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69話 わたしと遥の夏祭り

 お祭り会場に到着すると既に会場は大勢の人達で賑わっていた。


「当たり前ですけど、人が多いですね」


「ええ、もし逸れたら合流するのは大変でしょうね。手を繋いだ方が良いかも知れません」


 遥はわたしに手を差し出して来る。


「逸れたらお祭りどころじゃないですもんね」


 わたしは遥の手を取り、お祭り会場の散策が始まった。


 多くの人が行き交う中をわたしと遥は手を離さない様にしっかりとお互いの手を握り、お祭りを見て回る。


 そんな時、わたしは射的の屋台を見つけた。


「あっ、射的。わたし、あれやりたいです」


「射的ですか。いいですね、やりましょう」


「じゃあ、まずはわたしがやります」


 やりたいと言った手前、景品を取って遥に自慢できれば良いんだけど。正直に言ってわたしはエイム力があまり良くない。ゲームセンターのガンシューティングもFPSもあまり上手ではないのだ。


 わたしは銃に弾のコルクを込め、恐らく当たれば取れる可能性がある軽い箱モノのお菓子に狙いを定め、引き金を引いた。


 玉は狙っていた景品には当たることは無く。その後も同じ景品を狙って引き金を引けども、良くて景品に掠る程度で取ることは出来なかった。


「遥、取れなかったよ。軽いお菓子だったら取れると思ったんだけどね。あはは……」


「私に任せて下さい。瑠璃華」


 何だか自信有り気な遥は店主にお金を払うと、手慣れた様子で銃に弾を込めて、わたしが取ることが出来なかった景品に狙いを定めて引き金を引いた。


 放たれた弾は見事景品に命中し、景品は落ちていった。


 まさか、一発でわたしの取れなかった景品を取るとは思っていなかったので驚いた。


 その後も弾が尽きるまで遥は景品を打ち落としていた。


「ふふん、どうですか?」


 遥は沢山の景品が入った袋を自慢げに見せてくる。


 遥にこんな特技があるなんて驚いた。わたしってまだまだ遥について知らないことが沢山あるんだなと実感した。


「すごーい! 遥にはこんな特技があったんだね」


「実は奏とお祭りに行っていた時には、奏とお祭りでどれだけの景品を取れるかでよく競っていたんですよ。そのため、射的・金魚すくい・型抜きなどが得意になりまして。ちなみに奏との勝敗は五分五分です。最近は奏とお祭りに行くことも無いので久しぶりにやりましたがまだ腕は鈍っていないみたいです」


「なるほど、それで。わたしも自分の力で景品を取ってみたいんですけどね。あまり得意では無くて……」


「ふむ、それじゃあ私が教えてあげますよ。あの、すみません」


 遥は店主にお金を渡すと銃を手に取り、わたしに渡して来た。


「遥が教えてくれるなら取れる気がするよ」


 わたしは銃を遥から受け取り、弾を込めて構える。


「う~ん。瑠璃華は構えている時に腕が動いていますね。それじゃあ、いくら狙ってもブレて当たらないですよ。私が動かない様に支えますね」


「えっ?」


 遥はわたしの後ろに立つと銃を構えている腕を掴んだ。


「これでブレません。後は私の合図で引き金を引いて下さい」


「は、はい」


 急な出来事にわたしはテンパりながらも、遥の言う通りに狙いを定めで遥の合図で引き金を引いた。


 放たれた弾は狙った景品に見事に命中して、景品は落ちて行った。


「やりました! ありがとう遥。遥が手伝ってくれたお陰だよ」


「ふふ、よかったですね。コツはわかったと思いますから、自分でやってみて下さいね」


 遥の教えを参考にわたしは1つだけだけど、自分の力で景品を取ることに成功し、満足した気持ちでわたしは射的の屋台を後にすることが出来た。



 ◆◆◆



 射的の屋台を後にして、しばらくお祭りの屋台を見て回っていると……。


「あれ~、瑠璃華じゃん」


「ん?」


 声のする方を向くとそこには恵梨香と凛子の姿があった。


「あっ恵梨香、凛子。来てたんだ」


「うん……本当は配信しようと思ったの……。でも、お祭りがあるからやめたんだ……」


 ああ、折角のお祭りだし2人でお祭りデートしたいよね。


「そうだよね。2人でお祭りデートしたいよね」


「確かに凛子とデートついでにお祭りに来たけどそれだけが理由じゃないの。もし配信中に花火が打ち上るとそれで私達の住んでる場所とか色々特定される可能性があるから、念のため今日は配信しないって決めたの」


