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68話 夏祭りのお誘い

 わたしの誕生日から、約一週間後。


 わたしは僅かしか残されていない夏休みを家でのんびりと過ごしていた。


 そんなわたしには今とても気になっていることがある。


 それは誕生日に眠る直前のわたしに対して遥が言っていた言葉についてだ。


 意識が薄れていたから曖昧だけど……。あの時、遥はわたしに『私の大好きな瑠璃華』と言っていたような気がするのだ。


 あれは一体どういう意味で言ったんだろう? もしかしたら、わたしの聞き間違いかも知れないけど、あの言葉が妙に気になっているわたしがいるのだ。


 あれが本当に遥が言ったことだったら、その意味は友達として? それとも……。


「いやいや! それはない、よね? でも……」


 最近、どうも遥が今まで以上に積極的な気がするし、あるいは……。いやいや、わたしは一体何を考えているんだ! 一旦冷静になろう。


 そんな時、わたしのスマホが鳴った。


「ん? 誰だろう?」


 スマホを手に取り確認してみると遥からメッセージが届いていた。


 遥のことを考えていたタイミングで、その遥からメッセージが届いたことにわたしは動揺してしまった。


「と、とりあえず、見てみよう……」


 メッセージの内容を読んでみるとこの辺りで今日催される夏祭りへのお誘いだった。


「そういえば、今日だったっけ?」


 今日は用事も無い。それに遥からのお誘いだ、断る理由なんてない。


 わたしは遥に連絡すると、どうやら遥の家に来て欲しいらしいので支度をして遥の家へと向かった。



 ◆◆◆



 遥の家に着いたわたしはインターホンを押す。すると直ぐに遥が玄関から出て来た。


「いらっしゃい。さぁ、中に入って」


「お邪魔します」


 遥の後について行きリビングへと向かうと、そこにはソファーで寛いでいる奏ちゃんが居た。


「瑠璃華ちゃん。いらっしゃ~い。待ってたよ~。とりあえず、座って座って」


 わたしは奏ちゃんに促され、奏ちゃんの隣に座る。


「今、冷たい飲み物を持ってくるから、瑠璃華はゆっくりしてて下さい」


 そう言うと遥はキッチンへと消えていった。


「へぇ、瑠璃華ねぇ~」


 奏ちゃんはわたしの方を見て、ニヤリ不敵に笑った。


「な、何? その顔は……」


「ふふふ、お姉ちゃんが本当に瑠璃華ちゃんのことを瑠璃華って呼んだのが嬉しかっただけだよ~」


「なんで奏ちゃんが嬉しそうなの?」


「それは教えられませ~ん。それよりも、瑠璃華ちゃんもお姉ちゃんのこと、遥って呼んでるんだよね?」


 わたしの質問を受け流した奏ちゃんは目を輝かせながら食い気味に聞いてきた。


「う、うん。そうだけど……」


「ふふふ、そうなんだ~そうなんだ~。でっ? 呼び方を変えて何か、変わったこととかあったりするの?」


 どうして奏ちゃんはそんなことを聞いてくるんだろう? それに変わった事って言われても……。


 遥が今まで以上に積極的な気がすることとか、わたしも何故だか遥のことを無性に意識している節があることとか……。それ以外で言ったらやっぱり、誕生日に遥が言っていたあの言葉の意味が気になって仕方がないことかな?


 でも、流石にそんなことを奏ちゃんに話す訳にもいかないし……。


「ど、どうだろうね。少しだけ遥と親しくなれたような気がするけど……まだ、良くわからないや」


「そうなんだ、そうなんだ。ふふふ、いやぁ~青春だねぇ~」


 そう言いながら奏ちゃんは楽しそうに笑っている。


 一体どこにそんな反応をする要素があったんだろう?


