」


 そうだ。告白した事実を無かったことには出来ない。いつまでも悪い結果を想像しているから弱気になるんだ。


「よし、次に瑠璃華と会った時にしっかりと話をしよう」


 しっかりと話し合った方がお互いのためだ。もし瑠璃華が少し距離を置きたいと言うのであれば、とても辛いけど瑠璃華の気持ちを最優先させる。だって私が無理強い出来ることじゃないから。


「瑠璃華が私のことを好きになってくれたら良いな……」


 私が望む最高の結果を願いながら、私は眠りについた。



 ◆◆◆



 遥の家から逃げるように帰って来たわたしはシャワーを浴びた後。直ぐに寝室のベッドに横になった。


「は、遥に……こ、告白されちゃった……」


 真剣な表情の遥に告白されたことをまた思い出して、わたしはベッドの上を右へ左へと転がり回る。


 顔が物凄く熱い。シャワーを浴びたからと言ってこんなに熱くなる訳が無い。


「は、遥がわたしのことを好きだったなんて……」


 別荘や誕生日でのことを思い返せば、遥の積極的な行動は全部わたしに振り向いて貰うためにやっていた事なんだ。


 それに遥がお互いの呼び方を変えようと提案したのもそのため。遥に告白されてその事に気付くなんて……。


「わたしって凄く鈍感だ……」


 遥がわたしに振り向いて貰うためにひたむきに頑張っていたのだと考えると物凄く申し訳ない気持ちになる。


「はぁ……わたしの遥に対する好きって何だろう?」


 わたしは遥のことが好き。でも、このわたしの好きは遥と同じ好きなの? この疑問は公園でも思ったことだ。わたしは恋愛なんて今までしたことが無い。だから、恋をするとどんな気持ちになるのかなんてわからない。


 それでもわたしは遥の告白に対する答えを出さないといけない。


 その答えが今後のわたしと遥の関係に影響することだから。もしわたしの好きが遥と違ったら……。


 そう思うと胸がキュッと締め付けられたように苦しくなるのを感じた。


「はぁ……」


 答えを出すには十分過ぎるほどの時間があるけど不安だな……。


「これからゆっくりと考えていけば良いよね? 今日はもう疲れたよ……」


 今日は色々なことがあり過ぎて疲れた……。眠って目が覚めたら、もしかしたら案外簡単に答えは出るかも知れない。


 そんな曖昧な希望を抱きながらわたしは眠りについた……。


 しかし、残念ながら数日しか残されていない夏休み程度では、わたしの望んだ答えを出すことが出来ずに、二学期が始まってしまうのだった……。

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