63話 BBQと花火
無事、別荘へと帰ってきたわたしと遥先輩はシャワーで汗を流した後、ソファーで遥先輩と休んでいたんだけど、疲れからかわたしは意識を手放していた……。
どれ位の時間が経っただろう。わたしの耳に遥先輩の声が聞こえて来た。
「瑠璃華さん、瑠璃華さ~ん。起きて下さい」
耳元で遥先輩の声が聞こえたわたしは、うっすらと目を開ける。どうやら遥先輩に寄り掛かって眠っていたみたい。
「んんっ……。あ、はるかせんぱい……おはようございまふ……」
「ふふ、瑠璃華さん。寝ぼけていますね。もう日が暮れ始めた頃なので起こしたのですが、もう少し寝ていたかったですか?」
遥先輩のその言葉にわたしは窓の外を見ると、茜色に染まった海が見えた。
「……いえ、大丈夫です。もしかして遥先輩は今までずっとわたしに寄り掛かられていたんですか? ごめんなさい。迷惑じゃなかったですか?」
「いえ、実は私も疲れていたからか、瑠璃華さんが眠った後に私も眠ってしまったみたいで、目が覚めたら日が暮れ始めていまして……あはは……」
恥ずかしそうに遥先輩はそう言った。
「そうだったんですね。そういえば、昨日も似たようなことがありましたね」
「ふふ、そうでしたね。でも、今回は私が先に起きましたから、状況は違いますよ」
「確かに。遥先輩の綺麗な寝顔を見られなくて残念です」
「もう、からかわないで下さいよ瑠璃華さん。そんなことを言う瑠璃華さんには、夕食のバーベキューでは、たっぷりと野菜だけを焼いてあげましょう。もちろん、私はお肉をいただきます。あ~あ、残念ですね~。お母さんが良いお肉を用意してくれていたのに……」
遥先輩は残念そうな表情でわたしを見る。
「ごめんなさい遥先輩。もうその事については言いませんから、お肉を……」
「ふふ、冗談ですよ。心配しなくてもちゃんと美味しいお肉を食べさせてあげますから安心して下さい。さぁ、バーベキューの準備をするので手伝ってくれますか?」
「もちろん手伝いますよ。それでわたしは何をすれば良いんですか?」
「いい返事です。それじゃあ、瑠璃華さんには……」
わたしは遥先輩と共にバーベキューの準備を進めて行った。
◆◆◆
バーベキューの準備が整い。わたし達はオープンテラスに置かれていたバーベキューグリルの前に居た。
「準備は出来ましたけど、遥先輩はやったことあるんですか?」
「大丈夫です。この日のためにお父さんから色々と教えて貰いました。それにこれを使えば簡単に炭に火をつけられますから」
そう言って遥先輩はガスバーナーを手に取り、グリルに敷かれた炭に火をつけた。
火をつけて丁度良い温度になるまでしばらく待つ。
「そろそろ良さそうですね。瑠璃華さん始めましょう」
遥先輩は肉や野菜をグリルに並べ、辺りに美味しそうな匂いが漂ってくる。
「美味しそうなお肉ですね。ああ、楽しみ~」
わたしはお皿を持ちながら遥先輩の横で待機している。
「ふふ、もう少しで焼けますから待ってて下さいね」
「は~い。あっ、遥先輩。汗が」
わたしはタオルを手に取り、遥先輩の汗を拭いた。
「ありがとうございます瑠璃華さん。あっ、焼けましたからお皿を出して下さい」
わたしはお皿を差し出し、遥先輩はお皿に焼けた肉や野菜を乗せていく。
「ありがとうございます」
「瑠璃華さん。先に食べていていいですよ」
「わかりました。いただきます」
わたしが最初に手を付けたのは美味しそうなお肉。
とても柔らかく、噛めば噛むほど濃厚な肉汁が口の中に広がる。流石、良いお肉である。わたしの想像以上に美味しい。
「遥先輩、このお肉すごく美味しいです! わたし、こんなに美味しいお肉食べたことありませんよ」
「ふふ、そんなに喜んでくれるとは思いませんでした。沢山焼いてあげますから、ドンドン食べて下さいね」
「はい。でも、それだと遥先輩が食べられないですよね?」
「私は合間をみて食べますので気にしないで下さい」
そう言われてもわたし1人で食べるのは……。あっ、そうだ!