「今話した内容に笑うところってある?」


「ふふふ、私的にはあったかなぁ~」


 本当に奏ちゃんは不思議な子だ。一体何を考えているのか全くわからない。


「あっ、お姉ちゃん」


 奏ちゃんのその声でキッチンの方を見ると飲み物を持った遥がこちらにやって来た。


「瑠璃華、飲み物を持ってきましたよ。どうぞ」


 遥はわたしの目の前にあるテーブルに飲み物を置いてわたしの横に座る。


「ありがとう、遥」


「ところで奏が笑っていたみたいですけど、何を話していたんですか?」


 わたし的にその質問は答えにくいなぁ……。


「最近、瑠璃華ちゃんとお姉ちゃんの仲がさらに良くなっているみたいだったから、妹として嬉しかっただけだよ~。ねっ、瑠璃華ちゃん」


「う、うん。そうみたいです」


「そうなのね。あっ、瑠璃華をここに呼んだ理由を話していませんでしたね」


 確かに家に来て欲しいと言われただけで、その理由は聞いていなかった。


「そうだった。別にお祭りの会場が近い訳じゃないし、どうして現地で待ち合わせじゃないんですか?」


「それは瑠璃華に着て欲しい物があったので」


「着て欲しい物?」


「はい。実は浴衣を着て欲しくて」


 浴衣? わたし浴衣なんて持ってないんだけど……。


「わ、わたし浴衣なんて持ってないよ」


「瑠璃華ちゃん落ち着いて。お姉ちゃんは着て欲しい物があるって言ったんだよ?瑠璃華ちゃんが用意する必要は無いの」


「いやでも。サイズとか……」


「それに関しては問題ないよ瑠璃華ちゃん! 私がサイズを間違えて買っちゃった大き目のサイズの浴衣があるの。あれならたぶん大丈夫だよ」


「私も奏に見せて貰いましたが、瑠璃華が着ても問題ないサイズだと思います。まぁ、私の目測ですので瑠璃華に本当に合うかはわかりませんが、試しに着てみませんか?」


 遥と奏ちゃんがそこまで言うならお言葉に甘えようかな? わたしも久しぶりに着てみたいし。


「じゃあ、お言葉に甘えてその浴衣着てみようかな」


「瑠璃華ちゃんならそう言ってくれると思ったよ。それじゃあ、お姉ちゃん。後は頼んだよ」


「任せて。瑠璃華、私の部屋に行きましょう」


「は、はい。でも、浴衣を着るには早くないですか? お祭りに行くのは夕方ですよね?」


「浴衣を着るのに早いも遅いもありません。さぁ、行きましょう」


「えっ、ちょ!?」


「瑠璃華ちゃんの浴衣姿、楽しみにしてるよ~」


 奏ちゃんに見送られながら、わたしは遥の部屋まで連行された。



 ◆◆◆



「さて、早速始めましょうか。これがその浴衣です」


 遥がわたしに手渡して来た浴衣は、白をベースとした色とりどりのアサガオが散りばめられた浴衣だった。そして相変わらず生地が触ってわかるほどに良い物を使っている。姉妹揃って衣類に対するこだわりが強い。


「こんなに良いものをわたしが着ても良いのかな?」


「ふふ、良いに決まってるじゃないですか。浴衣も瑠璃華に着て貰えて嬉しいと思いますよ。さぁ、私は一旦部屋の外で待ってますから、瑠璃華は服を脱いでその浴衣を羽織って下さいね。後は私が着付けてあげますから」


 そう言い残し遥は部屋から出ていった。


 改めて浴衣を見てみるとシワの一つも無いほどに新品同様の浴衣だ。


 奏ちゃんはサイズが大きいって言っていたけど、奏ちゃんがそんなミスをするだろうか?


 疑問に思いながらもわたしは服を脱いで浴衣に袖を通し羽織った。


「う~ん……凄くピッタリなんだけど……」


 羽織ってみれば、丈の長さ含めてわたしのために用意したんじゃないかと思うほどにサイズがピッタリだ。


「もしかして本当はわたしのために準備した物とか? でも、わたしの服のサイズなんて奏ちゃんは……。あっ……」


 そういえば、奏ちゃんの誕生日に2人で買い物に行った時に、わたしのサイズについて色々と聞かれたな。


 まさか、この浴衣のため? でも、なんで奏ちゃんがわたしのために浴衣を用意するの?


