62話 水族館は楽しいがいっぱい!
「うわぁ~。すごく大きな水槽ですね」
深海の生き物コーナーを後にしたわたし達は、この水族館の目玉の1つである大水槽に来ていた。
「ふふ、そうですね」
「遥先輩、もっと近くに行きましょう」
「瑠璃華さん。そう引っ張らなくても行きますよ」
遥先輩の手を引き、わたし達は大水槽の目の前までやって来た。
大水槽には多くの魚が泳いでいる。その中でも一際目に付くのはジンベイザメ。優雅に水槽内を泳いでいる姿はとても迫力がある。
「ふふ、瑠璃華さん。気に入ったみたいですね」
「あっ、わかりますか?」
「あんなに目を輝かせて水槽を見ているのですからわかりますよ」
「えへへ、そんなにわかり易いリアクションをしていたんですね。でも、この水槽を見たら誰だってわたしみたいになりますよ」
「そうかも知れませんね。あっ、そうです。水槽を背にして写真撮りましょう」
そう言って遥先輩はスマホを取り出した。
「いいですね。撮るならもっと近づいた方が良いですよね?」
わたしは遥先輩に密着する。
「あっ……そ、それじゃあ、撮りますね」
遥先輩のスマホからシャッター音が鳴る。上手く撮れてるかな?
「どうですか? 撮れましたか?」
「ええ、綺麗に撮れてますね。どうでしょう?」
遥先輩はわたしにスマホの画面を向ける。
スマホの画面を見てみると、わたしと遥先輩の後ろにジンベイザメが綺麗に収まっていた。想像以上に良い写真だ。
「ホントだ。綺麗に撮れてますね。この調子でもっと撮りましょうよ。折角、水族館に来たんですから」
「そうですね。そうしましょう」
わたし達はしばらくの間、水槽内の様々な魚を背景に写真を撮り続けた。
「遥先輩、良い写真が沢山撮れましたね。後でわたしに送って下さいね」
「ええ、もちろん良いですよ。でも、流石に少し疲れましたね。どうでしょう、先ほど言ったカフェで休憩しませんか?」
「そうですね。わたしも少し疲れちゃいましたし行きましょうか。カフェに」
わたし達は大水槽の近くにあるカフェへと移動した。
カフェに到着したわたし達は注文を済ませ、受け取ったドリンクを持って空いている席に座る。
「ふぅ~。やっと、ひと息つけますね」
わたしは購入したブルーハワイソーダフロートを飲み、上に乗っているバニラアイスをスプーンで掬い取り食べる。甘くて美味しい……。
「この広い館内を歩き周ってましたからね。しばらくここで水槽を眺めながらゆっくりしましょう」
そう言った遥先輩は水槽を眺めながら、鮮やかな青色をしたアイスハーブティーを飲んでいる。
あんなに綺麗な青色をしたハーブティーってあるんだ。一体どんな味がするのか気になる……。
「遥先輩、それってハーブティーなんですよね?」
「ええ、そうですよ。この綺麗な青色はマロウブルーと言うハーブの影響なんですよ」
「へぇ~。そういうハーブがあるんですね。どんな味がするんですか?」
「味ですか? 実はマロウブルーは味が全くしないんです。だから基本的には他のハーブとブレンドするんですよ。私が今飲んでいるのはレモングラスとのブレンドティーですね。なので、レモンの様な爽やかな味ですね。一口飲んでみますか?」
遥先輩はわたしの方にカップを差し出す。
「良いんですか? それじゃあ……」
わたしは遥先輩からカップを受け取り一口飲んでみる。
確かにレモンの様な爽やかな味がして美味しい。
「ありがとうございます。これ美味しいですね」
「ふふ、瑠璃華さんのお口に合ったようですね。実はこのハーブティーには秘密があるんですよ」
「秘密ですか?」
「ええ、これにレモンなどの柑橘類のしぼり汁をこうやって混ぜるとですね……」
遥先輩は容器に入ったレモン汁をハーブティーに入れる。
すると綺麗な青色が淡い紫色に変化し始めた。
「へぇ~。青から紫に色が変わるんですね。面白い……」
「ふふ、そう思いますよね。もう少し見ていて下さい」
そう言って遥先輩はさらにかき混ぜると紫からピンクに変わる。
「すごい……」
「そうでしょう。私も初めて見た時は驚きました。このカフェの商品紹介では輝く青い海から夕日に照らされた海に変化するハーブティーと紹介していましたね」
「そう言われると確かに……」
「そういえば、ここに来て初めてこのハーブティーの色の変化を見た時に、奏が言ってたんですよ。ふふ……」
遥先輩は何かを思い出したように笑っている。奏ちゃんは一体これを見てなんと言ったんだろう?