「じゃあ、わたしが遥先輩に食べさせてあげますよ」
「えぇ!? い、いや、そこまでして貰うのは……申し訳ないというか……その……」
どうやら遥先輩は遠慮しているみたいだ。
「わたしだけ食べる方が遥先輩に申し訳ないですから。はい、遥先輩。あ~ん」
わたしはお肉を箸で掴み、遥先輩の口元まで運んでいく。
「えっ、あっ、はい……あ、あ~ん。んんっ……お、美味しいです……」
「ですよね。あっ! このお箸、わたしが使っていたお箸でした。ごめんなさい」
「い、いえ、私は気にしませんので……」
「そうですか? でも、次からは遥先輩用のお箸を用意しますね」
わたしはテーブルにあった新しいお箸とお皿を用意する。
「むぅ……」
お箸とお皿を持って遥先輩の方を向くと、遥先輩は何か言いたげな表情でわたしを見ている。
「遥先輩、どうしました?」
「い、いえ、何でもないです……」
「そうですか?」
遥先輩の反応が気になりつつ、わたしは遥先輩とバーベキューを楽しんだ。
◆◆◆
辺りが暗くなり、夏の暑さが和らいできた頃、バーベキューを終えたわたしと遥先輩はオープンテラスで冷えたジュースを飲みながら、海を眺めていた。
「はぁ~。あのお肉とっても美味しかったです」
「ふふ、そんなに瑠璃華さんのお口にあったのでしたら、食べきれなかったお肉が残っていますから差し上げますよ」
「えっ、良いんですか? やった~、ありがとうございます」
「ふふ、お肉は傷みやすいですから早目に食べて下さいね」
「は~い。それで遥先輩、この後は何をしましょう?」
「そのことですが実はお母さんが花火を用意してくれたんですよ」
「花火ですか? 良いじゃないですか。やりましょうやりましょう」
「それじゃあ、砂浜でやりましょう。私は花火を取って来ます。瑠璃華さんはバケツに水を入れて先に砂浜で待っていてくれますか? バケツはそこにありますから」
「わかりました」
わたしは言われた通り、水の入ったバケツを砂浜まで運び、遥先輩を待った。
しばらく海を眺めたりしながら待っていると、遥先輩が小走りでわたしの所までやって来た。その手には花火の入った袋を持っている。
「瑠璃華さん。持ってきましたので早速始めましょう。どれが良いですか?」
遥先輩はわたしに花火の入った袋を渡してきた。
「う~ん。じゃあ、これにします」
袋から花火を一つ取り出し、袋を遥先輩に返した。
「それじゃあ、火をつけますね」
遥先輩はライターを取り出し、わたしの持っている花火に火を付けた。
火を付けられた花火は瞬く間に光り輝く花を咲かせ、砂浜を明るく照らす。
「綺麗……」
「瑠璃華さん。こっちを向いて下さい」
わたしが花火に気を取られていると不意に遥先輩にそう言われ、わたしは遥先輩の方を向いた。遥先輩はわたしにスマホを向けている。どうやらわたしの写真を撮りたいみたい。
「瑠璃華さん。撮りますのでポーズして下さい」
「えっ、ポーズですか?」
急にそんなことを言われたわたしは、花火を持っていない方の手でピースしてみる。
「ふふ、良いですね。可愛く撮れていますよ」
「そ、そうですか? ピースなんて安直なことしちゃったんですけど」
「大丈夫ですよ。どんな瑠璃華さんでも可愛いですから」
ごく当たり前のような感じで遥先輩は言う。
「えへへ、遥先輩にそう言われると何だか照れちゃいますね。あっ、もう消えちゃった」
わたしは消えた花火をバケツに入れる。
「花火はまだまだありますからね。はい、瑠璃華さん」
遥先輩は袋から花火を取り出し、わたしに差し出す。
「ありがとうございます。遥先輩も一緒にやりましょうよ」
「ふふ、そうですね。思う存分楽しんじゃいましょう」
その後も遥先輩と一緒に色々な花火を楽しみ、今は最後に残っていた定番の線香花火をやっている。
「やっぱり、花火の最後って線香花火ですよね」
「ええ、この儚さの中に美しさがあるのが良いです」
わたしと遥先輩はしゃがみ込み、向かい合いながら線香花火を眺める。
「あっ、消えちゃった……」
わたしの持っていた線香花火が消えてしまった。なんで線香花火って消えると寂しい気持ちになるんだろう……。
「私のもです。残念ですがもう花火はありません」
「そうですか……それじゃあ、片付けましょうか?」
そう言ってわたしは立ち上がる。
「あ、あの瑠璃華さん。その前にお話ししたいことがあるのですが……」
いつになく真剣な表情の遥先輩。
「話したい事ですか?」
「は、はい」
遥先輩の話したい事って何だろう? そう思いながらわたしは遥先輩の話を聞くことにした。