 そんな時、わたしの羽織った浴衣からヒラリと折り畳まれた紙が床に落ちた。


「何だろう?」


 わたしは床に落ちた紙を拾い上げ、その折り畳まれた紙を広げる。


「あっ、何か書いてある。えっと……」


『瑠璃華ちゃんへ

 瑠璃華ちゃんは何となく気付いていると思うけど、実はサイズを間違えて買った物じゃありません。瑠璃華ちゃんに着て貰うために用意したの。

 どうして用意したかと言うとね。お姉ちゃんが瑠璃華ちゃんと浴衣を着てお祭りに出掛けたいと言っていたのを偶然耳にしたからなの。そのお姉ちゃんのお願いを叶えるために妹の私が一肌脱いだってわけ。

 お姉ちゃんのために瑠璃華ちゃんにはこの浴衣を着て欲しいんだ。

 ちなみにお姉ちゃんには内緒だよ。お姉ちゃんは本当に私が浴衣のサイズを間違えて買ったと思っているから、私と口裏を合わせてくれると助かるよ。

 最後にこの浴衣は瑠璃華ちゃんにあげるよ。

 将来の義妹奏より』


「奏ちゃん……」


 最後の将来の義妹が凄く気になるところだけど、遥思いの奏ちゃんの気持ちを無駄には出来ないよね。


 それにわたしも遥と浴衣でお祭りに行くのが楽しみだし、奏ちゃんの心遣いに甘えることにしよう。後でこっそり奏ちゃんにお礼言わなきゃ。


「遥。もう入って来て良いよ」


 わたしは部屋の外で待っている遥を呼び、浴衣を着付けて貰った。



 ◆◆◆



「はい、できました。ふふ、凄く似合っていて可愛いですよ」


「そ、そうですか?」


「ふふ、そこにある鏡で見てみたらどうです?」


 わたしは遥に促され、大きな鏡の前まで移動し自分の浴衣姿を見てみる。


 わたし自身でも似合っていると自覚するほどの浴衣姿に、わたしは奏ちゃんに再度心の中で感謝した。


「わたしこの浴衣気に入っちゃいました」


 気分を良くしたわたしは鏡の前でくるりと回ってみる。


「ふふ、瑠璃華。嬉しいのはわかるけど、そんなに動くと着くずれちゃいますよ」


「あはは、そうですね。でも、そうなったら遥がまた直してくれるよね?」


「もちろん、いくらでも直してあげますよ。でも、折角の綺麗な浴衣にシワが出来ちゃいますから、ほどほどにして下さいね。それにしても間違って買ったとは思えないほど、サイズがピッタリですね?」


 流石に遥も違和感あるよね。本当にサイズがピッタリだし……。奏ちゃんに頼まれたんだからここは誤魔化さないと。


「たぶん、偶然じゃないですか? ほら、わたしと奏ちゃんって体格的に少しわたしが大きいくらいですから」


「う~ん。確かにそうかも知れませんね。奏はああ見えてしっかりしているんで少し疑問に思いましたが、そう言う時もありますよね」


「うんうん、そうですよ。ほら、奏ちゃんがリビングで待ってますし行きましょうよ」


「そうですね。行きましょうか」


 わたしと遥は奏ちゃんの待つリビングへと向かった。


「奏ちゃん、着替えて来たよ」


 ソファーに座っていた奏ちゃんにわたしが声をかけると、奏ちゃんはわたしの方を見た。その瞬間、奏ちゃんはソファーから勢いよく立ち上がり、目を輝かせながらわたしの方へとやって来た。


「わぁ、瑠璃華ちゃんすっごく似合ってるよ。ふふふ、私の見立て通りだね」


 奏ちゃんは顎に手を当て、満足気にわたしを見ている。


「本当に瑠璃華の浴衣姿は可愛い。写真に収めたいくらい」


「あっ、それ良いね。流石お姉ちゃん」


「えっ!?」


 遥と奏ちゃんはスマホを取り出し、ほぼ同時にわたしに向けた。流石姉妹、息がピッタリだと一瞬感心してしまったわたしだけど、ハッと我に返った。


 わたし、良いって一言も言って無いんだけど!? でも、そんなことを言える雰囲気じゃなくなっている。カメラで撮影されるなんて恥ずかしすぎるけど、これは諦めた方が良さそうだ……だって奏ちゃんがご丁寧に逃げ場を塞いでいるのだから……うん、諦めよう。