 ああ、なんかそんな話をSNSか何かで見たことがある。確かに特定されてしまう可能性を考えたら、配信をしないのも納得だ。


「へぇー。そんなことがあるんですね。初めて知りました」


 遥は納得したようにうんうんと頷いている。


「あっ、遥先輩。瑠璃華とデートの最中にすいません」


「えっ!? い、いや……デートだなんて……。仲の良い瑠璃華と遊びに来ているだけですよ。恵梨香さん」


「へぇ~。そうなんですね。浴衣姿で2人仲良く歩いてたんでてっきり」


 てっきりって、なに? わたしと遥はお祭りに来ただけなんだけど。


「あのね恵梨香。わたしと遥はただお祭りに来ただけだから」


「……そうは見えなかったけど……。ふむ、なるほど……瑠璃華が鈍感だから……遥先輩も大変ですね……」


「ん? 凛子さん何か言いましたか?」


「いえ、何も……。恵梨香……」


 凛子は恵梨香に耳打ちしている。一体、何を話しているんだろう?


「あっ、そうだね凛子。瑠璃華、あたし達もう行くね」


「えっ、もう行くの?」


「うん……私達もまだ見て回ってる途中だったから……。遥先輩、その……頑張って下さい……」


「は、はぁ……何だかよくわかりませんがありがとうございます。お二人ともお祭り楽しんで下さいね」


 わたしと遥は去って行く2人を見送り、お祭り散策を再開した。



 ◆◆◆



 その後も輪投げや型抜きなどをやりながら、わたしと遥はお祭りを回って行く。


「瑠璃華、そろそろ何か食べませんか?」


「そうですね。わたし歩き回ってお腹がペコペコなんですよ」


「それじゃあ、屋台で何か買って花火が見える場所で食べましょうか」


 わたしと遥は食べ物の屋台を回り、たこ焼き・焼きそばなどを買い。何処か花火が見れて落ち着ける場所が無いか探すことにした。


 あれからしばらく歩き回り、良い場所が無いかと探しているけど全く見つからない。何処に行っても大勢の人で場所が埋まっていた。


「どこも人が沢山いて落ち着けそうな場所が無い……。どうしよう遥」


「お祭りですから人が多いのは当たり前ですよね。考えがあまりにも甘過ぎました。はぁ、困りました……」


 遥も歩き回って疲れているみたい。はぁ……もうこの際何処でも良いから座って落ち着ける場所は無いのかな?


