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64話 変わり始めた関係

「それで話ってなんですか?」


「えっと……その前に座りましょう。ここに座って下さい」


 遥先輩はシートを取り出すと砂浜に敷いた。


「わ、わかりました」


 わたしは促されるままに敷かれたシートに座る。


「瑠璃華さん。隣失礼します……」


 遥先輩はわたしの隣に座る。


 少しの沈黙の後、遥先輩は静かに話し始める。


「えっと、瑠璃華さんに話したい事というのはですね……私達の呼び方です」


「呼び方ですか?」


「はい。その……私はですね。瑠璃華さんととても仲が良いと思っています」


 遥先輩は恥ずかし気にわたしを見てそう話す。


 改まって一体遥先輩はどうしたんだろう? わたしと遥先輩が仲が良いのは今更だと思うのだけれど。


「遥先輩、急にどうしたんですか? わたしと遥先輩の仲が良いのは分かりきっている事ですよ。だってこうして別荘でお泊りするほどなんですから」


「ふふ、そうですね。瑠璃華さんの口からそれが聞けてとても嬉しいです。それで私思ったんです。仲が良いのに先輩とさん付で呼び合うのは距離を感じるなと、そう思ってしまったんですよ」


 そう言われてみれば遥先輩の言い分はもっともな気がしてきた。それに前にこんな話を誰かとしたような気がする……。あっ、そうだ、七菜香先輩に怜先輩との関係についての相談をされた時だ。あの時も七菜香先輩が遥先輩と似たようなことを言っていたっけ?


 あの相談以降、七菜香先輩と怜先輩の仲が更に良くなっていたし、呼び方を変えると言うのは仲良くなるには最適なのかも。


「確かに遥先輩の言う通りかも知れませんね」


「はい。それで、その……私のことは……は、遥って呼んで欲しいんです……」


「呼び捨てですか?」


「ええ、流石に遥ちゃんはどう考えても違いますし……い、嫌なら今までのままで良いですけど……」


 遥先輩は不安げにわたしを見ながらそう言った。


 元より断る理由なんて無いのだから、そんな目で見ないで欲しい。


「嫌じゃないですよ。え、えっと、その……遥……」


 いつもとは違う呼び方はすごく馴れないと言うか……照れる……。やっぱり、後輩だからなのかな?


「あ……ふふ、嬉しい……です。瑠璃華……」


「そんなにわたしに呼び捨てで呼ばれて嬉しいんですか?」


「ええ……とっても嬉しいですよ。だって、瑠璃華にそう呼ばれるんですから……。ふふ……」


 頬をほんのり赤く染めた遥が優しくわたしに笑いかけた。そんな遥にわたしの胸はドキッと跳ね上がり顔が熱くなった。


 わたしは一体どうしたんだろう?


「で、でも、呼びなれていないので何だか変な感じです」


「大丈夫ですよ。その内なれると思います。私だって瑠璃華と同じ気持ちですし」


「そういうものなんですかね?」


「そういうものですよ。瑠璃華がメイド姿の私をハルと呼ぶのと変わらないです。最初は今みたいな感じでしたが次第に当たり前のように呼んでいたじゃないですか」


 そう言われてみれば確かにそうだった。


「あぁ、そういえばそうでしたね。その……遥」


 その後も呼びなれない呼び方でのぎこちない会話が続いたが、その反動かしばらくわたしと遥は打ち寄せる波の音をBGMに、煌々と輝く月を静かに2人寄り添いながら眺めていた……。


「ねぇ、瑠璃華……」


「何ですか? 遥……」


「呼んでみただけです。ふふ、これ一度やってみたかったんです」


 無邪気な笑顔で遥はわたしにそう言った。呼び捨てで呼び合って以降、遥の機嫌がとてもいい。時折、鼻歌を歌い。今の行動もそうだ。


「遥、機嫌が良いね」


「ふふ、そうですか? なんででしょうね?」


「わたしに聞かれてもわかりませんよ。遥の心が読める訳ではないんですから」


「それもそうですね。もし瑠璃華に私の心を読まれてしまったら、一体瑠璃華はどう思うんでしょうね……」


 何だか気になる言い回しなんだけど……。そう言われてしまうと遥が何を思っているのか気になる。


「それってどういう……」


「ま、まぁ、それについてはいずれ、ね……」


 遥にはぐらかされたわたしはその事について聞くことを諦め、美しく輝く月を見上げる。


「月、綺麗ですね……」


「ふふ、それって私に対しての告白ですか?」


「ふぇ!? ち、違いますよ! ただ純粋に月が綺麗だからそう言っただけですよ! ああもう! どうしてこんな紛らわしい表現で翻訳したんでしょうね」


「ふふ、冗談ですよ、冗談。瑠璃華の言う通り、確かに紛らわしい表現というのはわかります。でも、詩的で私は好きですよ。はぁ、残念だなぁ……」


「遥、何か言った?」


「いいえ。なにも言ってませんよ。あっ、そういえば私、飲み物を持って来ていたんでした。飲みますか?」


 遥は袋からペットボトルのお茶を二本取り出し、その内の一本をわたしに差し出して来る。


「ありがとうございます。ちょうど喉が渇いていたんですよ」


 受け取ったペットボトルはほんのり冷たく、一口飲むと暑さが少しだけ和らいだ。


「ふぅ、そういえば呼び方は変えましたけど、話し方は今まで通りですね」


「それも自然と変わっていくものだと私は思います」


「そうですね。無理に話し方を変えるのも違和感ありますし、わたし達らしくのんびりですね」


「ええ、それが一番ですよ。さて、そろそろ時間も時間ですから片付けて戻りましょうか?」


「そうですね」


 わたし達は花火の後片付けをして別荘に戻った。



 ◆◆◆



 そして現在、わたしと遥は眠る支度をしてベッドに横になっていた。


「ねぇ瑠璃華。別荘でのお泊りはどうでしたか?」


「とても楽しかったです。遥と一緒に海で遊んだり、水族館に行ったり。あと遥の和風メイド姿もすごく良かったです」


 本当に楽しい別荘でのお泊りだった。これからも遥と色々な所へ行けたら良いな……。


「ふふ、それは良かった。私も瑠璃華とこうして気軽に名前を呼び合えるようになって嬉しいです。あっ、実は瑠璃華の誕生日にも瑠璃華に喜んでもらえる様に準備しているんですよ」


「えっ、そうなんですか?」


「ええ、楽しみにしてて下さいね」


「はい、楽しみにします……ふぁあ~。ごめんなさい遥……眠たくなってきちゃいました……」


「いいですよ。私のことは気にせずに眠って下さい。お休みなさい瑠璃華……」


「はい……おやすみなさい、はるか……」


 こうしてわたしは夢の世界へと旅立ち、わたしと遥の別荘での二泊三日のお泊りは幕を閉じた。

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