「奏ちゃんはなんて言ったんですか?」
「奏はこれを見て『赤潮みたい』って言ったんですよ。ふふ、確かにそう見えるかもと少し思ってしまいましたね」
流石、奏ちゃん。個性的な感性である。
「まぁ、わからなくも無いですけど。雰囲気は台無しですね。あはは」
そんな感じでわたし達は水槽の見えるカフェでしばらく休憩した。
◆◆◆
十分に休憩してカフェを後にしたわたし達は、この水族館のもう一つの目玉である水中トンネルへとやって来た。
「ここが水中トンネル……」
「どうですか? まるで水中に居るような感覚になるでしょう」
「はい。すっごく良い場所ですね。遥先輩の言う通り、本当に水の中に居るみたいです」
見上げれば、わたしの頭上を大きな魚やウミガメが優雅に泳いでいく。この水中トンネルは大水槽とはまた違う魅力があり、何時までもここに居たいと思ってしまうほどだ。
ここで写真を撮れば、とても良い物が撮れそうだ。
「遥先輩、ここでも写真を撮りましょう。きっと良い写真が撮れますよ」
「ええ、そうしましょう。それじゃあ、スマホを……」
「あっ、遥先輩。今度はわたしが撮りますよ」
そう言ってわたしはスマホを取り出し撮影モードにする。
「そうですか? それではお願いしますね」
「はい、任せて下さい。遥先輩、撮りますからもう少しわたしに寄って下さい」
「えっと、こうですか?」
遥先輩はわたしに寄り掛かるように密着して来る。
「良いですよ。それじゃあ撮りますね……」
わたし達と水槽がしっかりと写っていることを確認して撮影ボタンをタップする。
「撮れましたよ。どうですかね? 遥先輩」
わたしは遥先輩にスマホの画面を向ける。
「良いですね。ウミガメも綺麗に写ってますし、とても素敵な写真だと思いますよ」
遥先輩がわたしの撮った写真を褒めてくれた。嬉しい……。
「えへへ、遥先輩に褒めて貰えて嬉しいです。この調子でもっと撮りましょう」
「そうですね。素敵な写真を期待してますよ。瑠璃華さん」
わたし達は水中トンネルを移動しながら写真撮影を続け、気が付けば水中トンネルの出口に辿り着いていた。
「トンネルの出口まで来ちゃいましたね……」
「そうですね。名残惜しいですが行きましょうか」
「はい、それで次は何処に行きますか?」
「時間的にはそろそろイルカショーが始まる時間ですけど、どうしますか?」
「良いですねイルカショー。行きましょう」
「それじゃあ、次はイルカショーですね」
わたし達は水中トンネルを後にして、イルカショーの行われる屋外へと向かった。
◆◆◆
屋外に出ると夏の暑さがわたし達を出迎えた。
「やっぱり、外は暑いですね」
「そうですね。帽子を持ってくれば良かったかも知れません」
遥先輩は暑そうにパンフレットでパタパタと扇いでいる。
イルカショーが行われる場所へと向かっている途中で、わたしの好きなペンギンを見つけた。
「わぁ、ペンギンですよ遥先輩。かわいい……」
わたしは手すりまで駆け寄り、ヨタヨタと歩くペンギンを眺める。姿がとてもかわいい。
「ふふ、そういえば瑠璃華さんはペンギンが好きでしたね。まだショーが始まるまで余裕がありますから、気にしないで下さい」
そう言われたわたしはペンギンを眺める。
ペンギンはヨタヨタと陸では可愛らしく歩くのに、水中ではとても素早く動いてカッコ良い、とても素敵な生き物だ。見ていて全く飽きる気がしない。
「本当に瑠璃華さんはペンギンが好きなんですね」
「はい! 大好きです!」
「そんなにですか……う、羨ましい……」
「遥先輩、何か言いましたか?」
「い、いえ、なんでもありません。私のことは気にせず、思う存分ペンギンを堪能して下さい」
「そうですか?」
わたしはペンギンの方に向き直り、スマホを取り出して気が済むまで撮影した。唯一心残りだったのは、餌やりタイムを逃してしまっていたことである。無念……。
そんなわたしだったが、イルカショーが行われる会場に到着すれば、頭の中はイルカのことしか考えていなかった。実に単純な頭である。
今、わたし達が座っているのは観客席のちょうど真ん中当たり。ここなら水が掛かることは無いだろうという考えでここに決めた。
「もう直ぐ始まりますよ遥先輩」
「ふふ、そうですね」
そして始まったイルカショー。イルカが器用にボールを持った状態で立ち泳ぎをしたり、トレーナーの合図で一斉にジャンプしたりなど、圧巻のパフォーマンスの数々にわたしのテンションも上がりっぱなしである。