「あっ! お姉ちゃんと瑠璃華ちゃん! お~い!」


 突然、後ろから呼ばれて振り返ると少し離れた所に奏ちゃん・凜々花さん・玲奈さんの3人が居た。


 奏ちゃんは2人と会話した後、わたし達の方へ駆け足でやって来た。


「お姉ちゃんと瑠璃華ちゃんの姿が見えたから声かけちゃった。もしかしてお邪魔だったかな?」


「邪魔だなんて思ってないよ。それよりも大丈夫? 凜々花さんと玲奈さんのこと置いてきて」


「大丈夫、大丈夫。それよりもどうしたの? 瑠璃華ちゃんもお姉ちゃんも何か疲れた顔してるよ。遊び疲れたとは違うみたいだけど」


「それがね、奏……」


 遥は奏ちゃんに事情を説明する。


「なるほど~。つまり2人でゆっくりイチャイチャ出来る場所を探していると」


「誰がそこまで言ったのよ。私は落ち着ける場所で食事をして花火が見たいって言ったと思うんだけど?」


「まあまあ、似たようなものでしょ? それよりも落ち着ける場所についてだけどねぇ~。知ってるよ」


「えっ、奏ちゃん知ってるの?」


「うん、知ってるよ。場所を教えるから少しお姉ちゃん借りるね。お姉ちゃんちょっと来て」


「えっ!? 別にここで話しても良くない? ああ、ちょっと奏! 引っ張らないでよ。着崩れるでしょ!」


 奏ちゃんは遥を少し離れた所へ連れて行き何やら話し始めている。途中で奏ちゃんはスマホを取り出し遥に見せながら画面を指差していた。


 たぶん、奏ちゃんが知ってるって言ってた場所を遥に教えているんだろう。


「瑠璃華さ~ん」


 またしてもわたしを呼ぶ声が聞こえ、声のする方を見ると玲奈さんと凜々花さんがわたしの方にやって来た。


「あっ、玲奈さん凜々花さん。こっちに来たんですね」


「そうなの~。奏が直ぐ戻って来るって言ってたのに全然帰ってこないから~」


「私達を待たせるなんて、奏は遥先輩と何を話しているの?」


「えっと、それはわたし達が落ち着いて食事をしながら花火を見れる場所を探していたんだけど、見つからなくて困ってたの。それで奏ちゃんが良い場所を知っているみたいだから、今教えて貰ってるんだ」


「ああ、なるほど~。それなら仕方がないよね~」


 そんな時、話が終わったのか。遥と奏ちゃんが戻って来た。


「あれ? 玲奈と凜々花こっちに来てたんだ」


「来てたんだ、じゃないでしょ。奏が戻って来るのが遅いからここまで来たのよ」


「ごめんね~。2人が困ってたからさ」


「それは瑠璃華さんから聞いてるよ~。それで場所は教えてあげたの?」


「もちろん! 良い場所を教えてあげたよ。ねっ、お姉ちゃん」


「ええ、奏の話を聞く限りとても良い場所みたい。助かったわ奏」


「良いの良いの。それじゃあ、私達はもう行くね。じゃあね~」


「じゃあね、奏ちゃん」


 わたしと遥は奏ちゃん達を見送って、奏ちゃんが教えてくれた場所へと遥の案内で向かうことにした。



 ◆◆◆



 現在、わたしと遥はお祭り会場から離れた。小高い場所にある小さな公園にやって来ていた。


「ここが奏から教えて貰った場所です。街灯もちゃんとありますし安心ですね」


「そうですね。それにここに居るのはわたしと遥だけですね。何でだろう?」


 ここは見晴らしが良いから花火も良く見えると思うんだけど、わたし達以外いないのだ。これが穴場スポットって言う奴なのかな?


「恐らくみんなお祭り会場に行ってるんでしょう。それにここは小さい公園ですし、ここを知っている人が少ないのも原因かも知れませんね。さぁ、買った物が冷めてしまう前に向うのベンチで食べましょう」