「瑠璃華ちゃん。ほらほら、笑って笑って」


「う、うん……」


「瑠璃華良いですよ。凄く可愛いです」


 わたしは今しっかり笑えているのかな……恥ずかしすぎて笑顔が引き攣っている気がする……。


 その後、遥と奏ちゃんの気が済むまでわたしは2人のモデルになっていた。ちなみにその間、2人に可愛い可愛い言われ続けたわたしは顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。



 ◆◆◆



「ああ……つ、疲れた……」


 わたしは今、撮影会から解放されてソファーに力なく座っている。


 お祭りに行く前にもう疲れてるんだけど……。


「ごめんね~瑠璃華ちゃん。瑠璃華ちゃんの浴衣姿が可愛いすぎて、つい」


「ああ、いいよいいよ。そういえば遥は?」


「お姉ちゃんなら浴衣を着るために部屋にいるよ。たぶん、しばらくしたらここに戻って来るんじゃないかな?」


 そうか、じゃあ今の内に奏ちゃんにお礼言っておかないと。


「そう……。あっ、今の内に言っておくよ。浴衣ありがとね」


「いいのいいの。これは私が瑠璃華ちゃんとお姉ちゃんのために勝手にやったことだからね」


「えっ? それってどういう意味?」


「ん? まぁ、今はそんなことは気にしなくても良いんだよ。お姉ちゃんとお祭り楽しんでくれれば良いの。わかった?」


 凄く気になる口ぶりだけど奏ちゃんのことだ、理由は絶対に教えてはくれないだろう。


「うん、わかったよ」


「うむ、よろしい。あっ、そうそうちゃんと下駄も用意してるからそれを履いてね」


「奏ちゃん。流石に下駄のサイズを間違えるのは違和感あり過ぎだと思うんだけど」


「大丈夫、大丈夫。お姉ちゃんそこまで気にするような人じゃないから。シレっと履けば良いんだよ」


「そうなんだ、わかったよ。そういえば、奏ちゃんはお祭りに行くの?」


「うん、行くよ~。凜々花と玲奈と待ち合わせてるからね~。あっ、お姉ちゃんが戻って来たみたいだよ」


「瑠璃華、お待たせしました」


 声のする方を見ると、長い黒髪を後ろにまとめて結っている遥が、椿や牡丹が散りばめられた藍色の大人な雰囲気の浴衣を着て立っていた。


 普段の遥よりも一段と大人っぽい遥にわたしは目を奪われる。どう表現すれば良いのかわからないけど、わたしの純粋な気持ちを言葉にするのなら、遥はとても綺麗だった。


「ど、どうでしょう? 似合ってますか?」


「うん、似合ってるよ。すごく綺麗……」


「えっ、あっ……そ、そうですか……。瑠璃華が真面目な顔でそこまで褒めてくれるなんて思っていませんでした……」


 遥は照れくさそうに顔を赤らめている。


 そんな、遥を見てわたしは思いついてしまう。


「ねぇ、奏ちゃん」


「ん? 何かな瑠璃華ちゃん」


「この綺麗な遥を写真に収めたくない?」


 わたしのその言葉に奏ちゃんはその意味を理解した様で、ニヤリと笑った。


「えっ……そ、それってもしかして……」


 遥もこれから何が起こるか察したみたいで後ずさりする。


「遥。わたしも遥のモデルになってあげたんだから、今度はわたしの番だよ。綺麗な遥を沢山撮ってあげるね……」


「えっ、ちょ!? 待って下さい」


「ダメです。待ちません。はい、遥笑って~」


 わたしは、奏ちゃんと一緒に遥をモデルに気が済むまでスマホで撮影した。ちなみにさっきのお返しに遥には綺麗だよと言いながら撮影してあげた。


 その時の遥はわたし同様、顔から火が出るんじゃないかと思うほどに顔が赤くなっていてとても可愛かった。


 撮影会を終えた後。これまたわたし同様、ソファーに力なく座っている遥を気づかい、少し休憩してからわたしと遥は奏ちゃんに見送られ、お祭りの会場へと向かった。

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