そんな時、イルカショーでは定番とも言える。イルカによる観客席に対する水かけが始まったのだが、想像以上の水量が観客席を襲い。わたし達にも少なからず掛かってしまった。
「まさか、ここまで水が来るとは思いませんでした……。念のためにタオルを持って来ていて良かった……」
イルカショーが終了した後、遥先輩はそう言いながらタオルを取り出した。
「でも、暑かったのでこれで少しは涼しくなりましたね。それにこの暑さですし直ぐに乾きますよ」
「まぁ、確かに……でも流石に拭ける分は拭かないと……瑠璃華さんジッとしてて下さい」
そう言って遥先輩はタオルでわたしの頭などを拭いてくれた。
「ありがとうございます。遥先輩」
「良いんですよ。それじゃあ、最後にお土産を買いましょう」
「そうですね。行きましょう」
わたし達はイルカショーの会場を後にして、水族館のショップへと向かった。
◆◆◆
「あぁ~涼しい……」
エアコンの有難みを感じながら店内を進んでいく。
「さて、瑠璃華さん。お土産はどうしますか? 私は家族と友達に買う予定です」
「わたしは恵梨香と凛子と奏ちゃんにです。お菓子が良いかな?」
「クッキーなどのお菓子であれば賞味期限も長いですし、お土産に良いと思いますよ」
「そうですね。それじゃあ、3人のお土産はお菓子にします」
わたし達はお菓子コーナーへ向かい。お土産に良さそうな物をカゴに入れていく。
「みんなへのお土産はこれでよし。遥先輩は決まりましたか?」
「ええ、私も決めました。後は私達の欲しい物を買いましょう」
「そうしましょう。ペンギンのグッズがあれば良いな~」
店内を見て周っているとわたしの求めていたペンギンのコーナーがあった。
どれも可愛くて目移りする。どれにしよう?
「瑠璃華さん。何か欲しい物はありましたか?」
「沢山あってどれにしようか迷ってます。あっ、このキーホルダーかわいい」
わたしが手に取ったのはデフォルメされたペンギンのキーホルダー。
「これが気に入ったんですか?」
「はい、とってもかわいくて気に入っちゃいました」
「そんなに気に入ったのであればそのキーホルダー、私が買って瑠璃華さんにプレゼントしますよ」
「えっ、嬉しいですけど。本当に良いんですか?」
「もちろんです。瑠璃華さんが喜んでくれるなら」
そう言って遥先輩はカゴにキーホルダーを入れる。
遥先輩がわたしにプレゼントしてくれるんだから、わたしも何か遥先輩の欲しい物を買おう。そう考えたわたしは遥先輩に聞いてみる。
「あ、あの遥先輩」
「なんですか? 他に欲しい物があるんですか?」
「違います。わたしも遥先輩にプレゼントしたいので欲しい物を言って下さい」
「えっ、私はいいですよ。気にしないで下さい」
「いいえ、いつもお世話になっている遥先輩に感謝の気持ちとして何かしたいんです。だから、遠慮なく言って下さい。わたしも遥先輩にプレゼントしたいです」
「そ、そうですか? 瑠璃華さんがそこまで言うのであれば……。こ、これを……」
そう言って遥先輩が指さしたのは、わたしが気に入ったキーホルダーだった。
「わたしと同じ物で良いんですか? 他の物でも良いですけど?」
「えっと、その……る、瑠璃華さんとお揃いの物が良いです……だから、これが良いです……」
そう言って遥先輩はキーホルダーを手に取りわたしに渡してきた。
「それじゃあ、これをプレゼントしますね」
わたし達はレジへと向かい会計を済ませてショップを出て、近くにあったベンチに腰掛けた。
「はい、遥先輩」
わたしは購入したキーホルダーを遥先輩に差し出す。
「ありがとうございます瑠璃華さん。それじゃあ、私も瑠璃華さんにこれを……」
わたしは差し出されたキーホルダーを受け取る。
「なんか、ただの交換みたいになっちゃいましたね」
「ふふ、良いんですよ。同じ物を渡し合ったとしても、その人が買って渡すことに意味があるんです。大切にしますね瑠璃華さん」
「確かにそうですね。わたしも大事にします」
「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか? あっ、でもその前に遅めのお昼を食べましょう。実はこの近くに新鮮な海鮮丼を出すお店があるんですよ」
「良いですね。実はわたし、魚を見ていたら無性に食べたかったんですよ」
「ふふ、それは良かった。それじゃあ、早速向かいましょう」
わたし達は水族館を後に、遥先輩の言っていたお店へと向かった。
ちなみにそのお店の海鮮丼は、まるで宝石箱に入った宝石のようにキラキラと魚が輝いて見えるほどに新鮮で、とても美味しかった……。