 わたし達は見晴らしのいい場所に設置されているベンチに向かい座った。


「はぁ~。やっと落ち着けますね。履きなれない下駄で歩き回ったので疲れちゃいました」


 わたしはベンチの背もたれにだらしなくもたれ掛る。


「ふふ、そうですね。私も瑠璃華と同じで歩き疲れてしまいました。あっ、そうだ、家に帰ったら足をマッサージしてあげましょうか?」


「えっ、良いんですか。じゃあ、帰ったらお願いしま~す」


「ふふ、期待してて下さいね。さぁ、花火が始まる前に食事を済ませてしまいましょう」


「は~い」


 わたしと遥は眼下のお祭り会場を眺めながら、屋台で買った焼きそばやたこ焼きを

 食べ進めて行った。


「はぁ~。もうお腹いっぱい」


 食べ終わったわたしは空になった容器を袋に入れた後、背もたれにもたれ掛りながらペットボトルのジュースを一口飲む。


「ふふ、ちょっと買い過ぎちゃったかも知れませんね。私もお腹いっぱいです」


「良いじゃないですか。お祭りですから浮かれて沢山買っちゃうのは仕方ないですよ。それよりも花火っていつ頃始まるんですか?」


「少し待って下さいね。確認してみます……あっ!」


 お祭り会場で配られていたスケジュールが記載されたビラを取り出して見ていた遥が声を上げる。


「遥、どうしたの?」


「えっと、今直ぐにでも始まるみたい……」


 遥がそう言った直後。夏の夜空に満開の光輝く花々が咲き始める。


 夏の夜空に美しく咲き乱れる花々に、わたしと遥はしばらく言葉を発することなく眺めていた。


 しばらくわたしが花火に目を奪われて眺めていたそんな時、わたしの手に何かが触れた。


 何だろうと自分の手元を見てみれば触れていたのは遥の手だった。それに花火が打ち上る前よりも遥との距離は近くなっている。


 そんな遥を横目で見てみれば、花火を楽しそうに眺めていて、無意識にわたしの手に触れたんだと感じた。


「遥、花火とっても綺麗だね……」


 花火の大きな音が鳴り響く中、わたしは遥が聞き取り易いように耳元でそう話しかけた。


「そうですね。とても綺麗です……この光景を瑠璃華と見られて私は幸せです」


「はは、確かにこの光景を見たらそんな気持ちになりますよね。それにこの場にはわたしと遥しかいないし、誰にも邪魔されずに静かに見れますから」


「ええ、本当に……この場所を教えてくれた奏に感謝しないといけませんね」


「そうですね。帰ったらそうしましょう」


 その後も絶え間なく夜空に咲き乱れる花々をわたしと遥は眺め続けた。



 ◆◆◆



 あれだけ夜空を明るく照らしていた花々はもう見れない。あるのは眼下に広がるお祭り会場や住宅の明かりだけ。


 花火も終わってしまい、再び静寂が訪れたこの公園でわたしはお祭りと花火の余韻のようなものを感じていた。


「はぁ、終わっちゃいましたね。花火が終わった瞬間、夏も終わっちゃったなって感じです……」


「あと数日で夏休みが終わって二学期が始まりますから、そう思うのも仕方ないのかもしれないですね。さて、花火も終わってしまいましたし帰りますか?」


「う~ん。もう少しだけ居ましょうよ。まだ、この雰囲気を味わっていたいなって……」


「そうですか。じゃあ、もう少しだけここでお話でもしましょうか」


 わたしと遥はしばらく夏休みの思い出話で盛り上がった……。


「本当にこの夏は瑠璃華のお陰で楽しく過ごせました。特に別荘でのお泊まりはとてもいい思い出になりました」


「わたしも別荘でのお泊りはすごく楽しかったです。でも、わたしは遥にお祝いして貰えた誕生日が一番の思い出ですね。今も身に着けているこのプレゼントのペンダント、とっても嬉しかった。あっ……」


 そんな時、わたしがずっと気になっていた誕生日でのあの事が思い浮かぶ。わたしが眠る直前に遥が言っていたあの言葉が……。


 聞き間違いなのか、そうじゃないのか遥に聞いてみたいと言う気持ちになってしまう。


「ふふ、身に着けてくれているんですね。これからも大切に身に着けてくれると嬉しいです」


「言われなくても大切にしますから安心して下さい。あの、実は遥に聞きたいことがあるんです………」


「えっ、聞きたい事ですか? 私が答えられることであれば良いのですが……」


「えっと、わたしの聞き間違いかも知れないので深刻に考えなくてもいいんですけど……」


「はぁ?」


「わたしの誕生日に遥と一緒に眠ったじゃないですか。その時、わたしが眠る直前に遥がこう言っていた気がするんです……」


「あっ……ま、まさか……」


 わたしがそう言うと遥は驚いたような表情をしたと思ったら顔が徐々に赤くなっていく。


「ねぇ、遥。『私の大好きな瑠璃華』って、どういう意味ですか?」

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